七夕に願いを込めて


 七月五日の午後。和永は大学の講義を終えていつもの様に火川神社へとバイトをするために鳥居をくぐる。
 すると、いつもと様子が違いレイと宮司であるレイの祖父が何やら忙しくしていた。

「レイ、何やってんだ?」

 二人が手に持っているもの、運んでいるものを見て大体の想像は付く。ただ、ちゃんと詳細を確認したい。そう思い、ストレートに質問してみた。

「七夕の準備よ」

 見ても分からないの? と言う顔をするレイ。
 はい。やはりそうですよね。と和永はココロの中で分かりきった事を聞いた事に申し訳なく思った。
 宮司の手には数本の笹の木。レイの手には短冊がそれぞれ持たれていた。時期的にももうそんな時期かと和永は趣を感じていた。

「でも、こんなにいっぱいの笹の木どうしたんだ?」
「うちの神社の敷地内にいっぱい生い茂っているのよ。だから神社で利用出来ないかって考えて、毎年七夕限定で、絵馬の前に設置して参拝客に短冊を書いて貰うイベントを催しているのよ」

 大して気にしたことは無かったが、確かに言われてみれば神社の裏は竹藪。
 七夕と言う性質上、神社とも相性が良さそうに思う。笹の木も、無駄に伐採されるよりこういう使い方をされたほうが嬉しいだろうなと和永は感心した。

「へえー、楽しそうだな」
「楽しむのは後じゃ! それよりお前さんも傍観せず笹の木の設置を手伝ってくれんかのお」
「喜んで!」

 レイと話していると、宮司であるレイの祖父に手伝う様言われる和永。和装に着替えるのもそこそこに、そのまま祖父の手伝いをする。

「いやぁー、男手があると助かるのお」

 去年までは一人で設置していたため、宮司は男手の有り難さが身に沁みた。

「ここら辺でいいですか?」

 渡された笹の木を言われるがままに絵馬の前に設置していく和永。

「おお、上出来じゃ」
「でも、絵馬が掛けられなくなるんじゃ……」
「いいのよ。七夕限定で笹の木に吊るす短冊が絵馬代わりなんだから。そんな気にしなくても」
「なるほど」

 そう言う事なら納得だと和永は感心する。毎年の行事になっているため、常連の参拝客にとっては夏の風物詩。七夕の時期には短冊に願い事を書いて吊るすのが当たり前になっている。

「本当は七夕当日に縁日でも出来れば良いんだけど……」

 レイの理想としては七夕を火川神社で楽しく盛り上げるために縁日をすることだった。
 しかし、この時期の日本は梅雨真っ只中。七夕当日も雨であることが多い。その為、やりたい気持ちとは裏腹に出来ずに来ていた。

「雨が多いもんな……」

 和永はそんなレイの気持ちを汲み取り、出来ない訳を言葉にする。

「そうなのよね。神社の繁栄が……」

 雨という気候に左右され、レイは悔しさをにじませる。
 前世では決して起こり得ない悩みに振り回されるレイを見て、同じく切ない気持ちになる和永。

「こればっかりはなあ……」

 どうすることも出来ない問題だけに、掛ける言葉が見つからない。

「一段落じゃな。わしは疲れたからお暇させてもらうとするぞ」
「ええ、ありがとう。ゆっくり休んでね、お爺ちゃん」
「後は俺らに任せて下さい!」
「頼もしいの。お言葉に甘えてゆっくりさせてもらうよ」

 老人である宮司のレイの祖父。力仕事は一苦労である。和永の体力を目の当たりにした宮司は若い二人に任せて、社務所へと入っていった。

「それにしても、笹の木多いな」
「一本は美奈達で埋まると思うから」
「毎年来てるんだ?」
「ええ」

 毎年の事。美奈子達が来るだろうと和永も想像はしていたが、一本丸々埋まるくらいの短冊を書くとは何と強欲な奴らだろうと和永は思った。

「今年はみんな、恋人を連れて来るんじゃないかしら? そろそろ来ると思うけど」
「ああ、アイツらも来るのか」

 だから笹の木一本なのかと和永は納得した。
 そして、むさ苦しくうるさくなるなとも。

 すると、それから少し経ってから甲高い声が鳥居の方向から聞こえてきた。

「レイちゃぁ~~~~~~~ん!」

 鳥居の方向に顔を向けると、笑顔でコチラに手を降るうさぎだった。衛と腕を組み、仲睦まじくコチラにやって来る。

「今年も来たよ♪」
「いらっしゃい、うさぎ」
「いらっしゃい、衛。良く来たな」
「そうだったな。今年は和永もいるんだったな」
「本当だ。何か不思議な気分だね」

 衛もうさぎも和永がこの神社にいることに慣れない。不思議で仕方ない。
 和永自身も神社で二人に会うのは変な気持ちだった。二人は滅多にここを訪れない。二人はいつも衛の家や違う所にデートをする。

「二人とここで会うのは俺も変な感じだよ」
「だよな」
「みんなはまだなんだね?」
「いつも通りじゃない」

 二人はデート感覚でここに来るため、到着が皆より早い。
 最も、今年美奈子達が遅い理由はそれだけではないだろう。それぞれ恋人と一緒に来るだろうが、説得に些か時間がかかっているのかもしれないとレイは思っていた。

「じゃあみんな来るまでお喋りして待っとこ☆」
「じゃあ、参拝でもするか?」

 せっかく来たんだ。たまにしか来ないからと衛は参拝しようとうさぎに提案する。

 その時だった。

「レイ、お待たせ〜♪」
「レイちゃーん」

 鳥居からポニーテールを揺らしながら手を降って、長身の女の子がいた。傍らには、ガタイのいい男も一緒に。手を恋人繋ぎにして、仲睦まじく幸せそうな笑顔でレイ達がいるところまで歩いて来る。

「まこ、久しぶりね」
「二番手はお前か……」

 四天王一むさ苦しい男、勇人の登場に和永はウンザリした。

「レイちゃん、相変わらず綺麗だな~」
「無邪気な奴だな」
「マイペースと言うか……」

 勇人の発言に、和永も衛も呆れる。

「まだ、揃ってねぇんだな?」
「ああ、後は彩都とリーダーだな」
「じゃあ、最後は偉そうにリーダーカップルが登場に千円!」
「神社で賭け事とは不謹慎だぞ、勇人! 罰当たれ!」

 何故か来る順番を賭け出した勇人。

「三人、仲いいねぇ♪」
「そう?」

 男三人の会話を近くで見ていたうさぎは、呑気にそう呟く。うさぎの目にはどう映っているのだろう。耳は正常なのだろうかとレイは乾いた返事をした。

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