過去の刹那に身を焦がす
運命は残酷で、シルバーミレニアムは滅んでしまった。
所定の場所を動くことは許されず、滅びるのを遠くからただ見ているしか無かった。
そして、タリスマンのキーマンが3人集まり、セーラーサターンを召喚してしまった。
沈黙の鎌が振り下ろされるのを見届けると、私は眠りについた。
私は他の戦士とは違い、自ら3つ目のタブー“時間を止める”事さえ犯さなければ滅びない。
その為、シルバーミレニアムが滅んだ後、コールドスリープし、然るべき時に目覚めるようになっていた。
然るべき時、それはプリンセスが女王としてこの地に君臨し、また月の王国が復活した時。
そんな未来が来るかなんて分からない。
だけど気づけば私は月の王国が繁栄していた時と同じ様にまた孤独に時空の扉を守る番人となっていた。
ネオクイーンセレニティとキングエンディミオンに任命され、またセーラープルートとして孤独に守り続ける事になった。
それが当然で当たり前だと思っていたから何の疑問も無く、今回も来る日も来る日も1人、守り続けるものだと、そう思い込んでいた。
だけど、この時代ではそうでは無かった。
クイーンもキングも、私の事を気にかけてくれて、定期的に様子を伺いに来て下さる。お二人共、本当にお優しい。
孤独には慣れている。
「プルート、頼りにしているわ」
「君は強いし、頭もいい。頼りにしているよ。クイーンの相談に乗ってやって欲しい」
こんな事を言われた事は無かった。
免疫や耐久性がついていなかった。
いつしかそれが心の拠り所となり、気づけば私はキングに恋をしていた。
様子を見に来てくれるだけで、心が踊った。
私にもこんな感情が持てたこと、あったことに驚いたけれど、何だか嬉しかった。
産まれた時から私は戦士としての使命があった。
その為、愛や恋はご法度。
この先も愛や恋は封印して生きていくもの。そう思っていたから。
だけど、最初からこの気持ちは心にひっそりと秘め、そのままただ思い続けるだけ。それで良かった。
素敵なクイーンからキングを奪うなんて考えても無い。
それにキングはいつだってクイーンしか見えていないのだから。
クイーンとキングはいつも私の憧れだから。
そんな中、クイーンがご懐妊だとキングが嬉しそうに報告に来てくれた。
「まぁ、それはおめでとうございます、キング」
それが私の率直な気持ちで、その時の私の本音だった。
プリンセスの誕生に、私も心待ちにする日々が続いた。
そしてその日を境に、クイーンもキングもここに来る事は無くなってしまった。
当然と言えば当然で、大事な跡取りがクイーンのお腹に宿っているのだから、クイーンは行動を慎重にならなければいけない。ましてやおっちょこちょいなのだから余計に。
キングもそんなクイーンを良く理解しているし、心配でずっと付きっきりになっているに違いないと想像出来る。
私も立場をわきまえているし、ちゃんと理解している。
だけど、やはり訪問に慣れてしまうと少し寂しいと思ってしまうのは贅沢って奴なんだろうと思う。
そして月日は経ち、あっという間にクイーンはその日を迎え、プリンセスは誕生した。
その数日後、クイーンとキングは産まれたてのプリンセスをその胸に抱き、私に会いに来てくれた。
「プルート、あれ以来来れなくて済まなかっまたね」
「いえ、良くご理解しておりますから。キング、クイーン、この度はプリンセスの誕生、おめでとうございます」
「ありがとう、プルート。抱いてあげて♪」
「そんな、恐れ多いです」
「良いから、良いから♪プルートに抱いて欲しいの」
「では、失礼します」
初めて抱いたプリンセスはとても小さく、とても軽くて可愛い。
この子が、いずれこの星の、シルバーミレニアムを、そしてこの太陽系を統べるクイーンとなるお方なのね。
「プルート、この子の話し相手になってあげてね」
「はい、勿論ですわ」
「名前はスモールレディって言うの!私が付けたのよ♪」
「スモールレディ、この子にあったとても素敵なお名前ですわ」
「いつか立派なレディになる様にって想いを込めたの」
「なりますわ!貴女の様な立派で素敵なレディに。貴女の娘ですから」
「ありがとう、プルート。大好きよ」
「勿体無いお言葉ですわ」
その後も何度もお2人でスモールレディを見せに来てくれた。
その度に少し成長しているスモールレディを抱かせてくれた。
だけどスモールレディが3歳を過ぎた頃から来なくなってしまった。
教育が始まり、忙しくなった事もあると思う。
一番の理由は、やはり私は時空の扉をひっそり守る孤独の番人である事。その為、隠さなければならない。
けれども、スモールレディ自身が必要になり、来る事があればまたその時は、相談相手になってあげよう。そう決意した。
そしてその時は割とすぐに訪れた。