今宵の月のように


一年に一度、月が最も綺麗に輝くこの日、うさぎを初め美奈子達四人と四天王は衛の家に集まっていた。
うさぎが衛の家でみんなで月見をしようと言い出し、集まった形だ。
今はうさぎ達五人も高校を卒業し、それぞれが将来の為に夢に向かって突き進んでいる。その為、五人が揃って会える日は減っていた。それでも月に一度は必ず何があっても集まる約束を交わした。
衛と四天王も何気に定期的に会ったり、LINEのやり取りをする程仲が良い。
皆それぞれ学校や仕事が終わった後に衛の家へと直行した。

「月見団子いっぱい作ったから、遠慮なく食べてくれ」
「ススキもいっぱい取ってきたぞ」

月見ということもあり、まことと勇人カップルは月見団子とススキを持ってくる張り切りよう。

「わーい、まこちゃんの手作り♡高校卒業してからおこぼれなくて寂しかったの~」
「お前は色気より食い気だな」

美奈子の食い意地に公斗は呆れる。

「分かるぅ~、まこちゃんの手作りお菓子が恋しい」
「まぁ今ではプロを目指すんだ。期待しかないよな」

美奈子の食い意地にうさぎが同意し、衛が乗っかる。元々チョコレートが好きな衛は甘いものには目が無い。うさぎと付き合って益々甘党に拍車がかかっていた。

「さてはうさぎ、まこの手作りお菓子を食べたいがためにこの日にみんなで集まったわね」
「はは、うさぎちゃんらしいな」

うさぎ達の会話を聞いていたレイはジト目でうさぎを睨みながら呆れる。

「あんたって子は、ほんっとに食い気の権化ね」
「でも、まこの手作りお菓子は美味しいから分かるわ。学校終わりによく勉強のお供に持ってきてくれて、助かってるもの」

うさぎに呆れ返っていた彩都だが、恋人の亜美が発した言葉に驚愕した。
一番仲がいいまことと亜美。まさか高校を卒業した後はこんな風に繋がっていたとは思いもしなかった。自分よりも会う回数が明らかに多いと感づいた。

「は?お菓子ばっかり食べたらハイカロリーで太るわよ?勉強もいいけど、運動もしなさいよ?」

おデブな彼女は嫌よと彩都は凄い剣幕で亜美に食いかかった。当の本人である亜美はあっけらかんと勉強で頭を使って消費しているからと答えた。

「まこちゃんのお菓子食べたかったのは否定しないけど、純粋にみんなと月を見たかったんだもん!」

指摘されたうさぎも疑惑を否定する。
食い意地を張っているのは否定しないが、やはり中々みんなで集まる機会が無い。ただ単純に会いたかったのだ。

「ま、そう言う事にしておいてあげるわよ」

こんな機会でなければ中々みんなで集まる機会も無い。衛に免じて許してやるかと彩都は心の中で呟いた。

「うーん、まこちゃんの月見団子おいちいー」
「これよ、これ!」

まことが作って来た月見団子を食べるうさぎと美奈子は懐かしい味に感動していた。

「急いで食べて喉詰まらせちゃダメよ」
「大丈夫ようさぎちゃん、美奈。もし万が一詰まらせても私が助けてあげるわ」

レイが指摘をすると医学を学んでいる亜美は衛さんもいるから安心ねと平然と答える。

「亜美、あんたって時々悪魔みたいな事を言うわね」

ゾッとして彩都が指摘すると、なんの事?と亜美は顔色を崩さずに答える。分かっているのかいないのか、亜美の顔からは読み取れない。

「月が綺麗に輝いてるよ!」

夜になり外も暗くなって来たところでまことが外を見ると、真ん丸に月が輝いているのが見えた。

「わー、本当だ♪」

まことの声に、その場にいた衛達は一斉に外を見上げ感嘆の声を上げた。
そこにはまぁるく輝くうさぎの守護星が輝いていた。

「やっぱり一番綺麗だ」
「大きいしな」
「いっつも見上げていたな」
「今でも見上げてるけどな」
「まぁ綺麗なのは認めてあげるわ」

衛と四天王は前世の事を思い出しながら月を見上げていた。

「でも、今は地球でこうやってみんなで見上げることになるなんてねぇ……」
「前世では地球でこうして揃う事って無かったもんね」

うさぎの言う通り、前世では地球に全員揃う事はなく、こうして月をみんなで見上げるという事も無かった。
ただ地球に住んでいた衛と四天王だけは何度か五人で眺めることもあった。

「感慨深いわね」
「そうね。あの頃は早く戻りたいって思ってたわ」
「レイ、そんなハッキリ言わなくても……」

亜美が同意して物思いにふけたのに対して、レイはあの頃の想いを素直に吐露し、和永はやっぱりとグッタリした。

「ただ護衛で来ていただけだもんな」
「でも、来ないと月がこんなに綺麗なことも地球がこんなに素敵な事も知らなかったし、私は護衛で来られて良かったって思ってる」

レイの想いに勇人が仕方ないと悟った。まことはそんなレイの言葉を優しくフォローした。

「月はあの頃からずっと綺麗に輝いているな」

衛は月を見てそうポツリと呟いた。
その時だった。うさぎが徐ろに立ち上がる。

「ねえ、今からみんなで月に行かない?今度は月から地球を見てみようよ」
「月に、俺たちが?」
「私たちも?」
「そ!」

立ち上がって宣言したかと思うと、突拍子も無い提案に一同は驚き固まる。一体、何を考えているのか。

「私たちが行っても良いのですか?」
「もっちろんよ!」
「ま、俺も何度かうさと行ってるしな。行くか?」
「マジ?」

驚き躊躇っている四天王を他所に衛は案外あっさりとこの提案に乗っかる。まるでちょっとそこのコンビニまで行くかのような感覚と軽いノリに、公斗達は呆気に取られた。
このカップルはいつもこんな感じで自分たちを振り回す。もう諦めるしかないと悟った。

「大マジよ!今日絶対にみんなで行きたいの。その為に集まったんだもん」

うさぎの決意は硬かった。揺るがない想いでまっすぐにみんなを見ている。その瞳の奥には何か熱い決意がある様に燃えていた。

「どういうこと。うさぎ、説明して」
「うん。みんな、今日が何の日か覚えてない」
「今日……」

何かあると感じ取った美奈子はうさぎに説明するように促す。

「何かあったかしら?」
「覚えてない?今日はね、あの日だよ」
「あの日って?」
「……前世で月が滅びた日」

誰に聞いても思い当たらないようで、皆が分からないと首を横に振った。
仕方ないと思い、うさぎは今日という日が何の日かを皆に告げると、一同は驚き絶句した。

「どうして分かったの?」
「ただ、何となく感じるの。月の痛みが、身体中に伝わってくるんだ。まもちゃんもでしょ?」
「ああ、夢で見た」
「それが今日って訳?」
「そうよ。だから集まってもらったの。まもちゃんと相談してそう決めたの」
「二人はいつからあの日を?」
「うん、中三の時から」
「うさぎ……」
「俺は大学二年からだ」
「衛……」

二人はこの日の事を人知れず抱え込んでいたことを四天王も四守護神も初めて知って衝撃を覚えた。
どうしてこんな大切な事を一人で抱え込み、相談してくれなかったのかと気づけなかったことをそれぞれ呪った。

「心配してくれてありがとう。だけど大丈夫」

皆が心配している事を悟ったうさぎは笑顔で言葉を出した。

「月は私の銀水晶と祈りの力で復興してるから、みんなに見て欲しいんだ」

さ、行くよ。用意してとうさぎは皆に行く用意をするよう促した。
10人で手を取り合い、うさぎは銀水晶をその手に持ち祈り始めた。すると光に包まれ、その場から消えた。

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