ダリア
『ダリア』
あれから何度目の夏だろう……
この時期になるとお花屋さんを横切ると目にする花を見てふとノスタルジーな気分になる。
時間帯が夕方という事もあると思う。
私の誕生花だと言ってオーディション会場で渡された花、ダリア。
渡してくれたのはずっとファンとして追っかけしていたエース。
見事オーディションに合格してエースの恋人役をゲットした。
花言葉は「移り気」とか言ってたっけ?
“浮気しないでオレ一筋で頼むよ”
肩を抱き寄せ顔にキスされ嬉しくてのぼせ上がっていたあの時。
後にまさかあんな出来事が起きるなんて思ってもなくて……。
思い出す度切ない恋の始まりの花。
「そんな所で何してんの?」
花屋の前で立ち尽くしてボーッとしていると懐かしいけど、絶対にいるはずのない聞き覚えのある声がしてハッとなって振り返る。
そこには白い軍服を着たあの時のまま変わらない容姿の彼がいた。
「!!!エース……」
「やぁ、久しぶりだね!」
変わらぬ笑顔で微笑みかけるエースを見て、胸が締め付けられる想いがした。
「まだ出てくるには早いわよ?」
「連れないなぁ~」
そう、彼はもうとっくにこの世にはいない。
私がこの手で彼を葬ったのだから間違いなく亡霊だ。それを証拠に体が透けて、見えない景色が見えている。
霊感の強いレイちゃんが見ている景色ってこんな感じなのかと漠然と思う。まぁ実際はもっとキツくて残酷かもしれないけど。
幽霊が出るのは夜、それも深夜帯だと相場が決まってる。
それなのに夕方と言えどまだ明るいこんな時間帯に出るなんて早すぎでしょ?
「……どうして?」
「出てきたかって?美奈子に呼ばれた気がしたから」
「呼んでなんか……」
ない、と言いかけて続かず言葉を失う。
確かに呼んでなんかない。
だけど、思い出して切ない気持ちにはなっていた。
それを見透かして出てきたって事?
「でも思い出してくれてたんでしょ?ダリアの花を見てるのが何よりの証拠だよ」
「まぁ、そうね。エースの事思い出してた事は認めるわ!」
「覚えててくれたんだね。嬉しいよ!」
「当たり前じゃない!忘れるわけない!」
忘れられるわけないじゃない!
この手で殺した相手を。
そして私の恋は永遠に叶わない、なんてとんでもない言葉を残して死んで行った人を。
「美奈子の心にそんなに俺がいたなんて光栄だよ」
「当たり前でしょ!あんな言葉残しておいて……」
「君の恋は永遠に叶うことは無い、だっけ?」
「そう、それ!」
「で、彼氏は出来たの?」
痛い所を突いてきた。
質問というよりは確信を持って聞いてきたんだと思う。
「……出来て、ない、わよ!」
「そっか」
私の言葉に満足したエースは笑顔で私を見つめてきた。
思い通りの結果にご満悦って所だろうと思う。
何かエースの思う壺で手のひらで転がされてる感じがして悔しい!
「満足?」
「そうだね♪君の大切な人に会えたって事だから」
「プリンセスの事?無事会えたわ」
「そ、ずっと守っていくんだね?」
「ええ、大切な人だもの、今も昔もこれからもずっと。今は大事な親友でもある。前世とかプリンセスとか関係ない。友達としても大切な存在よ」
「いい顔してるよ!プリンセスに負けたなら本望だよ」
戦士としてプリンセスを護るリーダーだった君が一番美しく輝いていて好きだったからとエースは笑顔で付け加えた。