出会いは突然に


次に俺がヴィーナスにあった時は敵としてだった。
前世の記憶を持っていた俺は、一目でヴィーナスその人だと分かった。
だけど、彼女の風貌は前世では見た事も無い衣装に知らない名前で活躍していた。

これは運命か?運命と言わずして、なんと呼ぼう。
今度こそ、彼女に近付きたい。その想いに突き動かされていた。
では、どうすればいいか?
“セーラーV”と名乗った、かつて恋焦がれていた金星のプリンセス。
前世では手が届かなかった孤高の存在。
身分違いもいいとこな片想いだった恋。
しかし、今は同じ地球で身分や階級を気にしなくてもいい。気を使わなくてもいい。

彼女と同じく、今の俺も名乗る名が違う。
これもまた巡り合わせだろうか?
彼女は風貌も変えている。俺もアドニスの時とは違う格好にしてみるのもいいかもしれない。
前世の俺を彼女は知らないが、再出発をするには丁度いい。
今の名はダンブライトだが、そう名乗って彼女の前に立ったことは無い。
名前も組織から与えられた名前では無いものを名乗ろう。

前世の彼女は、惚れっぽい性格だった。
今の彼女がそれを受継いでいるかは正直分からない。
しかし、俺は前世も今もヴィーナスに囚われている。きっと、似たような性格だと推測出来る。
俺だってかつては金星人。見た目には自信がある。
ダークキングダムのエナジー集めも出来て、彼女にも近付けそうなもの。本物のアイドルになる事を思い付く。

セーラーVその人も、この頃“アイドル戦士”と言われていた。賭けでしか無いが、近づけるのではないか?そう、自分の作戦に自信を持った。

そして俺は、セーラーVと同じくマスクを付け、ダンブライトの名を隠し“怪盗エース”としてテレビで活躍を始めた。

この作戦は項を制し、近づく事に成功する。偶然だが、正体も知ってしまった。
後はどう彼女に近づき、俺に振り向いてくれるか?

彼女は強い。プリンセスを守る戦士のリーダーだったのだから。守られたり、助けられるなんて、きっと嫌うだろう。そう考えていた。

だけど、彼女はピンチに陥っていた。
体が勝手に彼女を助ける様、動いていた。
思わぬ事態だったが、後悔はしていない。

これからも彼女のピンチを救いたい。
彼女のピンチを救うのは俺でなければならない。そう思った。

ただ、やはり彼女の戦闘力は高い。かつての姿と重なる。俺が憧れていた彼女が今もそこに存在していた。

敵を送るのは俺の役目。なら、わざと彼女が苦戦する様な強敵を送り込もうと考えた。
そして、ピンチに陥るセーラーVを助ける。俺はそこまで強くは無いが、俺の手下の妖魔だ。手の内は分かっている。攻略可能だ。

「クレッセント・ビーーーーー厶!!!」

セーラーVの必殺技が炸裂する。
しかし、強い敵は致命傷を追わず、倒れなかった。
それを、草葉の陰から行く末を見守る。今はまだ、その時じゃない。もっと彼女がピンチにならなければ……。

「な?倒れない?な、んで?」

驚き、動揺するのが見て取れる。肉弾戦が始まる。何とか逃げ交わすセーラーV。
逃げ惑っていると、バランスを崩して、その場に倒れてしまった。最大のピンチ。今だ!

「デリシャスフォーカードショーーーーーット!!!」

最初に助けた時と同様、カードで敵を切り裂く。敵と言っても俺の部下だが。彼女の心を手に入れるなら、例え部下でも利用するし、慈悲などない。

「エース!?」

俺に気付いた彼女は、名前を叫ぶ

「やぁ、危ないところだったね。大丈夫だったかい?」
「ええ、助かったわ。ありがとう、エース」

その場に尻もちを着いたまま、笑顔で俺に礼を言うセーラーV。

「立てるかい?」

彼女に手を差し伸べる。かつて、その手は取られることはなく、振りほどかれてしまったが……。
しかし、今度は素直に取り、立ち上がった。
そして、繋いだ手は今度こそ振り払われずに、きゅっと握り返された。




おわり

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