A美奈SSログ




『生まれ変わって来た意味』

「お主の名は今日からダンブライトだ。ダークキングダムの為に、これから大いに役立つがよい」

目覚めた俺に、女首領であるクイン・ベリルからそう名付けられた。
直前の記憶は消されたのか、無く。自分が何者かも分からぬまま。
わけも分からず俺はこの日からダークキングダムの末端で働く日々。

クイン・ベリルに最も近い四天王の一人、クンツァイト直属の配下として、良き部下として働いていた。

何の変哲も疑問も無く、これが当たり前の日々だと思っていた。

しかし、実際は塗り替えられた記憶の中、悪人として働いているだけに過ぎない。そう気づいたのはセーラーVと言う正義の戦士が現れた辺りからだった。

その頃から俺は、徐々に記憶を取り戻していた。ダークキングダムに来る以前の普通の俺の生活。では無く、前世の記憶だ。

何故そう気付いたのかは、理屈ではない。
この城とはまるで違う城でクンツァイト様の下で働いていたり。覚えのない場所に立っていたり。
断片的ではあるが、凡そ今の日本とはかけ離れた景色や服装で、前世なんだと判断した。何より、懐かしさを感じた。

そしてもう一つ、大切な記憶。
前世の母星の姫君、プリンセス・ヴィーナスへの密かな恋心。
彼女を思い出す度、胸が苦しくなる。そして気持ちが高揚する。こんな気持ちは初めてだった。
まだ金星にいた頃、ずっと恋焦がれていた。
いつか彼女と恋仲に、なんて恐れ多くも淡い期待を抱いていた。
そして、いつしかその思いは暴走し、プリンセス・ヴィーナスの恋人は俺が相応しいと勘違いし、幻の恋人だと信じていた。

しかし、そんな事を考えていたからか、天罰が下る事になってしまった。

初めてお目にかかった日、我が姫君には想い人がいる事に気づいてしまった。
その相手が、事もあろうかクンツァイト様だった。クンツァイト様もまたヴィーナス様を慕っていると気づいてしまった。
己の無力さに呪った。
会えない立場の自分がもどかしくなった。

何がダンブライトだ。
俺の本当の名はアドニスだ。
金星人であり、地球には戦争で駆り出されただけに過ぎない。
金星にずっと留まっておけば、ヴィーナス様に会うチャンスはあっただろう。
己の立場が呪わしい。
ただの末端兵士なのが、苦しい。

ダンブライトとしてもクンツァイト様の直属の配下とは……。運命とは皮肉なものだと思った。

そして、ダンブライトとして敵対していたセーラーVが、ヴィーナス様の生まれ変わりだなんて。これもまた運命か?

しかし、クンツァイト様もヴィーナス様も前世の記憶が蘇ってない様子。これは俺に与えられたチャンスか?そう単純に嬉しくなった。

クンツァイト様を出し抜き、ヴィーナス様に近づくチャンス。クンツァイト様には渡さない!前世とは違う!
そして今度こそヴィーナス様の本物の恋人に。きっとそれが生まれ変わってきた俺の意味だと思うからーー。



おわり


2025.01.02

ダンブライト生誕祭2025
(ダンブライト誕生石より)


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