暑さになんて負けてらんない!


まこちゃん家を出てすぐ、また私は後悔した。
照り付ける太陽に心が折れる。
まさに39度のとろけそうな日、炎天下の中をレイちゃんの家へと向かう事になった。
昼食はガッツリ食べたから体力だけはあるけど、それとこれとは別。
何で私、こんな移動ばっかりする事になったんだっけ?
そんな事を思いながらも何とかレイちゃん家である火川神社に到着した。

そして目の前には第2の試練が待ち構えていた。ーーそう、大階段だ。
私の目の前に嘲笑うかのように堂々とそびえ立っている。
“登れるなら登ってみなさい”と言わんばかりに待ち構えている。
今から登ってやるから覚悟しときなさいよ!と意気込んで一段、また一段と歩を進める。
登り慣れてるはずの大階段だけど、夏は別人の様に登るのが難しい。休み休み登っていく。

やっとの思いで最後の一段を登りきり、鳥居の前まで到着した。
勿論、アポなんて例によって取ってない。
レイちゃんって人は絶対、いるから。ついでにアイツもね?

「レイちゃぁ~~~ん♪」
「美奈」

やっぱり巫女姿で忙しくしてい……無い!?

「あれ?レイちゃん私服?珍しいね?」
「今から出かけるから」
「ガースー君とデート?ラッブラブゥ~~ヒューヒュー♪」

まさか出かける事もあるとは思わず、正直大階段と喧嘩し損だとガッカリした。
しかもガースー君はいない。デートの可能性大。そして参拝客もほとんど居ない。
夏で暑すぎて人があまり来ないからその隙に愛を深めるのね?

「何勘違いして1人で盛り上がってるの?」
「え?デートじゃないの?」
「違うわよ!仕事よ」
「仕事?……はこの神社で巫女でしょ?」
「それだけじゃないわ。除霊の仕事もやってるの」
「除霊の仕事?いつの間に……」

霊感少女である事を活かして、まさか除霊師みたいな仕事までしていたとは、なんて言うか……がめつい!

「前からちょくちょくね。あまり気乗りはしないけど、羽振りいいし儲かるのよ」
「流石レイちゃんね……。所でガースー君は?」
「彼は海の家でバイト」
「何それ楽しそう!」
「夏季限定でかき氷屋やってるわよ」
「今度賑やかしにみんなで行こうよ!海、楽しそうよね♪」
「邪魔でしょ?それに面倒くさいわ」

相変わらずレイちゃんクール。
だけど気温は暑いわ。

「時間だから行くわ」
「そんなぁ~、暑いから涼みに来たのに……」
「大人しく家に帰って宿題でもしてなさいよ」
「それじゃつまんない!せめて怖い話聞かせて!涼しくなりたい」
「急に言われても……」

それもそうよね?これから仕事だって急いでる人の足を止めさせてまでさせることでもないし。

「そうねぇ、じゃあ一つだけ」
「なになに?」
「美奈に男の人が数人、ずっと取り憑いてるわよ?」
「へ?何それ、怖い!誰?誰が取り憑いてるの?数人?」
「前々から言おうか迷ってたけどね。前はクンツァイトも時々取り憑いてたのよね。今は当然いないけど」

私の問に答えること無く、狼狽える私を置いて意味深な言葉を残して仕事へと行ってしまった。
怖い話をしてと言ったのは確かに私だけど、私自身の事を言われるとは思いもしなかったから動揺を隠せない。
完全に置いてきぼりをくらった私は、レイちゃんの言葉に思い当たる節がありすぎる為、真昼間から神社で一人、考えながら怖くなっていた。

男の人が数人?東先輩にエースに、私が今まで殺して来た人達に取り憑かれているって事よね?死んでまでストーカーしないで欲しい。
ってそれよりも安らかに天国にでも言って欲しいわ!
取り憑いても何も無いわよ?
特にエースには成仏して欲しい。
いつから取り憑かれてるんだろう?
死んだ直後くらいなのかな?
私の前に現れたのはたったの1回だけだったけど、レイちゃんはずっと見ていたんだね。

そんな事を思いながら、せっかく大階段を攻略して来たのだからと少し涼んでいくことにした。
その間、参拝客は全然来ない。
絶対あの大階段がネックになってるんだ。
そりゃ~他で仕事ってなるよね……。
なんて黄昏てたら16時になっていた。
そろそろ公斗の家に行かなきゃ!とあの大階段を意気揚々と降りて行った。

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