この世界にまた生まれ変わって


土萠創一のノートの内容を聞いたうさぎは、殺した事を後悔して胸が締め付けられていた。

「ほたるちゃん……ごめん、なさい。ほたるちゃんのパパを、殺してしまって……」
「そうするよう促したのは私の方。恨むなら、私を恨んで頂戴、ほたる」

土萠創一は、ゲルマトイドに乗っ取られながらも必死で戦っていて、ちゃんと心の中にいた。そう思うとうさぎは、殺した事が間違いだったのでは無いかと後悔の中にいた。
みちるは、敵である以上は殺して当然と思っていた。しかし、まだ心の中に土萠創一が少し残っていた事で、自身が下した判断は間違っていたのかもしれないと思い始めた。

「うさぎお姉ちゃんは悪くないよ!使命を果たしただけ。パパは最終的には悪魔に乗っ取られていたし、パパが犯した罪は償わなきゃ行けないもん」
「ほたるちゃん……ありがとう」

外見は土萠創一だとしても、最終的には心も体もゲルマトイドとして完全に覚醒していた。
土萠創一自身もきっと、悪魔と契約した日からこうなる運命だと悟り受け入れていたことだろう。

「それを言うなら僕らだって……」
「ほたるを殺そうとしていたわ。本当に、ごめんなさい」

はるか達三人は、使命のためやがて君臨するネオクイーンセレニティの世界を守る為に世界を滅ぼす力を持つほたるの中のセーラーサターンを恐れ、殺そうとしていた。

「はるかパパ達も何にも悪くないよ。殺したいと思うのは当然の事だもん。前世で月や地球、太陽系惑星全てを滅ぼす力を目の当たりにすれば、誰だって怖くなるし、目覚めさせたくないって思っちゃうもん。あたしも、きっとそうしてたよ。パパの件だって、セーラームーンが殺さなきゃ、あたしが殺ってたと思う」
「ほたる……」

四人は、ほたるの話を聞き、今一度彼女の過酷な運命と使命を重く感じた。小学生と言うまだ小さな身体と心では到底受け止めきれない程の運命と使命。
プリンセスであるうさぎやタリスマンの守り人である三人とはまた違う重い使命。うさぎは、やはりセーラーサターンの様に沈黙の鎌を振り下ろす事は出来ないと再確認した。

それにもしも本当にほたるを殺していたら、せつな達はきっと後悔して苦しんでいただろう。悩んで苦しんで出した答えだったが、結果、殺さなくて良かったと三人は思った。
こうしてもう一度この世界に生まれ変わって、家族として過ごしていく中でこんなにも心優しい子だと分かったから。

「またこうしてこの世界にもう一度生まれ変わって、はるかパパ、みちるママ、せつなママと家族として過ごせてあたし、幸せだよ」
「ほたる、僕もさ」
「私だって同じよ」
「私も、ほたるのママで良かったわ」
「うさぎお姉ちゃん、あたしをまたこの世界に転生させてくれてありがとう」
「私の方こそ、もう一度生まれ変わってくれてありがとう」

誰も犠牲にしたくない。そう思い“スーパーセーラームーン”となり師ファラオ90へと飛び込んだにも関わらず、セーラーサターンが覚醒。そして、師ファラオ90と共に異空間へと行ってしまい、生死が分からなくなってしまったセーラーサターン。
悲しみの中、銀水晶を解放して再生。まさか、赤ん坊としてまたこの世界に生まれ変わると思っていなかったうさぎは、こうして元気に生きているほたるを見て心底ホッとしていた。

「うさぎお姉ちゃんのお陰だよ。銀水晶の再生の力のお陰。“いつだって絶望と共に希望と再生がある。それをもたらすのはエターナルセーラームーン、うさぎお姉ちゃんだから”ね♪」
「ほたるちゃん」

何て強い子なんだろうとうさぎは、ほたるの底知れぬ強さに感服した。

「うさぎお姉ちゃんが銀水晶を解放してくれなかったらあたしは今ここにいないもん。あたしが転生するには条件が揃わなきゃ無理だったから」
「どう言う事?」

突然ほたるは、自身が転生する為には条件が必要だと言い始め、みちる達は戸惑った。

「あたしの沈黙の鎌での技は“デス・リボーン・レボリューション”でしょ?死を意味するデス、それとは真逆の生まれ変わるを意味するリボーン。これってね、一度全てを無に帰して、新しく生まれ変わらせる様にってあたし以外の無にした命をもう一度この世に転生させる事を意味するの。だから、あたしが転生する為には銀水晶を解放して、全てを再生する様祈る必要があるの」

ほたる曰く、自身の技だけでは力不足だから銀水晶の解放が必要不可欠と言う。これが、ほたるが転生する為に必須な条件と言うわけだ。

「前世で滅びの瞬間に、クイーンが銀水晶を解放してくれたお陰であたしもみんながいる時代の地球に転生出来たんだって思ってる」
「信じ難いけれど、確かに一理あるかも!デス・バスターズとの戦いの後は私、銀水晶を解放してほたるちゃんの無事を祈ったもの」
「やっぱり、うさぎお姉ちゃんのお陰だ」
「うさぎのお陰で、僕達にほたるの罪滅ぼしが出来るチャンスが出来たんだな」
「うさぎはやっぱり優しい子ね」
「感謝するわ、うさぎ」

うさぎが銀水晶に祈ったお陰で、はるか達三人は新しい使命としてほたるの親になり、育てる決意をした。
本当の家族では無いけれど、本当の家族以上に絆が生まれた。

「はるかパパ、みちるママ、せつなママ。これからも親子としてよろしくね」
「こちらこそ」
「これからも末永く」
「素敵な家族でいましょうね!」

はるか、みちる、せつなはほたるを思いっきり抱き締めてこれからも家族でいようと誓い合った。

「さて、帰りますか!」

暫くしてうさぎが、四人に声をかけた。
それぞれあの時の戦いに向き合えたと感じたから、目的は達成されたとうさぎは考えての事だ。

「うん、帰ろう」
「もう、いいの?」
「パパのノートを見つけられただけで儲けものだから。後、これも」
「これは?」
「アミュレットよ♪」
「アミュレット……そう言えばいつだったか小さなプリンセスがほたるとそんな話したって言ってたかしら」

カルテのノートを見つけた時、ノートと一緒にこのアミュレットも近くに置いてあるのをほたるは確認していた。
読む事を飛ばしたが、アミュレットのことも記されていて、ほたるの身体を回復させる力だけでなく、土萠創一自身の心のバランスを保つ事にも使われているとの事だった。このアミュレットで、悪魔に乗っ取られないようにと頑張っていた様だ。

「パパの形見なの」
「何か、妬けるな」
「勿論、はるかパパもあたしの大切なパパだよ」
「私達もいるわよ」
「みちるママもせつなママも大切だよ」
「私達にとっても、ほたるは大切な娘よ」

四人は、それぞれお互いに大切な存在である事を確認し合った。
土萠家跡地に来た事により、より今が大切で尊い事だと確認出来た。より、強い絆で結ばれたようだ。
うさぎも、ずっとモヤモヤしていた気持ちが晴れ、スッキリとした顔をしていた。

やまない雨はない様に、明けない夜もない。
明るい未来は必ずやって来る。




おわり

20230106 土萠ほたる生誕祭2023
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