七夕に願いを込めて
「雨、降らないといいね」
せっかくの楽しい気分がテスト勉強により台無しになってしまった。うさぎは気分を変えるため、雨が降っている空を見上げて呟いた。
「降ってる最中だけど?」
先程から思っていたが、この子は本当に大丈夫なのか? レイはやれやれと天然っぷりに頭を抱える。
「止むといいわね。が正解よね」
そこに亜美が正論で畳み掛けて応戦してきた。
「いや、だからね! 七夕当日がってこと!」
「うさぎって、主語がないから分かりにくいのよねぇ」
「美奈も大概だと思うけどな」
うさぎは七夕の日を思っていた。この時期は雨が多い。せめて曇りでもいいから、天気が持ってくれるといいなと心から思っていた。
せっかく、会えない二人がやっと会える貴重な日なのだから。
「織姫と彦星、会えたらいいな」
現実的な話をしている女性陣を尻目に、和永は空を見上げてそう呟いた。
「そうだな。俺達みたいに幸せになれたらいいのにな」
「一年に一度だけの逢瀬で、会えることが幸せとは限らないんじゃないかしら?」
和永や勇人の呟きに、彩都だけは異議を唱える。
「夢がないなぁ」
「だってしょうがないじゃない! 今度いつ会えるか分からない想い人を見送る切ない気持ちを知っているからこそ、おいそれとは軽口叩けないわよ。ね、リーダー?」
「あ? ああ……」
彩都に急に振られ、動揺する公斗。相槌を打つくらいしか出来なかった。
「オマエ達……」
衛はそこで初めて四天王の本当の想いを知ることになり、絶句した。
セレニティとの逢瀬を繰り返し、その都度月へのゲートを潜り帰っていく恋人の姿を切ない気持ちで毎度見送っていた。四天王はそれぞれ、月の姫との禁断の恋を咎めたり、黙認していた。
しかし、その中で月の姫付きの従者ーー四守護神とそれぞれ護衛を共にする中で、特別な想いを抱いていた。
彼らも又、彼女たちが月へと戻るのをいつも悲痛な思いで見守っていた。ただ、王子がそれ以上に辛い面持ちで見送っているのを傍らで見ていたため、四天王はそっと胸の中へと止めて想いを仕舞い込んでいた。
「気付いてやれなくて、すまない」
「衛のせいじゃ無いさ」
「そうよ、気にしなくてもいいわよ」
「寧ろ、この気持ちは衛がもたらしてくれた縁だろ? 寧ろ感謝してるんだぜ!」
「我々が勝手に思いを抱いただけだ」
そう、互いの主であるエンディミオンとセレニティが恋に落ち無ければ出逢うことも、特別な感情を抱くことも無かったのだ。
勿論、同じく禁断の恋。故に、その想いは主と違いそれぞれ隠していた。
「今はこうしていつでも会える様になったんですもの」
「クイーンセレニティや衛とうさぎちゃんのお陰だ」
「あたしは何にもしてないよぉ」
「そうだな。うさぎと衛のお陰であたし達も幸せになれた」
それぞれ、四天王も四守護神もうさぎと衛に素直に感謝した。うさぎも衛も照れていた。
「前世はマーズと一緒の護衛になるかも賭けだったしな」
ポツリと不満を吐露する和永。
エンディミオンとセレニティは勿論、お互いに逢おうと約束の下によっぽどの事がない限りは必ず逢える。
しかし、護衛をする四天王と四守護神はそうではなかった。護衛と言う仕事ゆえ、想い人と一緒になるとは限らない。互いに忙しい身。交代で護衛を行なっていた。
「用事を作って逢いに行ったりしたっけな」
逢いたい。この想いは何だろう? それを確かめる為、公務等の合間に地球に降り立っていた四守護神。その度に、想い人と密かな逢瀬をしていた。
勿論、逢いたいから。恋い焦がれた結果逢いに行った訳では無い。それぞれ、主であるセレニティを想う結果だった。
「あたしは、草花が好きなプリンセスのため、ネフライトに花の知識を教えてもらいに」
「私は、プリンセスを守る為のスキル。アーチェリーの特訓をジェダイトに」
「あたしは、地球の知識を学びにゾイサイトを困らせたっけ」
「あたしは、プリンセスのために強くなりたくて、剣の相手をクンツァイトにねだったわ」
まこと達は、それぞれ昔の事を思い出し懐かしんだ。
「それぞれ来てくれたお陰で、楽しかったな」
「余計、想いが募って切なくもなったけどね」
「素直じゃないな、ゾイサイト」
「そんなこともあったな」
四天王も昔を懐かしんだ。
「みんな、あたしが地球に降り立ってしまったばっかりに、辛い思いをさせていたんだね。ごめんなさい」
無邪気に地球に憧れて降り立ち、エンディミオンに恋をしたセレニティ。当時は自分だけが辛い思いをしていると思っていた。
しかし、彼女たちもこんなにも恋で苦しんでいたことを、どれだけ罪深い事をしていたのかを今初めて知った。
「うさぎは悪くないわよ! 恋をしてしまったあたし達が悪いの」
「でも……」
「今はお陰でこうして恋人ができたんだ。感謝してるよ」
「プリンセスの幸せは私達の幸せでもあったわ。今もそれは変わらない」
「ずっと、何があっても支えて行くわ」
「みんな!」
「勿論、俺達も以下同文だ!」
「勇人、雑にまとめるな!」
「ま、アンタらしいけどね」
「そう言うことだ。衛、これからは俺らも一緒に支えるぞ。うさぎさんと幸せになれよ」
「ありがとう」
前世同様、現世でも引き続き衛とうさぎへの忠誠を誓う四天王と四守護神。
「俺とうさは、オマエ達の幸せも願っている。その為に転生させたんだ。気持ちは有り難くもらっておくよ」
「言われなくても、私達も彼女と幸せになるわよ! もう、一生離してやんないんだから!」
衛からの頼みに、彩都は何故か宣戦布告して、亜美の腰に手を伸ばしそのままグイッと引き寄せ抱き締めた。その行為に慣れない亜美は赤面し、顔から日を吹く勢いに茹だっていた。
先程までの鬼の形相から一変、恋する乙女の顔をする亜美に、その場にいた誰もが衝撃を受けた。正に、恋は人を変えるを目撃したようだった。