金星が導くスポットライト
遂にこの日がやって来た。
芸能界に入り、CDデビューをして着実に活動をしてファンを増やしてきた。
歌手だけではなく、バラエティーにも積極的に出演をして爪痕も残した。人気も出てきた。
ファーストアルバムを出すタイミングで、マネージャーから美奈子へご褒美の様な朗報が伝えられた。それはーーー
「ファーストライブが決定した」
興奮気味でそう伝えられた美奈子は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚いた。
ライブの日程はそれから3ヶ月後。
場所は東京○術劇場。決して大きな箱では無いが、ライブ経験のない美奈子としては充分過ぎるほど、素敵な会場だった。
ライブに向けて忙しい日々が始まった。
そして、あっという間にライブ当日を迎えた。
「うわぁ~、緊張して来たぁ~」
リハーサルを終え衣装に身を包みスタンバイをすると、いよいよライブが始まると実感した美奈子は緊張がピークに達していた。
「大丈夫!みんな私のファン!味方だらけなんだから不安なことなんて何にもないわ」
明るくて社交的な美奈子とて緊張はするし、不安にもなる。
そんな気持ちを、奮い立たす様に自身に鼓舞する。
十分な準備をして来た。歌詞もダンスも完璧に覚えたし、セットリストも叩き込んでいる。勿論、MCも考えてきた。
後はステージに上がって歌うだけだ。
「愛野さん、お時間です」
スタンバイしていた時に聞こえて来ていた歓声は、静かになり歌手 愛野美奈子の登場を今か今かと待っていた。
最初の曲がなり始める。そのタイミングで美奈子は中央に置かれたマイクへと一直線に歩いて行く。
美奈子の姿を見たファン達が一斉に立ち上がり、名前を叫んだ。ボルテージは最高潮に達する。
最初の曲“I’m gonna be an IDOL!”でアイドル美奈子として会場のファンの心をわしずかみにする。と同時に歌声で盛り上げる。
美奈子が歌い始めると、各々歌に合わせてリズムを取ったり口ずさんだり。会場はファン同士で一体感が生まれる。
「愛野美奈子でーす♪盛り上がってるぅ~?」
一曲歌い終わった美奈子は、ここで一呼吸してMCの時間を取る。
先ずは最初の挨拶をと考えたのだ。
美奈子の問いかけに、黄色いやら黒い声援でファンが答える。それを聞いた美奈子は安堵し、心からの笑顔を見せる。
「みんな、ありがとう♪ファーストアルバム、買ってくれたかな?」
“おーーー”
またまた美奈子が会場に問いかけると、割れんばかりの声援。歌手デビューから2年近く。待望のアルバム発売だっただけに、ファンは複数買いをしていて、オリコンは初登場堂々の一位となっていた。
その好調な売れ行きも加味されて、今回このライブの開催がもちかけられたのだ。美奈子自身も売り上げが好調なのを肌で感じていた。
「今日はそのアルバムを中心にガンガン、歌うからよろしくね」
ウインクをしながら右手で投げキッスをすると、また完成が上がる。
当然ながら美奈子は気持ち良くて有頂天だった。
「じゃあ、次の曲から数曲ずつ歌います!続いて聞いて下さい。“肩越しに金星”」
一曲目が王道のアイドル曲だった為、二曲目はバラードで酔わせる。一曲目は皆一緒に歌っていたが、二曲目はみな聞き入っていた。
そして三曲目は“ルート・ヴィーナス”、四曲目は“セ・ラ・ヴィ”とまたテンポのいい曲で盛り上げて行く。
そして五曲目の“ハートが飛んじゃう空だから”を歌っている時に、ハート型の風船を飛ばすと言う演出をする。会場は、掴もうと必死になる。
その風船がある程度行き渡ったところでもう一度MCが入る。
「四曲、ぶっ通しで聴いてもらいました~。五曲目で飛んだ風船、みんな受け取ってくれたかな?」
この美奈子の問いかけに、みな一斉に手に持っている風船を高く持ち上げて美奈子に見せる形を取る。
「これは、私からの気持ちよ♡全部の風船にサインが書いてあるから、ちゃんと家まで持って帰ってよね。間違っても、捨てちゃ、ダメだからね!美奈子、泣いちゃうんだから」
泣き顔の芝居をしながら楽しそうに言及する。
「だって、一つ一つ想いを込めて書いたんだもん!右手が懸賞金になったんだから」
「腱鞘炎!」
美奈子の間違いに会場からすかさずツッコミが入り、ドッと笑いに包まれる。
「わ、わざとよ!わざと!風船を捨てたら環境に良くないでしょ?私の死んだ右手のためにもコレクションとして持って帰る事!美奈子からのお願いね」
はーいと美奈子のお願いに会場の人々は答えた。
「じゃあまた歌うね」
ここからはスタンドからマイクを外し、ダンスナンバーを三曲歌いながら所狭しと美奈子がステージを走り回る。
美奈子が手を振ると、それに合わせて会場の人達も手を振る。ライブ特有の一体感がそこにはあった。
歌いながらその様子を見ていた美奈子は、自分だけのコールアンドレスポンスや決まり事があればもっと素敵だし盛り上がるなと考えた。しかし、初めてのライブともあってそこまで考えて決める余裕は無かった。
更にそこからMCを交えながらも順調にライブは進んで行き、一時間をすぎた頃だった。
歌い終わると、美奈子はマイクを持ち、神妙な面持ちでこうMCを始めた。
「あっちゃ〜。二時間あるのに、一時間でもうほとんど持ち歌、歌っちゃったぁ〜。どーしよー。うっかり美奈子、てへぺろ」
アルバムの曲を中心に、順調に消化していた。そして、本当に後二曲で持ち歌がなくなってしまうと言うところまで来ていた。
「さて、どうしようかって話なんだけど、美奈子から提案!ゲスト、呼んじゃってもいいかな?」
持ち歌がないと不安を煽った美奈子に会場も二時間待たずに終わるのか?とテンションが落ちる会場の人達。
しかし、美奈子の更なる言葉に会場の人達はどよめいた。美奈子を見に来ているのであり、違う人で代わりが勤まるとは思えない。美奈子が見たいのだ。
それでも美奈子が呼びたいゲストとは誰なんだろうか?美奈子程の大物か、それ以上でなければ納得がいかない。