私が知らないあなた


このまま気付かれないように家に入ろうとしたら左腕を掴まれ、体を強制的に和永の方向に向かされた。
潤んだ瞳を見られたくなくて反射的に下を向いて彼の顔を見ないようにした。

「待って!2人でもっと話したい!」
「話す事なんて何も無いですわ!」
「俺が話したいんだ」

強い口調で言われ、咄嗟に顔を見るととても真剣な顔とぶつかる。
私の掴んでいた腕を離すと、今度は花束に視線を落とした和永に質問される。

「その花束はどうしたの?」

今度は彼が私に詰問する番だった。

「あなたには関係無いですわ!」
「男の人に貰ってるところ、見たんだ……」

どうやら立ち去ろうとする前から私の事に気づいていたようで、見られてしまっていた。言い訳はきかなそうだと思った。

「ええ、いつも神社に参りに来て下さっている参拝者の方みたいで、私にと下さったのですわ」
「……て欲しくなかったな」
「え?」
「貰って欲しくなかった!」
「私が誰から何を貰おうと私の自由ですわ!あなたに決める権利なんてありませんわ」

そう、私には私の考えで決めて行動し、自分自身の時間がある様に彼にも同じ事が言える。
私が誰に何を貰おうが彼に縛れないように、彼が誰とどう仲良くしようが私には関係ない。それは分かっている。だけど、考えと心が追いつかない。

「そうだけど……俺以外の男からプレゼントなんて貰って欲しくない!」
「何故ですの?」
「付き合ってる女の子が俺以外の男に少しでも気のある行動とって欲しくない!俺だけ見てて欲しい!」
「勝手ですわ!ご自分の事を棚に上げて……」

私が素直に言えない言葉をストレートに言える和永を羨ましく思いつつ、ついこちらも和永に引っ張られるように感情の赴くままにぶつけてしまった。

「俺の事?俺、何かしたかな?」
「知らない女性と笑顔で楽しそうにしていたじゃありませんか?あんな顔、私は見た事……」
「あれはただの同級生で、もう会うことは無いと思うよ。ごめん、心配させてしまって……」

素直に謝られたらこれ以上攻められなくなるじゃない。狡いわ。

「でも、良かった!レイが俺と同じで嫉妬してくれていて」
「だ、誰が嫉妬、なんて……してなんかいませんわ!」
「大丈夫だよ!俺はレイしか見てないから。レイ以上の美人はいないし、レイ以上に好きになる人もこの先現れないって自信がある!だからレイが知らない男性と喋ったり、何か貰ったら嫌だ!俺のだけ貰って欲しい!レイは?」
「私は……恋をするならきっとその人の全てを手に入れたくなって、全てを私だけのものにして私の中に閉じ込めたくなってしまう。独占欲が強いって自覚をしていたからずっとストッパーをかけてた。そんな汚い部分、見せたくなかったし、見られたくなかった……」

和永がストレートに想いを伝えてくれている事に後押しされ、応えたいと思って自分の嫌な部分をさらけ出す覚悟が出来て、気づけば全てを話していた。彼なら受け入れてくれる。何となくそんな気がしたから。

「汚くなんか無い!それが普通の恋愛感情だよ。レイは全然変じゃない!当たり前の事だ!俺だってレイの全てが欲しいよ!時間も身体も!……て、あぁ、身体は変な意味じゃなくって、……て変な意味もあるか?あ、いや、その……ああ、ごめんなさい」
「ふふふっ」

思わず声に出して笑ってしまった。
あまりにストレートに私への想いをぶっちゃけ過ぎて勢い余って変な事まで言葉にしたから。
それにこんな独占欲の強い私の事を普通だと受け入れてくれてどこかホッとしたから。

「レイが笑った!笑顔、初めて見たかも……うわぁ~めっちゃ嬉しい♪変な事、口走ってみるもんだなぁ~」
「失礼ね!私、笑うこともありますわよ!」
「クールビューティーの名を欲しいままにしてる代名詞みたいな人だと思ってたけど?」
「人の事を何だと思ってらっしゃるの?もう、笑ってあげませんわよ、和永!」
「え?今、何て?名前、呼んでくれた?ね?もっかい呼んでよ!」

受け入れてくれて単純に嬉しくなり、今まで恥ずかしくて呼ぶことが出来なかった名前をこの勢いで呼んでみると和永は幼い子供の様にはしゃいでお強請りして来た。
これ以上はキャパオーバーで恥ずかしいから本当に勘弁して欲しい。

「嫌ですわ!また呼ぶ機会があればこれから何度も呼んで差し上げますから、今日はもうおヨシになって……」
「ちぇっまぁ期待して待っとくよ!」

2回目がないと分かると途端に落胆し、不貞腐れる。本当に表情豊かでうさぎや美奈を思い起こし、ホッとする。

「でも良かった!」
「何がですの?」
「レイが俺と同じ気持ちでいてくれて。普通の恋する女の子で良かった!」
「それは和永がストレートに想いを伝えてくれたから、答えなくちゃと思っただけで……自惚れ無いで下さる?」
「厳しい!でも2回目の“和永”呼び、頂きました!だから無問題!アハハハ」

極上の笑顔で2回目の“和永”呼びを喜んでいるのを見て、自然とこちらも嬉しくなる。
さっき知らない女性に向けていた以上の笑顔をくれた。
何をこんなに悩んでいたのだろう……?
こんな温かい笑顔をくれるのならば、もっと早くに名前を呼んであげればよかったと少し後悔してしまった。

だけど、これからも私の知らないところで知らない顔や知らない人との時間がある事は変わらない。それは仕方の無い事。
だからこそ一緒にいる時間だけは幸せな時間を共有出来ればと思う。
私は中々自分の感情を表に出せない性格。
彼はストレートに感情を出せる性格。
性格は真逆だけれど、彼の素直な性格に引っ張られてたまには欲望に忠実になってみても良いかなと思えた。

「うふふっバカね!」

和永を好きになって良かったと心から思えた日だった。
本人に言ったら有頂天になるから直接は言ってあげないけどね。




おわり

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