過去の刹那に身を焦がす


「初めまして、スモールレディ」
「あたしを知ってるの?」
「こんな所まで来ることが出来るのは、シルバーミレニアムの一族の者だけです。私の名はセーラープルート、この扉の番人です。あなたはクイーンに瓜二つですよ。きっと美しいレディになるわ」

跪き、頭を垂れて挨拶をすると不思議そうな顔をしていた。
シルバーミレニアムの一族だからと言うのも本当だけれど、そのピンクのお団子頭はよく覚えている。何度も抱かせてもらっていたから。
泣きながらこちらに来たから、何か悲しい事、嫌な事があった事が伺えた。
励ましてあげたくて魔法を使って笑顔にしてあげようと思った。

「アブラカタブラ~、ポン!」

ガーネットロッドでお花を出してあげると、とっても喜んでくれた。
そしてこの日を境にスモールレディはちょくちょく私に会いに来てくれた。
クイーンがしょっちゅうここに来ていることを心配して「プルートの邪魔をしていない?」と聞いてくる事もあったけれど、寧ろ逆で。とても私は救われていた。

落ち込んだ時や悲しい時、寂しい時に来る事が多かったけれど、その度に私は魔法使いになって笑顔にしてあげた。
クイーンに頼まれた事もあるけれど、何より私自身がスモールレディを励ましたり、笑顔を見るのが好きだった。成長を見守りたいと思った。

「ねぇ、プルート?どうして私にはシルバーミレニアムの額の印がないんだろう?成長も出来なくなっちゃったし……」
「貴方はれっきとしたクイーンの娘です。額に印がないのは、貴女が地球人として産まれたからだと私は推測してます。貴女は貴女です。例え額に印が無くても、貴女は立派なシルバーミレニアムの一族ですよ。成長もきっと出来ます!自信を持って」

そう、額の印が無くてもスモールレディは立派なシルバーミレニアムの跡継ぎ。
成長出来ない理由は分からないけれど、きっと成長出来るし、額の印もその時に現れると信じてる。
その時までスモールレディの中で力を蓄えているんじゃないかと、成長の機会を伺っているのだろうと思う。

私はここを動けないけれど、スモールレディが立派なレディに、いいえ、クイーンとなり立派にこの太陽系を治めている姿を見守り続けたいと、小さな体で悩んでいる姿を見てそう思った。

けれど、ブラックムーンの激しい攻撃のせいでその願いは叶わなかった。
いいえ、少し叶ったかもしれない。
敵の手により成長を遂げたスモールレディを少し見ることが出来た。緊迫した事態の中だったけれど私はそれだけで嬉しかった。
銀水晶を、この星を守ろうと、敵の手に落ちても必死に頑張るその姿はクイーンにも負けず劣らずだと感じたから。

そんなスモールレディを守れるのならと、自ら最大のタブーをあの時に犯して死んだ事は後悔していない。
寧ろ、月の王国が滅びたあの日、動くことを許されず見ている事しか出来なかった時とは違い、時の扉を離れて戦場に向かって戦士として役に立てたことは今でも私の誇り。
ずっと憧れていたキングに見守られて最期を迎えられた事も、嬉しかった。
ただ、スモールレディを守り切れなかった事は心残りだった。

暫くはクイーンのご好意でクリスタル・パレスで永遠の眠りについていたけれど、ある日、クイーンに任命され、そこで私は漸く普通の“冥王せつな”としての生を生きる事になった。
正直、大学に入るまで戦士であることは忘れて普通に生きていた。
キングへの恋心も綺麗さっぱり忘れていた。

でも、デス・バスターズの本格的な攻撃で戦士として目覚め、何もかも思い出した。
目覚めた私はキングへの恋心よりも戦士としての使命の方が勝っていた。
あの日の恋は良い思い出。そう心から思えた。
それはやはりキングの過去の姿のプリンスが誰よりもプリンセスを前世で見た時と同じ様に愛してらっしゃるのがヒシヒシと伝わったから。
お似合いのカップル。素直にそう思った。

「せつなはその恋に後悔はしてる?」
「いいえ、全く。例え実らないと分かっていても、良い経験が出来ましたし、成長させて貰えたなと思ってます」

しまった。レイカさん、聞き上手、聞き出し上手でついつい喋り過ぎてしまった。

「そっか、なら良かった!私も、こんな話が聞けるなんて思ってなかったから、聞いちゃいけなかったかなって反省しちゃった」
「そんな、レイカさんは何も悪くないです。私が話そうって決めたので、聞いて下さって嬉しかったです」

“私、実はキングに恋してました”なんて話し、仲間の戦士には言えないから。こうして聞いてくれる人がいて、本当に良かったって話した今はそう思う。
聞いて欲しかったのかもしれないし、聞いてもらうことでまたスッキリして戦士として使命を全うすることに邁進出来る。
レイカさんのお陰で色んな事を思い出すことが出来た。
そしてその後、コースを食べ終わった私たちは会計を済ませ、店を出た。

「今日は本当にご馳走様でした」
「いえいえ、私が誘ったんだし、せつなの誕生日だし、恋バナもして貰ったし!安いもんよ♪また、2人でご飯、行こうね、せつな♪」
「はい、是非!今度は奢らせて下さい」
「まぁ、せつなったら!お言葉に甘えさせてもらうわ」

結局、本当に私の恋バナだけを聞いて、レイカさんは自分の話は一切せずに聞き役に徹してくれていた。
私としては最初に言われた“男の人に古幡先輩を取られそうになった話”が聞きたかったけれど、それはまた今度のディナーまでのお預けって事か……と少し残念に思いながら可愛い娘が待つ家へと帰路に着いた。

END

2021.10.29

冥王せつな生誕祭2021

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