Bad Bitch 美学


side ヴィーナス


うさぎがクイーンとして君臨し、千年と言う長寿時代が到来した。

とうとう千年時代がやって来た。
懸念していた、有難くない長寿時代。

思っていた通り、何も知らない人々からの反感を買った。

そりゃあそうよ。色々問題山積みよ。
老けずにいい状態で千年過ごすだけでも抵抗があるのに、未知の時代に不安になるななんて無理な話。

私だって前世で結局そんなに永く生きていない。それはクイーンだって同じだ。
千年の意味するところの本質が分かってるとは思えない。まぁ元がうさぎだから仕方ないか。

そんな私の一番の不安は結婚後のこと。
早くに結婚すればそれから約千年、同じ人と共にしなければいけないって事。千年、同じ人を一途に愛するなんて保証出来ない。

その不安と不満をクイーンに吐露したら、私はエンディミオンだけで満足よ♡ですって!ご馳走様!

他の四守護神にも言ってみると、一人で充分だと一刀両断。まるで私がオカシイ奴と化してしまった。まぁオカシイんだけどさ!

で、そこまで異議を唱えるなら愛の女神特権で恋愛関係を長寿時代に合った制度を作ってみればとマーキュリーからの助言が。目から鱗だ。

そうだ。そうだった!
私は、何を隠そう。愛の星出身の愛の女神じゃない!
愛の神様なんだから、好きな様に時代にあった恋愛関係を提言出来る!

そこで私、セーラーヴィーナスこと愛の女神は立ち上がりました!みんなのため、そして、強いては自分自身のために。

千年の長寿時代に打ち出した政策、それは“セカンドパートナー”と言う制度。

結婚した後も恋人を作って良し!
互いのパートナーの合意があれば堂々付き合ってよし!
ただし、プラトニックな関係で!

と言うもので、我ながらいい政策を思いついたなって褒めたいくらい。

で、早速私もこの制度を自ら利用する事に決めた。そのための政策。利用しない手は無いわ。

なんせ、これを提言した私が積極的に行動しないと国民も利用しくいでしょ?国民に示しをつけるためにもやらなくちゃ!

この制度を提言した時からパートナーは決めていた。ううん。正しく言えば、もうずっと前から決まっていた。心に決めた人がいたーーそれが、アドニスだ。

一度はこの手で殺した相手だったけれど、心の中にずっといた。忘れたくても忘れられなかった。
ヴィーナスクリスタルで早くに生き返らせていた。それがまさかこうして項を制すなんて。運命の巡り合わせを感じる。

肝心のアドニスの意見は無視か?と言われると、そりゃあ彼の気持ちも尊重するわ。
でも、前世から私に重度の片想いをして、ずっと一途に思い続けた人よ?この話に乗らないなんて考えてなかったわ。

早速アドニスに話すと、二つ返事で喜んで快諾してくれた。私もめちゃくちゃ嬉しかった。

あの瞬間、確かにクロスした二人の気持ち。あれば本当の恋だったのか分からず質問してはぐらかされたっけ。

だけど、今なら分かる。本当に好きだった。この手で殺めるのが辛かった。生きていて欲しかった。唯一、私を分かってくれるアドニスに。

だからこそ、この制度でアドニスと恋人になりたかった。彼が一番私を理解してくれるただ一人の人だから。

つまり、ハッキリ言うとこの制度はアドニスと私のためのもの。私利私欲の制度よ。悪い?

クンツァイトの事も愛しているわ。
だけど、彼は仕事とマスターが第一で優先。私は二の次。
その証拠に、本当に私はおざなりで、全く会いに来てくれない。これではストレス以前に欲求不満で爆発しそうよ。
本当に私が一番じゃないのね?身をもって体験したわ。
まぁ、私も意地張って会いに行かないからお互い様だけど。

クンツァイトもセカンドパートナーには同意してくれてるわ。まあ、渋々と言った感じだったけど、上記の不満をぶちまけたら了承したわ。
善処するとは言っていたけど、結局仕事とマスター最優先は変わらないし。
パートナーの相手がアドニスなのもまぁ仕方ないって。何処の馬の骨とも分からない奴に横槍入れられて持って行かれるよりはまだ安心なんだって。そんなもん?

ま、お陰でアドニスとは堂々と恋人として付き合えることになったんだから千年時代も悪くはないわね。

ただ、パートナーに認められているからって言っても色々制約はあるから人目のつく場所で会わなきゃいけないのは落とし穴よね。

でも仕方ないか。プラトニックな関係でなければならないんだから。キスも身体の関係もなしって!何それ?

まぁ堂々と不倫?浮気?出来ているんだから文句は言えないわけで。今の時代にはこれが最善なんだし、仕方ないか。妥協は必要よね。

だけど、程なくしてそれは愛する二人には辛く重い制約となってのしかかってくるのだった。

アドニスとセカンドパートナーのパートナーシップを結んでから、私たちはほぼ毎日会っていた。そんなある日の事だ。

他愛もない会話から突然、空気が一変。アドニスが私とキスがしたいと言ってきた。流石にそれは契約違反。クンツァイトが嫌がる。在り来りな言葉で逃げようとした。

だけど、やっぱりこうして女としてちゃんと見て貰えている事は嬉しい。私もアドニスとしたい。でも、ここを超えてしまうともう後には戻れない。そんな気がする。

「俺たち、キスした事あるよね?」
「それは……」

ダメ押しの一言。あの日の事、忘れてなかったのね。そりゃあそうよね。色々あったもん。

「黙っておけばいいさ。身体の関係を持つ訳では無いんだし」
「そう、だけど……んッ...///」

御託を並べて躊躇していると唇を塞がれてしまった。キスされた事が分かった。
優しいキスに、本当はずっとアドニスとこうしたかったんだって心の中で感情が溢れ出して来た。

「あっ!」

数秒後、唇は離された。思わず漏れた吐息と共に物足りないと言う想い。
分かってる。これ以上してしまうと取り返しがつかない。後には戻れないって事を。
気まづくなって互いに横に腰かけると、アドニスは私の手に触れた。互いにグローブ越しだったけれど、熱を持っているのが伝わって来る。
その瞬間、どちらともなく指を絡め合う。互いの愛を確かめ合うように、優しく思いを混むて絡ませる。

「美奈子」
「エース」

かつての名前で呼び合うと何だか気恥ずかしいけど、心地よかった。
これより先に進んじゃダメ。ギリギリのラインで許される行為で互いの気持ちを確かめ合う。それが何だか照れくさいけれど、満足だった。

そう、千年と言う長い時代、一人の人を愛する事に自信がないから提言した制度。これからもずっとアドニスとこの関係を続けたいなら深入りはダメ。

確かにアドニスにはクンツァイトには無い安らぎや癒しをくれる。私を最優先に考えてくれている。大切にしたい人。大事にしたい想い。

これからの永い年月、ずっと私の心を支えてね!
愛しているわ、アドニス。




おわり

20240212 アドニス生誕祭2024(惑星アドニス発見の日に基づく)

2/2ページ
スキ