この頃はまだ知らない
ゾイ亜美編
小学校に入学してから亜美は、楽しみだった図書室に行く事が日課だった。図書室に置いてある本は全て制覇する。そう意気込んでいた。
登校すると教室には行かずに真っ直ぐに図書室へと向かう。司書か図書委員しかいない、生徒のいないこの時間は静かで落ち着いた。少し勉強をする。
しかし、図書室には亜美一人では無かった。いつも先に来て熱心に本を呼んでいる人物がいる事に気付く。いつもいつも亜美より早い。いつしかそれが気になった。
「又、あの人だわ」
いつもの様に図書室へと行く。するとやっぱりその人は来ていて。ウェーブがかった髪に、ふわりと長い金の髪を一つに括っているその人物。中性的な顔立ちで、女に見えたり、男に見えたりする不思議な雰囲気を持つ不思議な人。ウェーブの髪の毛の様に柔らかい雰囲気を醸し出していた。
「いつも私より先にいる」
別に競っている訳では無いが、いつも先に来ているその人を見かけると悔しい気持ちが込み上げてきた。
それよりも自分以外にも図書室が好きな人がいる。それが不思議で仕方がなかった。物好きな人もいるんだなと自分の事を棚に上げて思っていた。
「あ、あなた……」
ちょっと気になり始めた時、お互い図書室では無い別の校舎の廊下でバッタリと会い、初めてその人が話しかけて来た。
「図書室の……」
「そうそう、図書室の座敷わらし」
「ざ、座敷わらしって。私はれっきとした人間です!」
「分かってるわよ。ふふふ、からかいがいのある子」
「失礼な人ね」
「私は彩都って言うの。君は?」
「私は、亜美」
初めての会話だった。
そこから二人は図書室で度々顔を合わせては、にっこりと笑顔で挨拶を交わすようになった。
図書室だから会話が出来ない。静かにするのがマナーの為、殆ど会話をすることは叶わない。それでも二人はそれで充分だった。
結局、二人は互いの事は名前と好きな本の傾向しか知らないまま、彩都が卒業した事を機に疎遠となってしまった。
そして、二人が再び顔を合わせたのは亜美が戦士になり、彩都が悪の組織の一員として亜美の前に立ちはだかった時だった。あれから五年の年月が経っていた。
おわり