アフタヌーンティーでお祝い


寒さも和らぎ、春の足音が聞こえて来たある日、彩都、亜美、和永とレイの四人はとある麻布十番にあるホテルにアフタヌーンティーを食べに来ていた。
レイと亜美が無事に志望校へと合格した祝いをと彩都と和永が前々から計画し、予約をしてこの日を無事に迎えたと言うわけだ。
と言うのも、かなり人気のアフタヌーンティーで、予約が取りづらい。そこに来てこのブームだ。かなり苦労を強いられた。
しかし、何とか予約が出来、来られたという経緯があった。

「やっぱり女の子が多いわね……」

周りを見渡して、彩都が呟いた。
アフタヌーンティーと言う特徴上、やはり女性中心。そこに来て季節柄、ストロベリーフェアーなるものがやっている。自然と女性は多くなる。
なるほど、予約困難の理由の一つはこれか、と彩都は心の中で一人納得するに至った。

「ま、覚悟はしてたけどな」

この状況に和永も苦笑いするしか無く、居心地が悪そうに呟く。

「何言ってるのよ?男性もいるでしょ?」

レイの言う通り、チラホラと男性客もいる。いるにはいるのだが、やはり居心地は悪そうで、どこか挙動不審だ。

「いや、やっぱり俺ら浮いてるって……」

圧倒的女性客を前に、和永はしり込みしていた。
そして、和永はいつぞやに勇人とまことがバイトしているカフェに行った時のことを思い出した。あの時も、男性客が余りおらず、肩身が狭かった。

「堂々としていなさい!その方が楽しいし、かっこいいわよ」

レイからの叱咤激励に、和永はハッとなりシャキッとし始めた。そうだ。こう言う場だからこそ、堂々としなければ、怪しい人と化す。何も悪いこと等していないのだから、楽しめばいい。楽しんだもん勝ちだ。

「よし、食うぞ!」

和永が気合いを入れたそのタイミングで、アフタヌーンティーが運ばれて来た。

「では、亜美とレイの大学合格を祝って」

この会を企画した彩都の言葉を合図に、四人はティーカップを持ち上げ、形上の乾杯をする。

「乾杯!」

各々紅茶を一口飲み干す。そして、お皿に食べ物を乗せる。
彩都は、何を食べるのかとふと気になり、亜美を横目でチラッと見ると、そこには驚きの光景が飛び込んで来た。

「ちょっと、亜美?こんな所で、参考書なんか広げないで頂戴!デザートが不味くなるわ!」

そう、亜美は事もあろうかこんなところでまで参考書を持って来て、勉強をし始めたのだ。

「亜美ちゃん、本当に勉強熱心なんだな」
「参考書を持ち歩いていないと、不安なだけで、そんなんじゃ無いですよ」
「だからってね、こんな所でまでやめてよね!」
「ごめんなさい……」

彩都は、亜美の参考書を閉じて取り上げた。その動作は慣れたもんだった。

「いいのよ。亜美の参考書ホリックには慣れているもの。でもね?これから大学に入ったら、幾らでも嫌っていう程兎に角勉強漬けの日々を送り続けなきゃ行けないのだから、今だけは、せめて大学入学までは少しだけでも勉強は忘れて、頭を休めてアフタヌーンティーを楽しんで欲しいわ。その為にここを誘ったんだからね。分かってる?」

日頃一緒にいても、参考書ばかりに目を落としているからだろうか。彩都は、不満を一気に口にした。

「そうそう、たまには勉強を忘れて息抜きしましょう」
「……それじゃあお言葉に甘えて」
「そうそう、そう来なくっちゃな!」

レイにまでそう言われ、亜美はアフタヌーンティーを楽しむ事にした。最も、彩都に参考書を没収されたのだ。楽しむ他、無くなった。

「まこも、連れてきてあげたかったわね……」

可愛らしいスイーツを食べながら亜美は、こう言うのが一番好きそうな大親友の名前を口にした。

「美奈も好きそうよね」

亜美に釣られてレイもついつい親友の名を出していた。

「うふふ、それを言うならうさぎちゃんもね」
「確かにね」
「まぁ、女性陣はみんなこう言うの好きよね」

再び周りを見渡して、更に女性客が増えた事を確認した彩都がそう零した。

「勿論、レイも亜美ちゃんも好きだろ?」
「それはまぁ、そうね」
「でも、あの子達がアフタヌーンティーで満足するかしら?」
「どうして?」
「それはね、例えば……」

メニューの中の一つ、マカロンを取りながら彩都が神妙な面持ちで言葉を紡いだ。

「この小さなマカロンで美奈子やうさぎが満足するとでも思うの?」
「……無理そうね」

彩都は、正論で殴って来た。
その場にいた三人は、想像して納得した。美奈子とうさぎが品のいい食べ物で満足するはずが無いと容易に想像が出来た。

「まぁ、まことは勉強の一環で連れて来ても良かったけどね」
「話してはいたよな。でも、付いてくる奴がなぁ……」
「品が無いし、大食らいだから却下だったのよね」
「うさぎちゃんの場合は衛とあまぁい時間過ごしたいかなと思ってさ」
「美奈子の場合は、リーダーの方が甘いもの無理でしょ?」
「で、このメンツってわけ」
「なるほどね」

彩都と和永は、どうしてこの二組になったのかと言う経緯を説明した。
美奈子は芸能界へと足を踏み入れ、まことは栄養士の資格が取れる専門学校へ、そしてうさぎは衛と同じ大学にそれぞれ進学が決まっていた。
全員を誘っても良かったのだが、大人数で来る所でもないし、それぞれがこの場に全くもって似つかわしく無い理由が存在した。

「ん、美味しいわ」

亜美は、このメンツになった経緯を知って安堵してマイペースにスイーツを食べ進めた。

「でも、思い出すわね……」
「何を?」
「前世の記憶を」
「前世?」
「ああ、あの事?懐かしいわねぇ……」

レイと亜美は、アフタヌーンティーに来て、前世に思いを馳せていた。
しかし、和永と彩都は何故ここに来て前世なのか。全くもって想像がつかずにいた。

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