A美奈SSログ



前世でセーラーヴィーナスととても親しかったのはクンツァイト様だったと記憶している。
だけど、今目の前にいるクンツァイト様は忘れたままなのか、知らない様子だった。

ダンブライトとしてクンツァイト様直属の配下として働く中で俺は失くしていた前世の記憶を取り戻していた。
その中でもとても鮮明に覚えていたのは僕が恋焦がれていた母星のプリンセス、セーラーヴィーナスとクンツァイト様の関係性だった。
実際はタイミングが悪いのか現場をしょっちゅう見てはいなかったからどこまでの関係かは推測の領域でしか無いけれど、とても親しく見えていた。

「クンツァイト様はヴィーナス様と仲がよろしいんですね」
「ヴィーナスを知っているのか?……嗚呼、そうか、お前は金星出身だったな。愚問だったな……」
「はい、憧れの女性です」
「そうか……」

何度かヴィーナスの話を振ったことがあったが、その度にポーカーフェイスを崩さず、事務的にはぐらかされる始末。
マウントを取っているのに、何を考えているのか?どう思っているのか?さっぱり心の内が読み取れなかった。
ヴィーナスを見る顔は明らかにとても穏やかで優しい顔をしていて好意がある様に見えていた。
……そりゃあ人によって違う顔をするのは俺も経験があるから分かるけど。ましてや男と女じゃ顔つきが変わって当たり前か?
クンツァイト様も結局はただの男だ。

王子エンディミオンを護る四天王リーダーである以上、一筋芯の通った人だという印象がずっとあった。
王子の良き相談相手で時に兄の様に、時に親友、ある時は父と何役もこなし、王子に忠実でいついかなる時も味方でいるのだと思っていた。

しかし、実際は違っていた。
太陽の活動がやけに活発になっていた時から徐々に異変が始まり、地球国の人々がおかしくなっていた。
勿論、四天王もおかしくなっていた。
そしてクンツァイト様も……。
ただ一人、王子だけは正気を保っていた。

王子や俺の説得も虚しく、聞く耳を持ってはくれず、正気に戻ることなく、月へと攻めていってしまった。
あれ程親しくしていたのに何故?
とても悔しかった。
止められなかった俺は、決心して後を追いかけて月へと向かったけれど、目の前の光景はまさに惨劇。
必死にヴィーナスを探しながら安否を気にかけていた。

そしてヴィーナスを見つけた俺の目の前に飛び込んできた光景は正にいつも大切に持っていた聖剣でクンツァイト様を殺そうとしている所だった。
なんて事だ……と思ったと同時に、自業自得だとも冷静に思っていた。
最後まで王子やヴィーナスの味方をしていればこんな結末にはならなかっただろう。

部下の俺の気持ちも知らず、ヴィーナスと親しくしていた結果、バチが当たったんだ。
これからは邪魔者なしでヴィーナス様に近づける、そう考えていたら優しく暖かく力強い光に包まれ、そこで前世の記憶は途切れてしまった。

結局最後までヴィーナスに近付くことなく恋焦がれ、片思いのまま終わってしまった。
その想いが余程強かったのか、鮮明に彼女への想いが溢れて探し求めていた。彼女がこの世にいるかどうかも分からないのに……。
だけど、確信していた。クンツァイト様も転生して、また前世と同じ様に直属の配下として働いていることが更なる確信へと繋がっていた。
きっと彼女もまたプリンセスを護るリーダーとして使命をまっとうしているのだろう。
ならば自ずと出会い、敵として戦う事になるんだろう。

そう思って暫く経ったある日、セーラーVを名乗る美人戦士が現れ苦戦を強いられる事になった。その姿を一目見ると、かつてのコスチュームは違っていたが、セーラーヴィーナスその人だと気付いた。
その事をクンツァイト様に報告しに行くが、素っ気なかった。

「セーラーヴィーナス?知らないな。誰だ、そいつは?」
「……」

恐らく記憶を取り戻していないのだろう。
記憶を取り戻す前にまた敵の手に落ちてセーラーヴィーナス様と敵対するのだろう。
裏切った代償だな。また戦って殺されればいい。
前世で敵の手に落ちて洗脳された時から、いや、ヴィーナス様との事を知った時から俺は貴方に忠実な部下である反面、ずっと憎んで生きてきた。
復讐の機会を伺っていた。
そして今、それが叶うかもしれないところまで来ている。

前世では最も近い存在で、どれだけお互い想いあっていて俺より遥かにリードしていたか知らないけど、記憶が戻っていないならこちらとしては好都合だ。
せっかく今度は俺が肩を並べ、彼女と対等に戦い、認識して貰えるよう関係を築き上げてきたのだから。
わざわざ忘れてる前世でのヴィーナスへの想いや、裏切りの数々、誰が教えてやるものか!
記憶を取り戻した時、悔しがればいい。
それまでセーラーヴィーナスの生まれ変わりである美奈子との距離をもっと縮めてクンツァイト様と言えど間に入れないよう完膚なきまでに親密になってやる!
悔しければ早く前世の記憶を取り戻すんだな、クンツァイト様!


だから絶対!教えてあげないよ、ジャン!




おわり

20241013


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