幸運な男


いつもの様に大学でキャンパスライフを送っていた俺は、ゼミの友人の一言で、普通の1日が吹っ飛んだ。

「お前、最近変わったな?」
「そうか?いつもと変わらないと思うけど」

同じゼミに入っていて、何かと馬が合うコイツの名前は手塚裕也。
俺の事は何でも分かると豪語している。
裕也曰く、兎に角顔に出やすくて分かりやすすぎるらしい。マジか?

「いいや、変わった!何かカッコ良さが増して、余裕が出てきたぞ。何かあったな?」
「別に何も無いって。強いて言うなら、彼女が出来たくらい?」

彼女が出来たと言っても、もう半年くらい経っている。
レイがレイだけに、中々進展が無いから本当に付き合っているかの自信が最近まで持てずにいた。

「は?彼女?マジ?俺、聞いてねぇんだけど?」
「いや、別に言う事でも無いだろう」
「一大事だって!だってお前、好きな奴とか彼女の話一切無かったろ?」

色々聞かれるのが面倒臭いのと、彼女いない歴と年齢がイコールでまぁまぁ恥ずかしくて言えずにいた。
本当に付き合っているのかと言う自信も無かったから、言うタイミングを逸していた。

「イケメンなのにモテなかったもんな。やっと彼女出来たのか……」

しみじみ言う裕也に、中々に失礼だと感じてしまった。
そんな裕也も、絶賛シングルである。

「で、どんな子?同じ大学か?可愛い系?それとも美人?」

来たよ。恋人が出来た時の恒例イベント、質問攻め。確かに興味わくよな。
しかもコイツは最近彼女に振られて傷心中。幸せを分けて欲しいんだろう。

「あ〜いや、高校生だ。でも、可愛いと言うよりは美人の部類だな。うん」
「美人な高校生!やるな、和永!」
「おう、サンキュー」
「どこの高校通ってんだ?」
「ああ、TA女学院だけど」

ごく普通に何気なく学校名を出した俺は、この後面倒な事になるなど予想だにしていなかった。

「は?TA女学院?あのお嬢様学校の?」
「ああ、そーだけど?」
「“ああ、そうだけど”って!TA女学院のお嬢様と付き合ってんのか、お前?」
「ああ、だからそう言ってるだろ?」
「なぁに、普通の顔で“大した事じゃない”風に言ってんだよ!凄い事なんだぞ?どうやって知り合ったんだよ?」

TA女学院の彼女がいると言う事に驚かれてしまった。
俺的にはそこまで凄いことだと思って無かったが、言われてみれば確かに凄いことだよなぁ。と言われて初めて自分が凄いことを成し遂げた事に気づいた。

「そっか……TA女学院の子と付き合うって確かに凄いことだな」
「お前、自覚無しかよ」
「アハハハハ」

乾いた笑いをする。自覚というより、彼女が出来た事の方が俺的には大事件だった。
それに、ただただレイと付き合いたい一心だった。

「どうやって知り合ったんだよ、マジで。ってかどうやったら付き合える運びになったんだよ?」

ある意味凄い身の程知らさずの、幸せな奴だと裕也に呆れにも似た尊敬の眼差しで言われてしまった。

「知り合ったのはバスの中で、俺の一目惚れだから押して押して押しまくった」
「うわ、ある意味迷惑な奴だな。それでよく付き合ってくれたな。根負けしたんだろうな……」

確かに今考えると迷惑だったと思うけど、それしかやり方を知らなかったから、兎に角頑張った。
お陰で付き合えたのだから、結果オーライって奴だ。

「お嬢様だから、世間知らずの箱入り娘だろうし、お前の事、普通に珍しかったのかもな……」
「そうかもしれないな」

前世も今も、彼女は女社会でばかり身を置いていた。いきなり現れた俺は天然記念物的な感じに映っていたんだろう。

「いやぁ、すげぇな。羨ましい」

会話が一段落した所で、他の生徒がやって来て、この日の会話はここで終了した。
裕也とはその日はそれでさよならをした。

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