七夕に願いを込めて


 すると、そんな折。又一つ、違う声が聞こえてきた。

「ごっめーん! 遅くなった!」

 黄色い声が聞こえてきた。金髪ロン毛によく映える赤いリボンを頭に結って笑顔でコチラに手を振っている。
 対象的に隣に歩く男は彼女とは対象的に、銀髪ロン毛に仏頂面をぶら下げている。いかにも面倒臭いと言わんばかりの顔だ。

「頑固オヤジの説得に戸惑っちゃってぇ~」
「誰が頑固オヤジだ! それに“手間取る”だろう」
「えへへ~、そーともゆー」
「そうとしか言わん!」

 やれやれと言う顔とともに、深いため息をつく美奈子曰く頑固オヤジ。
 美奈子の言う通り、乗り気ではなかった公斗。低俗で時間の無駄だと感じていた。
 しかし、全員来るのにあんただけ来ないなんて私が可哀想じゃないの?一人でラブラブバカップル四組を見てる私を想像しなさい!惨めでしょ?逆の立場だったらどう? それはそれは切ないわよ? 恋人いるのに一人の方が断然、沁みるわよ! と、凄い剣幕で捲し立てられ、渋々重い腰を上げてここに来たと言う訳だった。

「後は亜美と彩都さんね」
「アッチは亜美ちゃんが切り出す勇気を持ってるかどうかよね。言ったら、ノリノリですぐに来そうだもん」
「肝心の亜美が奥手なのがなぁ……」

 美奈子、まことは亜美の恋愛に積極的でないことに頭を抱えていた。

「想われてるって、幸せな事なのになぁ~」

 しみじみと。そして聞こえるように大きな声で言う美奈子。
 チラッと公斗を見るも、自分への嫌味と気づいていないのか明後日の方向を向いて素知らぬ顔をしていた。それが又腹が立つ。

 そして、遂に! 最後の待ち人が登場する。

「来てあげたわよ!」

 鳥居の方向から聞こえてきた声は亜美では無く、彩都の方だった。勿論、亜美も一緒だが彩都と一緒に歩いているのを全員に注目され、恥ずかしくて声も出なかった。

 と、その時だった。

「あ、雨?」

 辛うじて曇り空を保っていた天候は、亜美の登場と共に遂に雨が降り出してしまった。

「亜美、いらっしゃい」
「ごめんなさい、遅くなっちゃて」
「全然、大丈夫だよ」
「言い出しにくかったんでしょ?」
「まぁまぁ」

 五人揃い、楽しく雑談するうさぎ達白月五人娘。
 一方の男五人は余り会話は弾んでいないようだ。

「じゃあ、短冊渡すわね」

 レイはうさぎ達の目的である短冊を手渡す。

「わーい、ありがとう。レイちゃん」
「五枚も書くのか?」

 美奈子の手に渡された短冊の枚数を確認した公斗は、強欲な奴だと呆れて聞いてきた。

「一枚くらいはアンタにあげてもいいわよ?」

 五枚は流石に多いと感じていた美奈子は、公斗に一枚渡してあげた。
 一枚渡されたものの書くことが無いと公斗は頭を悩ます事になってしまった。
 一方の美奈子は慣れた様子でスラスラ四枚に願い事を書いていく。書き慣れた様子の美奈子に公斗は感心する。

「はい、公斗! 上に吊るしてくれない」
「何故わざわざ上なんだ?」
「天に近い方が、より願い事が叶う気がするから!」

 理屈ではない! ツベコベ言わずに上に吊るせ! と美奈子は圧をかける。渋々短冊を持つ公斗は、美奈子の願い事を盗み見る。

「“アイドルになれますように”“ずっとみんなといられますように”“彼氏がもっと優しくしてくれますように”“うさぎがずっと笑顔で幸せになれますように”か……」
「あ、見たわね!」
「上に吊るしてやるんだ。駄賃だろ」
「大目に見てやるか。言霊だしね」

 声を出して願い事を言われて腹がたった美奈子だが、公斗が声を出して言った事で願い事が叶いそうな気がしたので、許すことにした。
 高い所に短冊を吊るしてくれた事にも患者していた。
 しかし、その細やかな幸せは公斗の短冊を見た瞬間に諸共崩れ去ることになってしまった。

「俺はこれだな」
「“彼女の成績向上”ですってぇ? 酷い!余計なお世話だし、公斗の願い事を書きなさいよ!」

 公斗の願い事を見た美奈子は再びキレた。

「これが切実な俺の願いだ。来週の期末テストの勉強は?」
「あー、聞こえないー」

 二人のやり取りを見ていた亜美も思い出したかのように反応を示す。

「うさぎちゃんとまこもテスト勉強してるの?」

 毎年思っていたことだが、ここでこんな事をしている場合なのかと亜美は思っていた。

「あたし達のことは、良いよ」
「そうさ、気にしないでくれよ」

 案に気にしてほしくない。気にするなとうさぎとまことは思っていた。二人は完全に美奈子のとバッチリ。巻き込まれた形になり、美奈子と公斗を激しく恨んだ。飛び火もいいとこだ。

「うさにはこれから俺が教えるよ」
「俺も、まことのカテキョしてやる!」

 愛する彼女の一大事に立ち上がる男二人。喜ぶが勉強はしたくないうさぎとまことは複雑な気持ちを抱いていた。
 だが、そうは問屋が卸さない。

「ダメよ! 二人とも信用出来ないわ! 公斗さんのことは信用しているから美奈を任せられますが、衛さんと勇人さんはナニを教えるのか…… 二人の親友として、見過ごせません」

 勉強となると引くぐらい熱くなる亜美。今回も例外ではなく、鬼と化していた。
 全否定された衛と勇人も、凄い剣幕の亜美に呆気にとられる。
 そしてもう一人、何故だが亜美からの信用を得た形になってしまった公斗は複雑な心境になる。一応は公斗も美奈子の彼氏で男だ。“もしも”と言う事もある。
 しかし、美奈子の成績向上を願った張本人。きっと美奈子をどうにかしてくれると感じていたが、公斗にとってはある意味プレッシャーだった。

「亜美ちゃん(涙)」

 どちらにせよ、テスト勉強が華麗に決定してしまい三人のアホっ娘は今の雨より大洪水な涙を心の中で流していた。

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