未知との遭遇


『アクティブ彼女との付き合い方』


この日のデートは兼ねてから美奈子が来たがっていたバッティングセンター。
最寄りのバッティングセンターと言っても少し遠く、俺の運転で向かっていた。

「ちょ~~楽しみ♪」

前々から行きたいと言っていた美奈子は、隣の席であからさまに嬉しそうにしている。
デートでバッティングセンター等とは全く色気が無い。そう考えていた俺はアクティブな美奈子らしいとは思うが気乗りがせず渋っていた。
しかし、余りにも執拗いので次のテストで頑張れば連れて行ってやると約束をした。
そして、嫌々ながら不得意な科目は俺に聞いたりしながら頑張り、美奈子にしてはいい点数を叩き出した。

「空振りばかりにならないと良いがな」

運動神経抜群と言えど向き不向きがある。空振りと言うオチもある事を現実として突きつけてやる。

「ホームランばっかり打って腰抜かしても知らないわよ!」

失礼ね!と怒りながら反論してくる。

「ストレスの溜まり具合は半端じゃないからね!打って打って打ちまくるんだから!」

大嫌いな勉強を強制的にやらなければならなくなった事で、ストレスが溜まってしまったらしい。結果的にバッティングセンターでの目的も高まっていた。

「何故そんなにバッティングセンターに行きたいんだ?」

色気より運動に走る美奈子。バッティングセンターに拘る理由を聞いていなかったことに気付き、聞いてみた。

「剣を振る腕を鍛えるためよ!」

先程まで笑顔だった美奈子だが、答えた顔は真剣な眼差しでこちらを真っ直ぐ見据えて来た。
そうか。やはり美奈子は美奈子だ。戦士の修行を兼ねていたのか。流石だと惚れ直す。
勿論、楽しむ目的もあるのだろう。
ただそれだけでは美奈子は満足出来ない。次いでに鍛える。修行目的込みと言うわけだ。

「それにバレーやるにも腕を使うから、バッティングが一番なのよ」
「なるほどな」

馬鹿な美奈子の癖に色々と考えていて驚く。こういう知恵はある様だ。
そう言う事なら喜んで協力してやろう。俺も随分と身体が訛ってしまっているからな。

「着いたぞ」

喋っていると目的地のバッティングセンターに着く。駐車場に車を入れる。

「わーい、楽しみ~」

車を降りてセンターの中へと入る。

「あれ?あの人集りは何だろう?」

目的地へと向かおうとすると、何故か人集りが出来ており中が塞がっていて入れない。
テレビ撮影が行われているのか。それとも本物の野球選手が来ているのか。はたまた素人の上手い奴か。
そんな事を考えながら、中に行くことを諦めていた俺を他所に、美奈子は人集りの中をかき分けて進もうとしていた。ミーハー心に火がついたのだろう。この人々が一体何を見ているのか単純に気になると言った所か。
それにしても猪突猛進だ。何事にも臆すること無く突き進むのは美奈子の長所だ。その姿は勇猛果敢だった。

「公斗、アンタも一緒に行くのよ!」

一歩引いた所で傍観を決め込もうとしていたが、美奈子に手を取られてしまい強制的に行く事が決定となってしまった。
どんな理由であれ、俺は興味は無いしただのミーハーになり下がりたくは無いのだが。
そんな事を思っていると、勢いで前に出ていた。そして、美奈子の驚きの声で更に俺はそちらに注目する事となった。

「はるかさん!みちるさん!?」

美奈子の見ている方向を見ると、そこには天王はるかと海王みちるがいた。
有名人と言えば有名人だが、そこに加えてはるかが悠々とバッティングしている姿があった。そしてそれを楽しそうに笑顔で見守る海王みちる。
その空間だけは爽やかかつ、何故か薔薇が飛んでいる。

「あら、美奈子じゃない。御機嫌よう」
「やあ、子猫ちゃん。乙女がこんな所に何の用かな?」
「二人ともこんにちは!私はデートで。みちるさんとはるかさんもですよね?」
「うふふっええ、そうね」
「でもどうしてバッティングセンター?」
「訛った身体を起こすため、かな?」

なるほど。訛った身体と言うのは建前で、本当は美奈子と同じ考えだろう。
セーラーウラヌスである天王はるかは剣の使い手で名手だと聞き及ぶ。バッティングでその腕を鍛えるのが目的。そう考えて間違いないだろう。
能ある鷹は爪を隠すと言う諺がある様に、何でも無い風を装って努力して鍛えているのだ。全く、気に入らない。
それを証拠に、先程から話しながら打ち続けているバットの振りに無駄が無い。それでいてしなやかで力強い。天王はるか、侮れない。

「みちるさんは?」

一方、先程からただ見ていて傍観者と化しているみちるを見て疑問に思った美奈子は質問をぶつける。
スカートを履いている所を見ると最初からその気は無いのが見て取れる。それにお嬢様がこんな野蛮なものに興味はないだろうし、しないだろう。
はるかと違い、腕を使う技も無い。鍛える必要も無いだろう。

「ヴァイオリンをしているから、腕を痛めるのはダメなのよ。私ははるかの付き添いと応援よ」
「なるほど~」

そうか。楽器奏者は繊細だから身体を大切にすると彩都から聞いた事があったのを思い出す。
しかし、はるかもピアノを弾くと聞いているが、いいのだろうかと気になった。まぁ、アマチュアで趣味程度なら気を使わないのだろう。それよりも戦士の使命やプロのレーサーとしての意志の方が勝るという事か。本物だな。

「美奈子、恋人のお相手してあげなくてよろしくって?」
「ああ、いーのいーの!いつもこんな人だから」
「凄い注目されてますが、大丈夫なのか?」

黙って見ていた俺だが、一言この人集りに言及した。

「ああ、いつもの事だし。それにギャラリーが多い方が気合いが入るから気にならない」
「さっすが、はるかさん!」

レースでも見られて応援されているから場数を踏んで慣れているのか。それとも結構来ていてその度にこの人集りにあうのか。はたまた何処に行くにも囲まれて慣れてしまったと言う意味か。
何れにせよ場数を踏み慣れていて恐ろしい。

「僕たちには気にせずバッティング、楽しんでよ。その為に来たんだろ?」
「あ、そーだった。じゃあ、お言葉に甘えてやりましょー公斗」
「そうだな。美奈子が邪魔してすまなかった」
「うふふっ私たちの方こそお邪魔しちゃってごめんあそばせ」

みんなにはそう言ったが、このギャラリーを前にやるのは些かはばかられた。
決して下手だから見られたくないと言う訳ではない。自慢じゃないが、俺も剣の使い手で名手だ。趣味で通っているから上手い。自慢している様に見えるのが嫌なのだ。
後は美奈子に注目を集めたくないと言う心の狭い理由だ。

「よっしゃー、やるわよぉ~!」

一番早い速度の機械を選び、気合いを入れてスイングする美奈子。
やりたいと言っていただけあり、バットにドカドカ当てて行く。

「見てばっかいないでアンタも打ちなさいよ!」
「では、そうさせてもらう」

アドバイスする事も無い腕前の美奈子に即され、俺もやる事にした。

その後、二人してムキになってしまい天王はるかと海王みちる、その上ギャラリーがいるのを忘れてしまい時間を忘れて何度も延長していた。




おわり

20230903 クン美奈の日

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