A美奈SSログ




『Pretender(A美奈)』



美奈子とのラブストーリーはやっぱり予想通りだ。始まってしまえば僕の一人芝居。
ずっとそばにいたって結局は一人で舞い上がって君を見ているだけ。
有名人は僕の方なのに、憧れが強いのも恋をしているのも僕の方。

確信のない曖昧な“好きよ”
聞けただけで上出来で、慣れてしまえば悪くないけれど、美奈子とのロマンスは人生柄続かないと悟った。

また戦士をしている美奈子。
敵側へと落ちてしまった僕。
その中で、だからこそ出逢えた僕達。
前世の事を考えたらそれでもこの設定は喜ぶべき展開なのだけれど。やはり彼女は、まだ目覚めていなくても心のどこかで違う誰かを見ていて。それが伝わって来るからこそ、切ない。

もっと違う設定で、もっと違う関係で出逢える世界線を選べたら良かったのに。
例えば普通に学生で、互いに使命など関係なく青春を謳歌出来る設定だったり。
例えば幼なじみで、小さい時から知っていて、お互いしか見えていなくて、親も公認で将来を共に歩んで行ったり。
例えば不良か執拗いナンパ男に絡まれて困っている彼女を華麗に助けて恋に落ちるとか。
普通の設定だったらどれ程良かっただろう。

もっと違う性格で、もっと違う価値観で愛を伝えられたらいいのにな。そう願っても無駄だから、辛い。
でも、何度生まれ変わってもきっと互いにこんな生き方しかできないから仕方がないのかもしれない。

「グッバイ!」

美奈子の運命の人は僕じゃない。
辛いけれど否めない。
でも、離れ難いんだ。
その髪に、身体に、唇に触れただけで痛いや。いやでも、甘いな。いやいや!

「グッバイ!」

それじゃあ僕にとって美奈子は何?
答えは分からない。分かりたくもない。
たった一つ確かな事があるとするのならば、“美奈子は綺麗だ”

もっと違う設定で、もっと違う関係で出逢える世界線を選べたらどれだけ楽だっただろうか。
至って純粋な心で叶った恋を抱き締めて、“好きだ。付き合って欲しい”とか無責任に言えたらいいのに。そう願っても虚しいだけなのに。

美奈子の心の中にはいつも決まって誰か特定の運命の人がいて、それは絶対僕ではなくて。そこに僕が入る隙なんてどこにもなくて。愛の女神にここまで思われているその人が、本当に羨ましかった。
それは今も同じで。目覚めていなくても彼女の心はその人で占められている。
僕を恋愛対象として見てくれることはこの先も無いと分かってしまったから、しんどい。彼女の側にはいられない。

「グッバイ!」

繋いだ手の向こうにエンドライン。
引き伸ばす度に疼きだす未来には美奈子はいない。
その事実に泣ける。そりゃあ苦しいよな。

だから自分で手放した。
美奈子と歩む未来がないなら死んだ方がマシだから。この結末が一番僕が救われるから。

「グッバイ!」

美奈子の運命の人は僕じゃない。
辛いけれど否めない。
でも離れ難い。
その髪や身体や唇に触れただけで痛いや。いやでも。甘いな。いやいや!

「グッバイ!」

それじゃあ僕にとって美奈子は何?
答えは分からない。分かりたくもない。
たったひとつ確かな事があるとするのならば……

「美奈子はいつも綺麗だ」

当然だよな。美の女神の生まれ変わりなのだから。
ずっと憧れていた。美しき女神であるヴィーナスに。
昔からずっと憧れていた。でも、昔も結局手の届かぬ存在で、お目にかかることすら叶わなかった。
だから今世ではと近づいたけれど、結局僕を見てくれているようで、やはり本当に好きにはなってくれなかった。
やはり交わらないのか。

それもこれもロマンスの定めなのなら、悪くないよな。
永遠も約束もないけれど……
やっぱり美奈子は、セーラーヴィーナスは……

「とても綺麗だ」




おわり

20240515 Official髭男dism/プリテンダー発売から5年


14/14ページ
スキ