現世ジェダレイSSログ
『冬の寒さと人の温もり(ジェダレイ)』
神社の朝は早い。春夏秋冬関係なく朝から掃除をすることから始まる。
まだ陽も上がら無い冬でもレイは欠かさず五時三十分に起き、巫女服に着替えて神社を綺麗に掃除する。ここに越して来てから、レイにとって当たり前でいつもの事だった。
今日も例に漏れず、暗闇の中巫女姿でほうきで掃除。真冬だから当たり前だが凍える様な寒さだ。気温は氷点下二度。水溜まりは凍っていて、霜も降りている。
「くしゅんっ」
身震いと共にレイはクシャミを一つしていた。
余り大きいものでは無かったのだが、それをいち早く聞き、駆け付けた人物が一人。そう、それがここでバイトをしているレイの彼氏である和永だ。
付き合い初めてから少しでも一緒にいたいからと朝も手伝いに来てくれる様になった。朝まではいいと断ったが、朝活だと譲らなかった。
「レイ、大丈夫?風邪?」
心配そうな顔を引っさげて和永はレイに問う。
レイの事が好き過ぎる和永は、レイの一挙手一投足に注意深く見ている。離れたところにいてもすぐ気付く。
和永にとっては当たり前だが、くしゃみ一つで駆けつけられ、レイは驚いた。
「大丈夫ですわ」
ただのくしゃみ一つ。それだけで大袈裟に騒ぎ立てられても困る。
「ならいいけど。寒いから」
「ご自分の心配をなさいな」
「俺は大丈夫さ」
そんな会話をして、ひと仕事した後に平日なのでレイは制服に着替えて学校へ、和永は大学へと向かう。
「くしゅんっくしゅんっ」
「火野さん、お風邪でございますか?」
「いえ」
「お大事にして下さいましね」
「ありがとうございます」
教室でもくしゃみが出る。学友に心配されながらもくしゃみが出る程度だったからレイは普通に授業を受けていた。
しかし、変化が現れたのは三時間目の事だった。暖房が聞いている教室にも関わらず、寒くなってきて震えて来た。
レイは周りが言っていた通り風邪を引いてしまった事を悟る。普段、身体は鍛えているため頑丈だったが、やはり寒さには叶わなかった。修行が足りないと悔やむ。
そして極めつけは五時間目が始まった時だった。遂に頭がズキズキと痛くなって来た。
悪寒くらいであればギリギリ授業の内容は入って来るし、ノートも取れる。
しかし、頭痛は相当なもので起きているのも辛い。だが後二時間で終わり。部活は休んで帰ろうと決意していた。
六時限目が終わり、ホームルームも終了。
後二時間を何とか乗り切り、意識も保っていた。後は帰るだけ。席から立つと思った以上に足が鉛のように重く、中々思う様に進まない。それでも何とか踏ん張り、教室を出る。
殆ど無意識にレイは行動し、気づけば靴を履き替えて、校門へと向かっていた。
相変わらず足取りは遅いし、頭はズキズキ痛む。そんな中、校門付近が何やら騒がしい事に気付く。
何の騒ぎか知らないが、頭痛に女生徒の奇声は響く。体調の悪いレイにとっては、いや、例え元気でもこの騒ぎには興味を持てない。
その中でも聞こえて来た声はこう聞こえた。
“まあ、素敵な殿方”
“あの方はどなたのかしら?”
“かっこいいですわ”
“惚れ惚れしますわね”
など、明らかに男の人を見た時の反応だ。
レイは痛い頭で、ここは女子校なのに男がいるとは野蛮だと余計頭が痛くなるのを感じた。
どちらのおバカさんよと思いながら極力関わらずに通り過ぎようと考えていたその時だった。
「レイ!」
男の声で自身の名前を呼ばれ、ハッとなり顔を上げて声の方向を見る。するとそこには金髪ショートの男が立っていた。そう、和永だ。
「どう、して……?」
何故、和永がここにいるのかが全く理解できずにいたレイ。
ここは女子校でもある。男がいると目立つのは当然。それを和永も分かっているはずだ。現に今まで送り迎えなんてされたことは無い。
それが何故このタイミングで初めて迎えに赴いたのか?レイには理解出来なかった。
「今朝、くしゃみしていたから」
「それだけで?」
「体調悪いのかなと思って迎えに来た」
そう言って少し向こうに停車している車を指さして和永は何でもない風に言ってのけた。
「バカッ!」
一言憎まれ口を言うとレイはそこで意識を手放した。
五時限目から頭が痛く、気を張って授業を受けていた。帰りも一人だからと頑張っていたのだが、和永を見て完全に張っていた気が緩んでしまい風邪が悪化。その場で意識を失い、倒れてしまった。
だが、電光石火の如く和永はそれを察知し、地面に倒れるのをすんでのところでキャッチ。そのままお姫様抱っこで車に乗せて火川神社のレイのベッドへと送り届けた。
『まぁ』
『キャー』
『まるで王子様、ですわ』
その所作は、周りにいた女生徒からは王子様のように見えていた。
「ううー、ん」
レイが次に目を覚ますと自身の部屋だった。
その日一日の事に記憶がなかったが、制服のままなのを見て、学校に行って体調が悪くなった事は辛うじて思い出せた。
そして傍らを見ると、ベッドの横ですやすやと寝ている和永が目に映る。
「ずっと、いてくれた、の?」
おでこに感触があり、触ってみると冷えピタが貼られていた。寝ている和永を見て、必死で慣れない看病をして疲れたのだろう事が伺える。
「看病、してくれていたのね。ありがとう」
素直に一言呟くとレイも和永と同じ夢の中へと入っていった。
翌日、目を覚ましたレイは和永の看病もあってか、すっかり風邪は完治していた。
しかし、当の和永は風邪で寝込んでしまったらしい。
おわり
20240229 うるう年