過去の刹那に身を焦がす


「って、今日はせつなの誕生日なんだから私の話は良いわよね?せつなの話が聞きたいわ!」
「私の、ですか?」
「そ!せつな、好きな人とか、恋人はいるの?」
「私の恋バナ、ですか?」

恋バナは正直苦手だ。寧ろ、転生してからしてこなかったし、今は小さなほたるの母親をしているから尚のこと、そんな話は皆無だ。

「聞きたいわ~。せつなが今までどんな恋愛をして来たのか?」
「そんな面白い話は、一切……」
「こんなに美人なのに、男が放っておかないでしょ?」
「買い被りすぎですって」
「そんな事無いわ!私が男ならせつな口説いてるもん!」

もしかしてこの雰囲気は、今日は逃げられない感じかしら?参ったわね……。
どうにか逃げ道が欲しいわ。

「そうだ!男と言えば、古幡くんを男に取られそうになった話はせつなにしたかしら?」
「い、いえ。初耳です」

って言うか、何そのインパクトの強い恋バナのタイトルは?
思わず飲んでいたシャンパンを吹き出しそうになったじゃない!
レイカさんって本当に色々経験豊富で、聞いていて飽きないわ。
これで私の話はしなくて済みそうでホッと一安心。

「そう、じゃあまたの機会に話すわね?」
「今話してくれないのですか?」
「だって今はせつなの話が先決でしょ?」

今日はどうやら逃してくれないらしい。
どうしましょう?恋愛らしい恋愛なんて一度も……。
唯一記憶にあるのは生まれ変わる前のセーラープルートとしてキングエンディミオンをお慕いしていたという事だけ。
これをどう説明すれば?

「聞いて面白い話は無いですよ?」
「面白い、面白くないはいいの!せつなの恋バナが聞きたいの!ダメ?」

かつての私達のプリンセスであるうさぎの様に上目遣いでお願いしてくる。私はこれに弱い。
知ってか知らずか、レイカさんもよくして来る。逃れられないって腹を括るしか無いのね。

「分かりました。話します!」
「やったぁ~、そう来なくっちゃ♪」

もしかしなくても、とても楽しんでらっしゃるわね?
お酒も入っているから余計。
まぁだから話しても忘れる可能性もあるから、話してしまおう。今後聞かれても「前に話しましたよ」って逃げられるから。

「好きな人には既に相手がいました」
「何それ、いきなりハードな展開ね?」

いや、レイカさん、あなたの「男の人に古幡先輩を取られそうになった話」の方がよっぽど凄いですけどね?

「最初から分かってて好きになってしまいました」
「止められなかったのね……」
「振り向いて貰うどころが、私の気持ちも気づいてなかったと思います」
「気持ち、伝えなかったの?」
「はい、伝えたいとも思いませんでした。と言うか考えても無かった。と言う方が正しいですね」
「どうして?」
「2人が理想のカップルでしたから」
「そう、辛い恋愛してたのね……」
「それを承知で好きになりましたから」

セーラープルートとして月の王国が反映していたあの頃、太陽系外部から月の王国に伝わる聖石“幻の銀水晶”とその持ち主であるクイーン。そして、王位なる継承者であるプリンセスを守る為、私は時空の扉を守る番人をクイーンから任命された。

外敵からの侵入者や、時空を超えるものからシルバーミレニアムを守るのに加え、プリンセスの誕生祭のあの日のあの出来事を機に、私は“破滅の戦士”を呼び起こすキーマンとしてタリスマンの守り人になった。

ずっと1人、孤独に守り続けて来た。
それが当たり前だと思っていたあの頃。
それがずっと続くと思っていたあの頃。
そして、その事を知っているのはクイーン。同じ任務に着いていたウラヌスとネプチューン。たった3人だけ。
存在自体、知られてはいけない。
そっと遠くからただ見守るだけ。
四守護神ですら、あの日から記憶を消され忘れている。

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