ダリア
「もう1人の想い人、クンツァイト様には会えた?」
意地悪な顔で聞いてきた。
「クンツァイトにも会えたわ。でも……」
「前世の記憶は蘇ってなかった?」
「ええ、プリンセスに立ち塞がって殺そうとしてきたから……」
「君が躊躇なく殺した?」
言い難い言葉を続けられない私の代わりにエースは引き取って言い当てて来た。
全てはエースの思惑通り事が運んだってことなんだろうなぁ……。
「……その通りよ」
「言ったろ?戦い続けろって運命なんだって」
「そうね。その通りだわ。平和を取り戻してもまた新たな敵が次から次へと現れる。キリがないわ」
そう、あの時はその言葉の本当の意味なんて深く考えても理解してもいなかった。
ダークキングダムとの戦いが終われば平和が訪れ、うさぎ達と楽しい学生生活が送れるものだと思っていた。
しかし、現実はとても残酷で実際は敵と戦う日々から逃れられないでいた。
せっかく地球に普通の人として生まれてきたのに、戦いに明け暮れる日々だった。
「だけど、楽しそうだよ?やっぱり美奈子は戦う事が生き甲斐で好きなんだな」
エースにそう言われハッとした。
セーラーVの時と同じで文字通り命をかけてる。
そりゃあ敵が現れず平和なのに越したことはないし、それが一番。
けど、戦士として覚醒した以上、敵が現れたら迷わず戦うわ!
「プリンセスに純潔を誓った戦士だもの。戦い続けるわ!」
「それでこそセーラーヴィーナス!同じ金星人として誇らしいよ」
「ありがとうエース、あなたのお陰よ」
エースが最期に残した言葉の数々は確かに衝撃的で受け止められないものだった。
けれど、結局どれもその後の私を支える言葉となっていた。
「俺は何も……」
「ううん、背中を押してくれて感謝してるわ」
「そんな笑顔で言われると反則だ」
笑顔で感謝する私の顔を見てエースは罰が悪そうだった。
「もう時間が来てしまったみたいだ……」
元々薄ぼんやりと透けていて背景が見える姿だったエースは、益々薄くなり、消えかけていた。
どんなマジックを使って現れる事が出来たのか分からないけど、時間に限りがあるみたいだった。
周りは夕暮れになり、これからが幽霊としては本番なのにその前に時間切れなんて、おかしな話しね。
「普通は今からが本領発揮でしょ?」
「言われてみれば確かにそうだね」
「じゃあどうして?」
「人の姿になるのはエネルギーがいるからね」
「そう、なら仕方ないわね」
こういうのはレイちゃんの十八番だと思うからレイちゃんがいればいつでも会えるかもなんて思いながらエースとの再びの別れを思っていた。
「美奈子は大人っぽくなってあの時よりずっと美しくなったよね。彼氏がいないなんて勿体ないよ」
「エースは変わらないね!」
死んでいるから、あの時のまま変わらない姿のエース。
私はあれから3年の月日が経っていて、大人に近づいていた。
「俺と付き合ってよ、美奈子」
「バカ!」
そう言ってまたエースは私に新しい爪痕を残して消えていった。どこまでも罪深い奴だ。でも憎めない。不思議な奴だ。
エースが消えた方向をそのまま見つめていると白猫が近づいてきた。アルテミスだ。
「美奈、探したぜ!」
「そろそろ夕飯の時間よね?今日のご飯は何かな?」
出かけたきり中々帰らない私を心配してアルテミスが探してくれていた。優しいオス猫ちゃんだ。
「何かあった?」
「ううん、なぁんにも無いわよ!」
そう、エースとの事は別に何でもない。
昔の友人にあった。ただそれだけの事。
夕飯の事を思いながらアルテミスと歩き出すと、すっかり夜も更けていた。
空を見上げると私とアドニスの母星の宵の明星が一際美しく輝いていた。
まるで私とアドニスを応援するかのようにーー。
おわり