金星が導くスポットライト

突然始まり突然終わったスリーライツのミニコンサート。ファンからはスリーライツコールが鳴り止まない。
美奈子ももっと聴いていたかったし、同じステージにたっていたかったが、仕方がない。気を取り直して美奈子が言葉を発する。

「あっちゃ〜!スリーライツに時間埋めてもらってもまだ後30分余っちゃってるぅ。こりゃあもう一人、特別ゲストに来てもらうしか、無いわねぇ~」

暗い顔をしながら芝居がかって言うと会場からは“またか”と言う空気が流れる。
またスリーライツが戻って来るか、スリーライツ以上のゲストでないともう客も満足出来なくなっている。
もう、いっその事スリーライツと美奈子でコラボをして欲しいとさえ思う人も少なくなかった。
しかし、そんな空気は又しても流れたメロディーにより一変した。

“うそ?”
“この曲って……”
“もしかして……”
“まさか、なの?”

人々は耳を疑った。流れてきた曲はスリーライツと同等。いや、それ以上の伝説のアイドルの曲だった。
まさか、いや、でも、彼は映画撮影中の事故で再起不能のはず。
いや、しかし、美奈子はスリーライツを呼んだ実績と奇跡をたった今、見せてくれたでは無いか。なら、この人の復活も有り得るのでは?
でも、こんなタイミングよく復活出来るだろうか?と人々は疑った。
しかし、人々の半信半疑とは裏腹に、曲に乗り“彼”がやって来た。人気のあったあの怪盗の衣装に身を包んだ“彼”がーー

「みんな、久しぶり〜!最上エース、いや、怪盗エースが今宵、美奈子ごとファンの心を盗みに来たぜ♡」

美奈子が立っていたスタンドマイクに立ったエースは、その甘いマスクで怪盗設定に相応しいセリフを吐きながらウインクをして投げキッスを会場へと飛ばす。
その姿は紛れもない最上エースで、慣れたものだった。
エースの行動に、女性ファンはウットリとしたため息を漏らし、本当に心を盗まれた様だ。

「手始めに一曲聴いてくれ!“レインボー・チョコ”」

エースがブレイクを果たし、一躍スターダムへと駆け上がり代表曲となった歌を軽やかに歌い始める。
ブランクがあったとは思わせない歌声に、その曲のタイトル通り観客はチョコのように溶けそうだった。
ブランクを感じさせない佇まいは一番星の様に輝きを放っていた。
曲を歌い終えるとMCが始まる。

「スリーライツの繰り返しになるけど……
先ずは、こうしてこの場でライブを出来るように企画して尽力してくれた美奈子、ありがとう♪」
「いーの、いーの!私もエースのライブ、見たかったし、一緒のステージに経ちたかったんだもん♪
こっちこそ引き受けて一緒にステージに立ってくれてありがとう」

スリーライツと同じタイミングでエースの出演も美奈子が関係者とマネージャーに提案し、掛け合った。
マネージャーはスリーライツだけではなく、エースにもコネがある事に驚き、一体美奈子はどう言う人なんだと不思議に思った。
デビュー1年未満の時は漫画家の舞らいだるとも知り合いで、オファーを貰い映画出演も果たした事を思い出した。
錚々たるメンツと知り合いの美奈子は、やはり芸能人として大成する素質があるとマネージャーは改めて担当して良かったと思ったとか。

「ところでエース、ぜんっぜん!外見、変わんないねぇ〜」
「痛いところ、付いてくるよな。ずっと長く昏睡状態だったんだ」
「なるほど〜、“眠れる森の美少年”って奴だったのね。寝てると成長も止まるのね」
「美奈子、上手いこと言うよな」
「ふふっまぁねぇ〜」

美奈子はすかさず外見を指摘した。昏睡状態で寝ていた事にする事で変わっていないことを上手く説明し、回避した。
このやり取りはテンポもよく、まるで夫婦漫才の様で、暗いはずの話が一転、明るく面白い話となり、会場は爆笑の渦となった。
直前に美奈子とエースで軽く打ち合わせしたもので、二人の技術の賜物だった。
実際の所は死んだエースを美奈子が自身のクリスタルで蘇らせたのだ。

「俺も何だかんだで後二曲なんだ。最後まで楽しんでいってくれ」

エースがそう告げると会場からは落胆の声が響く。
しかし、エースが歌い出すと一転、一言一句聞き逃すまいと静かに聴き入った。
そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、エースは歌い終わってしまった。

「今日は楽しい時間をありがとう。忘れないでいてくれて、嬉しかったよ。
じゃあ、正真正銘美奈子にライブを返すよ。
それじゃあ、最上エースでした!」

トレードマークであるマスクを脱ぐと、会場へと投げてエースは軽快にはけて行った。
もう戻らないと分かりつつも、会場は一体となり、エースコールが鳴り響く。

「エースのお陰で時間がいい感じで残り少なくなったわ。寂しいけれど、後一曲で終わり!」

再び中央のスタンドマイクの前に美奈子が立ち、そう言うと再び観客が美奈子コールをし始めた。そのコールを聴きながら美奈子は最後の曲を気持ちを込めて歌い上げる。
そして、終わると、“ありがとう”と言いながらバックステージへと歩いて行った。
姿が見えなくなると、誰からとも無くアンコールが鳴り響く。


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