強く儚い者たち


王族として生まれたものの宿命。それは、生まれながらに伴侶が決められていること。王国の繁栄の為、この掟は絶対である。
それでも、それが分かっていても止められない想いがある。王子が自ら月のプリンセスを愛した。それが事実だった。

「ベリルもそれは分かっていたと思う。だから、誰にも気づかれぬようにと心に仕舞い込んでいた。けれど、ある日プリンセスとの逢瀬を見てしまった。そこからは、見ていられなかったよ」
「ベリルの気持ちも知らず、プリンセスの愚かな行動で……」

ベリルを悪魔へと変えてしまったのだと悟った。

「もっとベリルの心に寄り添ってやるべきだったんだ。マスターばかりに気にして。いや、結果的に俺らも洗脳されてしまったから何も言う資格は無い」

いつしか冷静な判断が下せなくなり、何が正しいか分からなくなっていた。
前世でも現世でも、王子の側近であるのにベリル側へと付いて悪の手へと堕ちてしまっていた。

「こうなる運命だったのよね。ベリルに関しては貴方達が悔やむ事では無いわ。全ては呪いのせいよ」

レイに似つかわしくない言葉が出てきて、和永はとても驚いた。呪いとは、一体どういう事なのだろうか?

「何かあったの?」
「プリンセスが生まれた祝賀パーティに招かれざる客であるネヘレニアがやって来たの。クイーンが封印してくれたけれど、その時に“プリンセスは王国を継ぐことなく死ぬ”と呪いの言葉を残して行ったわ」

そしてそれは真実となり、王国もプリンセスもマーズ達も死んでしまった。
偶然の出来事が重なっただけと受け入れるには余りに出来すぎていた。

「だから、ベリルはきっかけかもしれないけれど、貴方達が気に病むことは無いのよ?私たちがもっと注意していたらこんな事にはならなかった。巻き込んだ形になってしまってごめんなさいね」

滅ぶ事が決まっていたにせよ、月だけの問題。地球には関係の無い話だったはずだ。
それが、こんな形で巻き込む事になったのはマーズとしても誤算であり、心が傷んだ。

「いや、例え巻き込まれて無くてもいずれは滅んでいたと思うよ。それに俺は巻き込まれて良かった」
「何故?」
「こうして同じ星の同じ時代に同じ場所で生まれて出会って恋に落ちたからさ!クイーンやプリンセス、そして銀水晶とゴールデンクリスタルに感謝だ」
「前向きで助かったわ」

レイは少なからずベリルの事や前世での出来事を話すか迷っていた。
しかし、自分の中でのみ考えてモヤモヤしていても重く暗くなるだけで何の解決もしない事は今までの経験で分かっていた。
きっと心を軽くして貰いたかったのかもしれないとレイは思った。

「また、レイと出逢えて良かったと心から思ってるんだ」

王国が滅んだ事は“良かった”と言う一言では片付けられないし、そうは思わない。
ただ、幾つもの偶然が重なり地球も月も滅んだからこそ、こうしてまた巡り会い前世では成就する事が叶わなかった恋を手に入れる事が出来た。
それも数多の戦いの中で銀水晶やゴールデンクリスタルが奇跡を起こしてくれたからこそ授かった“今”がある。

「私も、貴方には感謝しているわ」
「これからも何でも知りたい事があれば遠慮なく聞いてくれ。レイの力になりたい」

ベリルの事は可哀想だと思うが、互いの主が星を滅ぼす程に深く激しく愛し合った。どれだけ愛していたかは計り知れず、彼女のみぞ知るところだが、二人の仲に割って入る事等到底出来なかっただろう。
そして、その想いは現世でも前世の記憶を失っていた時でさえ惹かれ合う程強いものだった。
きっとどんな事をしてもベリルが報われる事は無かっただろう。

「ベリルには幸せになって欲しいわね」
「ああ、そうだな」

あの世にいるのか、それともこの世のどこかにいるかは分からない。
それでも、二人はベリルの幸せを願わずにはいられなかった。

「私たちも、うさぎと衛さんの幸せを守っていかなきゃね!」
「俺たちの幸せの為にもな!」

きっとこれからも幾多の困難が待ち受けているだろう。
その度に手と手を取り合い、敵を倒し二人の未来を守り抜くと心に誓っていた。
二人の愛は普遍的なものだからーー

おわり

2022.11.01

良いレイちゃんの日

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