付き添いだったはずなのに


「せーつな!こっちこっち!」

レイカに手を振られ、合図をされてしまい一気に空気になろうと決心した想いが崩れてしまった。宛が外れ、一転まさかの存在感増し増し。
ーーー振り回される盛大なフラグである。

「せつな、今日は無理言ってごめんね?」
「いえ、気にしないで下さい」
「せつなちゃん、ありがとね」
「いえ、お二人の貴重な初デートを見守れるなんて光栄です」

嫌がっていたせつなだが、いざ二人の幸せそうなオーラに当てられ、聡明な彼女はスラスラと思っても無い言葉が次から次へと出て来た。
これからどう言う立ち位置で付き添うか、頭を切り替えようとした。その時だった。

「お待たせーー」

爽やかな笑顔でこちらに向かいながら手を振るひょろっとした男性が1人、慌ててかけてきた。

「遠藤、おっせーよ!」
「ハハハ、悪ぃ!」
「レディを待たすなんて、紳士じゃないわねぇ」
「ごめん!今まで恋のキューピットしてやったじゃないか」
「仕方ない。それで手を打つか」
「許してあげなくはないわね」

このやり取りに完全に置いてきぼりを食らったせつなは、状況に全く着いていけずにいた。

「せつなちゃん、コイツは俺の親友の遠藤」
「私たちの恋のキューピットなの」
「そして、今日の初デートを取り仕切って付き添いも買って出たんだ。よろしく、せつなさん」
「よ、よろしくお願い致します。冥王せつなと申します」

とても礼儀正しい好青年の自己紹介に、せつなは改めて挨拶をした。
しかし、遠藤と名乗ったこの男、パッと見、恋のキューピットが出来るほどの恋愛経験がありそうには見えない。失礼ながら顔を見てせつなはそう第一印象として抱いた。

「じゃあせつなさんは僕とペア組んで後ろで二人を暖かく見守ろう!」
「あ、はい。そうですね」

提案力や行動力はありそうだ。遠藤のテキパキと指示する言動でせつなは、意外な彼の一面に驚いた。
遠藤の言う通り、レイカと元基を後ろからずっと見守る事に徹する事になった。その間、遠藤は2人の事、自分自身の事を話して聞かせて飽きさせないようにと気を利かせてくれたのか。ずっと喋ってくれていた。
勿論、当初の目的である見守りを疎かにする事はなく、ちゃんと二人の様子をチラチラと見ていた。

しかし、これは他の人から見たら私たちもデートをしていると思われるのでは?とせつなは冷静に考えていた。

「じゃあ大丈夫そうだから、後はお若い二人に任せようか」
「そうですね。今日はありがとうございました。お陰で楽しかったです」

そして、時間はあっという間に過ぎ、解散の時間がやって来た。
一人で付き添いかと思っていたせつなは、思いがけずもう一人付き添いがいた事で心強さを感じ、感謝の意を示した。

「僕もせつなさんがいて楽しかったよ」

お互いに心強かった様だ。
遠藤の事を良い人と思い始めたせつなだが、次の遠藤の言葉で全部吹き飛び、絶句することになる。

「今日一日一緒にいて僕、せつなさんの事好きになりました!僕と付き合って下さい!」
「はい?」

たったの一日で、好きになったと愛の告白をされてしまい、せつなは衝撃を受けた。
好きになられる要素がまるで無い。ましてや一日で魅力が分かるのか?

「僕の彼女になって下さい!」
「ちょ、困ります。そんなつもりじゃ……」
「だよね?だけど、考えてくれる?」
「……はぁ」

なよっちい見た目とは違い、結構積極的な遠藤にせつなは人は見かけによらない。凄いギャップの持ち主だと感じた。
断っているのに怯むことなく真っ直ぐ立ち向かうその行動力が、かつて戦ってきた敵とどこか似た雰囲気を感じ取る。

「さよなら」
「気を付けて」

そう感じたせつなは怖くなり、逃げるように帰って行った。
それから大学へ行くと、毎日の様に遠藤はせつなが引きこもっているコンピュータ室へと通い、ことある事にアタックする日々がスタートした。
こうしてせつなの平穏な大学生活は、意外な出来事により終わりを告げたのである。




おわり

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