誕生日パーティー


「せつなー、そろそろ時間よ」

ノックしてすぐにガチャッと研究室のドアを開けてレイカが入って来た。
横目でチラッと確認したせつなだが、一段落していない手を休めること無くパソコンに向き直り、キーボードをひたすら打っている。

「もう、せつな!こんな日にまで研究?」

研究熱心なのは良いけど、若いと言えども程々にして体調管理しないとと母親の様にレイカかせつなに小言を言う。

レイカがこれだけ呆れるには理由がある。
今日はせつなの誕生日。仲良い連中でバースデーパーティをする予定をしていた。
事前に伝えていたにも関わらず、時間になっても来ないせつなに“まさか?”と思い研究室に迎えに来たら案の定。研究に没頭しているせつなが目に映る。

「時間はとっくに過ぎてるのよ?」
「もうそんな時間でしたか?」

講義が終わってまだ時間があると腕時計を確認したせつな。ギリギリまで頑張ろうとして結局時間を過ぎても気付かずのめり込んでしまっていた。
“主役は遅れてやって来るもの”とは言うものの、時間を司る戦士としてこれでは示しがつかない所か失格だとせつなは凹んだ。

時間を忘れて没頭していたのは行きたくないと言う気持ちもあったからだが、だからと言って遅刻していい理由になどならない。
常日頃、ほたるやはるか、みちるに対して時間厳守だと口酸っぱく指導しているのに、これでは合わせる顔がない。

「全くもう!研究し出したら時間も周りも見えなくなる癖、治した方が良いわよ」
「……すみません。以後、気を付けます」
「反省は後でいいから、片付けて行くわよ」

強引なレイカの勢いに任せて、後片付けもそこそこに研究室を後にした。
後ろ髪を引かれながら、せつなはレイカと違って気が重くなりながら誕生日会会場のイタリアンレストランへと向かう。

「お待たせ!本日の主役、連れて来たわよ」
「よ!せつなちゃん、待ってました~」
「漸く主役の登場か」

その場に着くと、仲のいいメンツの2人のメンズーーーレイカの恋人である元基と、その友達でせつなに想いを寄せる遠藤が爽やかに迎え入れてくれた。

「すみません、遅くなってしまって……」
「大丈夫さ。主役は遅れてやって来るものだから」
「そうそう、待つのも良い男の醍醐味だからね」
「2人とも、せつなを甘やかせないで頂戴!」
「レイカちゃん、キビシー」
「そこがレイカさんのいい所さ」
「ささ、座って」

レイカに惚気る元基を置き去りにし、遠藤はその場を立ち自分の前の席まで行って椅子を引き座るようせつなをエスコートする。
その行動は、スマートで女性慣れしている様な普段やり慣れているように感じて、せつなはしり込みした。

そう、せつなが来たくなかった理由。それは遠藤の存在。
悪い人では無い。寧ろ良い人オーラがいかんなく出ているが、初めて会った日からせつなに一目惚れして、今日に至るまで事ある毎に求愛していた。
そんな彼との相席、気が重くない訳が無い。

しかし、この誕生日会はその遠藤が発足した物。そこにレイカと元基も乗っかり、あれよあれよという間に決まっていた。

「ありがとうございます」

逃れられないと分かり、観念して重い腰を落としてせつなは椅子へ座った。
それを合図に、レイカが口火を切る。

「さて、それでは改めましてせつな、誕生日おめでとう♪」
「せつなちゃん、誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとう。この世に産まれてきてくれてありがとう」
「皆さん、ありがとうございます」

気乗りしなかったとは言え、こうして祝ってくれるのは有難いとせつなは単純に感謝した。

「今日は僕達の奢りだからじゃんじゃん食べて」
「来る前に適当に色々頼んじゃったけど、大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫です」

遠藤が言った通り、座ってすぐに色々運ばれて来て、目の前にはあっという間にテーブルいっぱいに食べ物が乗っていた。
そして、勿論お酒も。

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