月に代わってお仕事よ!
クイーンとキングが産休と育児休暇を取って二ヶ月が過ぎようとしていたある日の事。クリスタル・トーキョーには四天王と四守護神が集まっていた。
定例会議と言う名の雑談だ。今日の議題は専ら最近の勤務状況。
四天王と四守護神は、それぞれ自分たちの仕事をしながら産休中のキングとクイーンの仕事をそれぞれ引き受けていた。
キングとクイーンは、二人で一緒に公務を行う事が多く、四天王と四守護神も夫婦で公務に当たっている。
その為、お互いに助け合い仕事が出来る環境になっているのだがーー。
「聞いてよ!この仏頂面のおっさんったら」
ヴィーナスがいきなり不満をぶちまけた。
「どうしたの?」
そんな勢いのいいヴィーナスをマーキュリーは包み込む様に優しく聞いてあげる。
「ニコリとも笑わないんだから!全くもう!」
「分かっていた事だろう」
ヴィーナスの不満をクンツァイトが今更なんだと反論する。
そんな二人が引き受けている公務は、外交。社交的でアイドルの活動経験のあるヴィーナスの得意分野を生かす仕事だ。
逆に内向的で無口なクンツァイトには向いていない。しかし、国の一大事。そんな事は言っていられない。
ヴィーナスがいる事で安心していた。
「そうだけど、だからって全く笑わないってどうなの?」
やりにくいったらないわ!とヴィーナスは不満を漏らす。せっかくの社交の場。それなのに笑顔一つしないクンツァイトがそこにいた。
「お前が笑ってるんだ。それだけで充分だろ?」
笑顔にならないと決め込んでいたクンツァイトは開き直った。苦手な事や苦になる事はしないと決めていた。
だが、その事でこんなにもヴィーナスに咎められるとは思いもしなかった。ずっと一緒にいるから分かりきっているし、分かってくれていると思っていたのだが、やはり不満を抱いていたことを知る。
「だからってずっと仏頂面下げて突っ立ってるなんて……この、木偶の坊!」
「堅い話題の時は引き受けてやったろ?」
誰とでも気さくに話せるヴィーナスに対して人見知りを発揮して喋らないクンツァイト。
しかし、ヴィーナスとて不得意な事はあるわけで。難しく堅い話はさっぱり分からない。それをクンツァイトが引き受けていた。
「当然でしょ!それ位はしてくれて当たり前だわ。あのままずっと私のひっつき虫だけで終わっていたらその場でブチ切れてトンズラしてたわよ!」
ヴィーナスの怒りは相当だった。それだけ同じ顔で固まり、一言も発せずヴィーナスの隣にいたのだろう。
「まぁまぁヴィーナス、フォローはしてくれたんだろ?」
「そうよ、クンツァイトにしたら上出来さ」
「社交の場にいる事自体奇跡だしな」
「変わったよ、俺らのリーダー」
なおも興奮が収まらないヴィーナスにジュピターが宥めようとすると四天王がすかさずフォローをした。
前世のクンツァイトと言えば、社交的な場に行く事は全く無く、部下のアドニスに任せていた。酷い時は他の四天王に押し付けてきた。
それを思えば人は変われば変わるもんである。
「みんなクンツァイトの味方なのね?頑張ったのはこの私なのに!」
「楽しそうだったって小耳に挟んだけど?」
「そうね、まるでヴィーナスのオンステージだったって」
「勿論、どんな場所でも楽しむわ!当たり前の事じゃない」
「でも、そう言う場が苦手な人もいるものよ」
普段、クンツァイトに輪をかけて無口なマーズが珍しく口を開く。
この場においてはクンツァイトの気持ちが一番よく分かる人物でもある。
そして明らかに機嫌が悪い。