恋は三次元♡
side ゾイ亜美
ショートヘアが好み。ただそれだけで騙す相手を選んだゾイだった。
穏やかで理知的。奥ゆかしいの三拍子は間違っていなかった。
しかし、身体に触れると蕁麻疹が出る等と変わった体質とは。奥ゆかしい以前の問題。恋愛下手の様だし、落とすのは難しいかもしれないと百戦錬磨のゾイは落胆した。
「ハンカチで繋ごう」
「……はい」
身体に触れられない代わりにと苦肉の策でハンカチを提案。
当たりくじかと思ったが、外れだったかとハンカチの裾を持ちながらゾイはため息をついた。
しかし、ハンカチを伝って亜美の感情が流れ込んでくる。
「緊張、してるの?」
「え?あ、ご、ごめんなさい」
「いや、良いんだ」
緊張をしているであろう亜美に、ゾイは気を紛らわす為にしりとりをする事を提案する。
ところがまさかの“方程式”縛りで数学用語ばかり。余程数学が好きなのだということが伺えた。
「……どうしよう」
恋愛に奥手で何をすれば良いのか全く分からない亜美は、途方に暮れていた。このままではダメだと。
そんな時、あの存在を思い出す。そう、かなずきんだ。ただ、日頃人をバカにしない亜美だが、かなずきんだけは別でゲームのキャラだからかバカだと思っていた。バカずきんと呼ぶ程に。
「バカずきんには頼れないし……」
「ん?何か言った?」
「い、いいえ。何でも」
最も、こんなに至近距離にいれば聞かれてしまうのでかなずきんを使う事は出来ないが。
ただ四人の中の一人として選ばれただけに過ぎないのに何故こんなにドキドキしてどうすればいいか分からないと狼狽えているのだろうと亜美は我に返った。
別に意識する事など無いはず。それなのに、こんなにときめくのは何故なのだろうと違和感を感じていた。
「どうしたのかしら?この気持ち。初めての感覚なのに何故か懐かしい。何か、忘れてい、る?」
思い出さないといけない。だけど、思い出したら行けないような。そんな感覚。
「何だろう、この気持ち。懐かしい感覚。思い出せないこの気持ち。忘れていた何か……」
同じくゾイの方も心の奥底から歯がゆい感情が芽生えて戸惑っていた。思い出したい。けれど、思い出したら後戻り出来ない。そんな感覚。
たまたま選んだなんの感情も無かったはずの騙すためだけの手段。それなのに、恋心が芽生える?ハンカチ一つで。否、己の人選で心が揺らぐとは思いもせず、ソイはただただ戸惑っていた。
ただの色仕掛けが、逆に色仕掛けをかけられてしまったというのだろうか?
「……何だろう?」
「……どうしたのかしら?」
二人が同時に抱いた違和感と感情。その想いは遠い記憶。前世に遡る程の遠い昔の出来事だと知る事になるまで後少し。
おわり
20230910 水野亜美生誕祭2023