彼マント
《ゾイマキュ》
先程からマーキュリーの姿が見当たらない。せっかく用事で久しぶりにクリスタル・パレスへ来たと言うのに、妻に会えないのは欲求不満になると言うものだ。
心当たりが無い訳では無かった。と言うか何処にいるか検討は着いていた。彼女の事は熟知している。と言うか寧ろ、彼女は単純だ。
考えている事など、俺でなくても手に取る様に分かる。彼女の行き先、それはーーー
「やっぱり、ここにいた」
俺が向かった先は、図書館。選択肢は一択で、ここに狙いを定めて真っ直ぐにやってきた。
するとやはりマーキュリーの姿が目に映る。
「疲れて寝てしまったのか……」
マーキュリーにしては珍しく、勉強し疲れたのか。仕事や戦士業が忙しいのか。それとも全部か。疲れているようで、机に突っ伏して爆睡していた。
愛しの夫が横に座っても寝息を立てて、起きる気配もない。
「ふふふっ」
それにしてもセーラースーツはいつ見ても寒そうだ。暖房が効いているとは言え、露出度の高いセーラースーツを見た俺は、身震いした。
掛けるものを、と探すも図書館にはそう言った類のものはどこにも常備されておらず、何も無かった。
仕方ないと思いながら、自身の纏っていたマントを外す。寝ているマーキュリーにかけてあげる。
「風邪、引くぞ」
満足した俺は、図書館から出ていき、ゴールデンキングダムへと戻って行った。
その後、マントが戻ってきたのは二日後で、ちゃんと洗濯されていた。
一つ残念だったのが、マーキュリー直々では無く部下のパラスだったと言う事だ。
《ネフジュピ》
「マント、かっこいいじゃん!様になってるぜ」
「ありがとな、ジュピター」
キングとなったマスターの側近として任命式を終えた俺は、ジュピターに報告がてらクリスタル・パレスへと来ていた。
今回の任命式では、新調されたマントが与えられた。見たがっていたジュピターの元へとそれを見せに来たのだ。
「前世からそのマントに憧れてたんだ」
恋人時代にもそう言ってたな。その時は確か、現世でも上着を袖を通さずに羽織るだけにしている華奢で可愛らしい女の子が授業中にしているのが可憐に見えたから真似てみたとか。
そしたら抜群の肩幅で貫禄があったから大佐って呼ばれたと寂しそうに笑ってたっけ。
女の子に大佐なんてあだ名を付けるとは、センスねぇな。
「じゃあ、羽織ってみるか?」
「いや、いいよ。また大佐って言われたら凹む」
「何言ってんだよ!俺らはあん時のヤツらとは違う。ガタイがいいのは戦士として鍛えている証だろ」
「ネフライト……」
昔に言われた事、やっぱりちょっとしたトラウマ化してんじゃねぇか!言った奴、見つけたら殺る!
トラウマを払拭する為にも、ジュピターがマントを羽織る事には意味があると感じた。
バサッ
「どう、かな?」
「流石は俺のジュピター!似合ってるぜ♪惚れ直した」
「大佐……かな?」
「いや、様になっててデルモっぽい。大佐なんて言った奴、センス無かったんだろ」
貶したヤツを一蹴して、ジュピターを褒めると頬を赤らめて喜んでいた。
そして、モデルみたいに色んなポーズを取って楽しんでいたジュピターからマントが戻されたのは久しぶりに愛し合った後だった。