暑さになんて負けてらんない!
大階段を降りるとそこはまだまだ灼熱地獄の真夏日。
再び茹だるような暑さの中、公斗のマンションへと急いだ。
当然、まだ家主は仕事で家にはいない。
でも私には公斗から貰った合鍵があるから早く来ても入れるのよねぇ~♪
ガチャガチャ
「おっ邪魔しまーす」
いないことは分かりつつもやっぱり礼儀はわきまえてみる。
家主より早く来たのには理由がある。
え?料理を作るのかって?
それはもう諦めた。
夏祭りでレイちゃんから分けてもらった金魚の世話をしに来たのよ。
毎日私が世話をするって事でここに置いてもらってるから、毎日この位の時間帯に来て餌をあげるの。可愛いわよ~♪
アルテミスが可哀想って?
アイツはそんじょそこらの猫と違うから放っておいても大丈夫。
ママが何かあげるでしょ?シャオチュール的な奴かキャットフードか?
ガチャッ
「来てたか?」
「おかえりなさい♪」
「あ、ああ、ただいま」
家主が漸く帰宅。家に誰かがいることにまだ慣れてないみたいで言い淀んでて面白い。
「金魚に餌は?」
「ちゃんとやったよ~」
「散らかさずに出来るようになったんだな」
「あれはたまたま大事になっちゃっただけですぅ~」
そう、私は金魚の世話の初日にやらかしていた。
水槽を買ってもらい、水を入れようとしたその時滑って転んでそこら辺、雨で浸水でもしたのか?と聞きたくなるほど水浸し。
挙句、転んだ拍子に何がどうなったか金魚の餌も落ちてしまったようで、ふやけて秒でダメにした。
幸い金魚は無事だったけど、公斗には怒られるは私が水浸しになるわ、掃除して餌は自腹で買う羽目になった。……まぁ自業自得なんだけど。
大体フローリングがツルツルピカピカで滑りやすいのが行けないのよ!滑ってくれと言わんばかりだったし。
「あれは見事な滑りっぷりだったな」
「もう、意地悪~あれから慎重に行動してるんだからね!」
「大体お前がドジなのが悪い」
「綺麗好きなのもどうなのかと思うわ」
お陰様で痛い目にあいまくったんだから。
「ところで美奈子、宿題はちゃんとしてるのか?始まったばかりとはいえ、あっという間に夏休みなんて終わるぞ」
出た!宿題ハラスメント。
ママやアルテミスは愚か、今日は亜美ちゃんと彩都っちにも言われ、うんざりしていた。
ここでも同じことを言われて一気に現実に戻される。
分かってた。コイツも口うるさい奴だ。年上で勉強が出来るんだから当然、説教してくる。
宿題はやってないから無視する事にした。
「そう言えばレイちゃんから聞いたんだけど、死んでから私に取り憑いてたって本当?」
「……ああ、そんな事をしてた事もあったな」
「そんなに私の事好きだったの?怖いんだけど……」
「他の奴らもやってたぞ」
自分だけじゃない事をアピールしてきたけど、そう言う問題じゃないのよね。
「私に取り憑いてるの複数の男性だって言ってたんだけど、誰だか分かる?」
「ああ、アドニスくらいしか分からん」
やっぱり、その名前が来たか……。
その名前が聞けただけで充分理解した。
今まで倒した奴らが取り憑いてるって事。
「そっかー、やっぱり倒した奴らが取り憑いてるんだ……」
「特に何をするでもなかったから支障はないだろ」
「まぁねぇ~恨まれてる訳では無いのね?ホッとしたわ」
この話はここで終了し、広がる事はなかった。
私は他の話題を振ってみた。
「毎年毎日暑いわねぇ~。あんた、地球国王子の直属の配下のリーダーだったんだからこの暑さ、どうにか出来ないの?何か涼しくなる技とか無いわけ?」
「無理言うな!そんな凄い便利技など無い!お前こそ金星は灼熱地獄だと聞くが?」
「少ししか住んでなかったから記憶に無いわよ。それに前世は殆ど月で暮らしてたし、快適で暮らしやすかったのよ。地球の暑さは異常よ!舐めてたわ…」
私が生まれた金星は確かに灼熱地獄だと聞くけど、プリンセスが産まれるまでしかいなかったし、前世だから今とは気候は違うはずで、きっと金星も昔は住みやすかっただろうと思う。
月に行ってからはクイーンの銀水晶の祈りの力で常に快適な温度が保たれててとても過ごしやすいと記憶していた。
それに比べて今の地球は温暖化が進んでるとはいえ暑すぎでしょ?信じらんない!
「前世の地球はこんなに暑くなかったぞ。お前もよく来てたから知ってるだろ?」
「そう言えばそうだったかも。エンディミオン王子が着てた甲冑、通気性悪そうだったもんね。あんた達四天王も暑そうな格好してたしね。快適だったから出来た格好だったんだ!…それにしても、うっかり転生してきたけど、覚悟が足りなかったみたい…暑くて溶けそう」
「俺もこんな暑いと思って無かったぞ。美奈子の言う通り地球国王子リーダーとしてその時に応じた便利技が欲しいもんだ」
まだまだ修行が足りんと言いながら私そっちのけで何やら調べ始めた。
こうやって前世の話も気軽に出来るようになったのも今があるからこそよねと思いながら必死で調べ物をしている公斗を見る。
あの頃はお互いの事は殆ど話さないままだった。
暑いけど、同じ地球の同じ時代同じ場所に生まれ変わって恋人として付き合っているからこそ話せることよねとしみじみ思っていた。
そんな事を思っていると暑さの理由を急に閃いた。
「…まもちゃん!そーよ、まもちゃんよ!転生してうさぎと堂々とラブラブ出来る様になってベタベタくっ付いて熱々だから地球も温暖化してこんなに猛暑が続くんだわ!何で今まで気づかなかったのかしら?」
「衛とうさぎさんのせいということか?」
「関係ないとは言いきれないわ!今朝見たもん。公衆の面前で堂々くっ付いてキスしてたの!気温、一気に上昇したわ…」
「なるほど、一理あるかもしれない。地球国の王子の生まれ変わりだからな」
これはまずいわね!
これ以上のイチャラブ禁止令出さなくちゃ!
おわり
※二年前の旧サイト一周年で書き下ろしたものになります。