七夕に願いを
side Jewel
今日は七夕。牽牛の怒りを買って引き裂かれた織姫と彦星が、1年に1度会える特別な日。
素敵な話だとは思うが、それはただの伝説で、そんな馬鹿げた話などあるハズないと思っていた。勿論、今も信じきれてはいない。
しかし、月には女神がいて、地球や太陽系の惑星を見守っている。月に伝わる聖石で、奇跡を起こす。そんな神話が言い伝えられていた。
それこそ、にわかには信じ難い事で、そんなのあるわけないだろうと、月を見上げては嘲笑っていた。
しかし、主である我らが王子は、事もあろうに月の王国の血を引くプリンセスと偶然に出会い、恋をして逢瀬を繰り広げるようになった。
奇しくもこの出来事により、月には本当に女神がいた事が証明される事になる。
しかし、これは神が定めた掟を背く行為である。それ故、許される事では無い。勿論、こちらも反対せざるを得ない。
そう思っていたのだが、まさか自分自身も神の掟に背く気持ちを持つ事になるとは思いもしなかった。
月の姫君の側近である四守護神の1人に、いつしか心を奪われてしまっていた。
その想いは切なく苦しい。と、同時に自分にも恋をするという気持ちがあった事に嬉しく思った。
決して口には出せない想いではあるが、忘れていた恋心に気づけたのは喜ばしい事だ。
王子と姫の逢瀬が長引くのは、色々と危険だ。後戻りが出来ないのでは無いかと危惧している。王子も、我々も。強いてはこの地球も。
取り返しがつかないようになる前に、何とか終わらせなければ。そんな想いとは裏腹に、状況は何も変わらない。
そんな現状維持な状況に、1番安心してしまっているのは俺自身かもしれない。想い人にまた逢えると、ホッとしている所があるのは事実。
叶わぬ恋だと言うのに、神の掟に背く事は出来ないのにーーー
そう、月の神話はただの伝説や噂なんかじゃないことを体現したのだ。だから、七夕伝説も存在するのではないかと思い始めている。
だから、もしも本当にこの伝説があるのなら、来世ではこの恋が叶う様な世界にして欲しい。
そんな事を願わずにはいられない、綺麗な星の夜だった。悲しい程に、想い人の母星が輝く夜空だった。