生まれ変わったら好きな人の子供になっていた件


「クンツァイト様」

ある日、俺は意を決してパパをその名で呼んでみた。

「アドニス、やはりお前か?」

眉を微かにピクっと動かしたかと思うと、余り動揺すること無くそう問われた。驚かせるはずが、逆にこっちが驚いた。
やはり、食えない人だ。

「……分かってたん、ですね?」
「ああ」

俺の問いかけに、なおも短く答えるクンツァイト様。相変わらず口下手の言葉足らずだ。まあ、そこがこの人のいいところだけど。

「お前の言動。顔が日に日にアドニスに似ていると感じていた」
「ああ、なるほど」

そう言う事かと妙に納得する短いクンツァイト様の見解。
クンツァイト様の言う通り、言動だけではなく、俺は日に日にアドニスの顔になっていた。それが決定打だった様だ。
俺自身も、記憶が戻ったのはダンブライトとして前世の記憶を取り戻したのと同じタイミングだったから。ダンブライトの俺と海人としての俺はかなりシンクロしているみたいだ。

「いつからだ?」
「記憶が蘇ったのは、最近」
「幼少期の言動は?」
「海人としての本音、です」

ここからはクンツァイト様のターンだった。二つの記憶を持っていても、クンツァイト様が俺に質問して来るって事は余り無かった様に思う。
寧ろ、俺の記憶の中のクンツァイト様は王子以外の人に興味はなく、質問するなんて事はほとんどなかった。
後、アドニスである事を暴露した事でクンツァイト様との距離感を測りかねていた。どうすればいいんだろう。敬語?それとも今まで通り子供として接してもいいの?

「美奈子が好きか?」
「ええ、愛しています」

二つの記憶の中にもなかったこと。クンツァイト様に直接宣戦布告をしたことは無く、今回初めて目をそらすことなく真っ直ぐ想いを吐露した。

「だが、親子だ」
「その様ですね」
「例えお前だろうと、美奈子は渡さない」

クンツァイト様も大概余裕が無い。
かつてのオーラを放つ。絶対的威圧感。単純に怖い。でも、負けない!

「クンツァイト様は、いつから僕に気づいていたんですか?」
「ずっと前から」

最初から、この言動に注意していたって事か?侮れないな。
俺、こう見えて幼い時からママに惚れていただけじゃなくて、パパも尊敬していた。それは、今も変わらない。
あの家事が破滅的に苦手で、アイドルに多忙でほとんど家に居ないママの代わりに家事も育児も仕事も頑張っている。一切、手を抜かない。
そんな頑張り屋のパパを誰より尊敬しているし、俺の目標だ。

「美奈子には?」
「言ってません」
「気づいていると言う可能性は?」
「ない、と思います」
「話すことは?」
「今の所、予定していません」
「そうか、その方がいいな」

端的で無駄の無い質問。でも確実に棘と威圧感がある。

“美奈子には絶対に言うなよ!”

そう顔に書いてあった。
言ったら混乱させるだけだと分かっていたし、クンツァイト様にも言わないつもりだった。
でも、自分一人で背負うには余りに幼くて、張り裂けそうだった。クンツァイト様が邪魔でもあった。
美奈子が選んだのはクンツァイト様。それが事実。俺は完敗。完膚なきまでに負けた。

「時間の問題かも知れませんけど」
「隠しきれないだろうな」

顔が似ている。美奈子とて馬鹿じゃない。きっと俺の顔を見つめたら蘇ってくるだろう。あの日、俺に言われた言葉と俺を殺したことを。

「多忙だから余り会えていないのが、不幸中の幸いって奴です」
「そうだな」

そのまま成長してアドニスと分からない顔になれば、気付かず終わる。

「俺に話したのは、何故だ?」
「ライバルが蘇ったことを知っといてもらおうかと思って」
「いつでも奪えると?」
「いや、逆に無理だと気づきましたね」
「そうか」

それは良かったと俺の言葉を聞いたクンツァイト様は安堵したように呟いた。

「尊敬してますよ。前世から今もこれからもずっと」
「頼りにしているよ、息子よ」
「くすっ何か変な感じだ」
「それはこちらの台詞だ」

これを最後にクンツァイトとアドニスとしての会話は終了。公斗と海人としていつもの親子の時間を過ごし始めた。

大好きな人の子供でいることは辛いし、ライバルの子供をしているのもシンドいけれど、好きな人や尊敬する人の子供として傍にずっといられるのは幸せな事だと思える。




おわり

20240307 美奈の日

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