今宵の月のように

次に一同が目を開けると、月に立っていた。

「ここは……」

驚き見渡す四天王と四守護神。

「月にいらっしゃい♪ここはマーレセレニタティス。シルバーミレニアムが見渡せるの」
「本当に蘇ったんだな」

うさぎの説明に、勇人は聞いていた通り月全体が侵略したあの時と変わらない、いやそれ以上の美しさで再建されているのを見て驚きを隠せず、感嘆の声を上げる。
そしてそれは他の四天王も同じだった。
ただ勇人と違い、圧倒されて声にならなかった。
何よりも神秘的なムーンキャッスルや月の光景を見て、こんな素敵なところを壊してしまったことに改めて後悔と申し訳ない気持ちに押しつぶされそうになる。

「そうなの。ゴールデンキングダムと一緒で、ムーンキャッスルも元通りになったのよ」

ゴールデンキングダムもあの日、滅びていたが衛のクリスタルの力で元通り再建していた。

「こんな綺麗なところを、我々は……」
「公斗……」

圧巻の光景を前に公斗は苦しそうに呟いた。美奈子はそんな公斗に優しく寄り添う。

「後悔とか苦しんで欲しくてここに来たわけじゃないの。本当にただ再建したシルバーミレニアムを見て欲しかったんだ」
「でも、我々がやった事は許されないことです」
「私ね、四天王には感謝しているの」
「え?」
「私、プリンセスである事や、クイーンになってこの月の王国を継ぐのが嫌だったんだ」
「うさぎ……!?」

後悔を口にする四天王に対し、うさぎは意外な言葉を発する。その言葉に誰よりも驚いたのは傍で側近をしていた美奈子たち四守護神だった。

「好きで月の王国のプリンセスとして生まれたわけじゃないし、プリンセスとして生まれたからには継がないと行けない。私の人生は決まっていて、自由が無くて未来も無くて……」

そんな時に見つけたのがエンディミオン。
やがてずっと憧れだった地球へ満を持して降り立つとエンディミオンと恋に落ちた。
その恋は許されない恋。故に未来も無い。分かっていたことだった。それでも、未来は変えられる。運命はあると信じていた。

「たった一人の愛する人との未来さえも無いなんて……」
「うさぎ……」
「滅びたのは悲しいよ?怖かった。ずっと平和だったから。でも、でもね?生まれ変わって同じ地球で身分も関係なくて自由に恋愛出来て未来は自分たちの手で切り開けるって分かって、本当に嬉しかったんだ」

敵の侵略と戦いの繰り返しは嫌だけど仕方ないし、私に何らかの兆候が現れてクイーンにならなきゃいけないかもしれないけれど。そううさぎは続けて気持ちを吐露した。

「あ、勿論前世でも現世でも美奈P達と出逢えたことは何よりの宝物だよ♡」
「うさぎ、ズルい!」

極上の笑顔でそう付け加えるうさぎに、四人は嬉しくて次々抱き着いた。

「私たち、これからも一緒よ!」
「どんな未来でもついて行くわ」
「私たちはうさぎちゃんが大好きよ」
「前世とか戦士とか関係ない。うさぎだからこの先も一緒にいたいんだ」
「ありがとう、みんな。私も同じ気持ちだよ」

抱きついたまままこと達は気持ちを素直に伝える。うさぎも感謝の意を表す。

「四天王は自分たちのせいで滅びたって思ってるよね?でもあれはそう決められていたんだ。私、王国を継ぐことなく死ぬ事になっていたみたいなの」
「うさぎ、それって……」
「そう、ネヘレニア」

うさぎが全く知らなかった事。そして余りにも最悪な記憶の為、四守護神達も記憶を封印し、転生してネヘレニアと戦うまで全く思い出さなかった忌まわしい出来事。

「呪いのせいだと思えば気が楽でしょ?」
「まあそうだけど」
「それでも引き金を引いたのは俺達だ」

例えネヘレニアの呪いで月の王国が滅びたのだとしても、その直接の原因を作ったのは自分達だと感じていた。

「ベリルがマスターを慕っていたことは知っていた。段々と様子がおかしくなっていったのも気付いていた」

和永は突然、前世での直接の原因となっていたベリルについて話し始めた。

「俺達はマスターを守る為、ベリルを見張り付けていた。メタリアと呼ばれる悍ましい奴と話しているのを目撃した」
「マスターには内緒で倒そうと試みたけれど、気づかれてしまい抵抗も虚しく洗脳されたわ」
「ただ我々は何があってもマスターを裏切ろうとは考えていなかった。洗脳され、その機会を伺っていた」
「結局、忠誠心が強い俺達は主を間違えたまま月を攻撃することになってしまったんだ」

洗脳は飽くまでも計画の一つで、王子エンディミオンを守るためだった。敵を欺くにはまず味方からと言う訳だった。

「お前達、そんな危険なことを……」
「本当に、バカ!」

初めて深層を知った衛は驚きを隠せなかった。
自分を守るためとはいえ、もっと違うやり方があったのではないかと。どうして相談や一言言ってくれなかったのかと。
四守護神にしてもそうだ。あれだけ王子を想い、自分達とも良好な関係を築き上げ心を通わせていたのに何故こんなことをしたのか。彼等のことを最期まで信じ抜けなかったことを後悔した。

「侵略をあの日に決めたのは、一年で一番月が輝く日だったから」
「一番綺麗な月の日が相応しいって。導かれるように、ね」

前世のあの日も満月だった。それも中秋の名月。
それが偶然たまたま今回の中秋の名月と重なった。
満月は人の心を惑わす。四天王もそうだった。
いつも月を見上げていた。想い人が帰り、月で暮らしている彼女をそれぞれ想っていた。
それがいつしか月がなければ。月さえ無くなれば帰れなくて済む。そう思ってしまっていた。
そしてその想いが潜在意識として心を巣食い、洗脳されて月の王国を滅ぼすと言う最悪の行動を取ってしまった。

「そっか、そうだったんだね。話してくれてありがとう」

あの日の真相を四天王から直接聞いたうさぎは感謝した。

「後悔も反省もあると思うけど、四天王は操られていただけでやっぱり私には悪いと思わないし、憎めないよ」
「俺もだ。止められなかった俺も悪い。国を裏切ったのも俺だ。うさ同様、俺だって立場や未来が嫌だったのは事実だ」
「今はみんなこうして自由に恋愛出来てる。それでいいじゃん!」
「うさぎちゃん……」
「何と慈悲深い」
「ごめん、ありがとううなさぎちゃん」
「私も感謝するわ」

うさぎの好意に四人はそれぞれ感謝の意を示した。

「でも、私たちまであの時生き返してくれたのはなんでかしら?」

彩都はふと疑問を漏らした。洗脳されていたとはいえ、滅ぼしたのは四天王だ。転生を許されるとは思いもしなかった。

「クイーンは何もかも分かってたんじゃないかな。全知全能だし。洗脳されていることも、四天王がそれぞれみんなに想いを寄せていたことも。後、一番はみんなに幸せになってほしかったんだと思う」
「なるほど」

うさぎの説明に四天王は納得した。

「大事なのは過去じゃない。これからの未来をどう生きて行くかだと思うの」
「そうね。大体、今はこうして私たちあんた達と付き合ってるんだから、もうとっくに許されてんのよ!」
「うさぎが許していたのだから、私たちに攻める資格はもうなくってよ」
「これからも一緒に守りましょう。私たちの主を。未来と太陽系を」
「幸せになろうぜ!未来を生きていくんだ」

四守護神の言葉に四天王は感謝した。
うさぎや四人の言葉に心が軽くなり、あのときのことを話してよかったとホッとした。

「じゃあ、色々中を見て回ろう!」

うさぎの提案で、再建したシルバーミレニアムの中を散策することになった。
うさぎの案内で色々見回り、地球へ帰ろうと外に出ると四天王は驚きの声を上げた。

「地球が綺麗だな」
「本当だ」
「地球に憧れて下りてきたくなった理由、分かる気がするわ」
「地球は青かった。と言うあの言葉はやはり本当だったんだな」
「その地球が今はみんなの住む場所よ」
「さ、帰りましょ」

そうして10人は衛が持つゴールデンクリスタルで元いた地球へと戻っていった。




おわり

20230929 中秋の名月

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