この世界にまた生まれ変わって


うさぎ達はほたるを先頭に、地下室の研究所へと繋がる階段を下っていく。

「暗いわね」
「ライトが必要だな」

長年誰もいない、電気の通らない地下室。それが、余計不気味さに拍車をかけていた。

「あ、私、ペンライト持ってます」

はるかの言葉を受け、うさぎはペンライトを持ってきていた事を思い出す。

「用意がいいわね」

せつながそう言いながらうさぎを見ると、持っていたのは変身ペンだった。これが、ライトとしての機能を持ち合わせているのかとせつなは不思議になった。

「これ、魔法のペンなの♪私が願えば傘にもライトにもなってくれる便利なアイテムよ」

説明しながら、ライトを灯す。光の加減も自由自在で、灯した直後は微かな光だったが、時間が経つと地下室全体を映し出すほどの眩い光を放ち始める。

「Wow…流石、月のアイテムだ」

タリスマンや銀水晶もそうだが、本当に月のアイテムは不思議な力を秘めているとはるかは感心しきりだった。
ライトのお陰で、先頭を歩いているほたるも見渡しがよくなり、歩くスピードが少し早くなる。

「ここだわ。研究室よ」

そして目的の研究室へと到着する。
ほたるの言葉に、うさぎ達はゴクリと唾を飲み込み互いに目を合わせながらコクリと頷きあった。
いよいよ諸悪の根源であり、ダイモーンを生み出していた研究室へ入るのだ。敵の残骸がいるかもしれない。はるか達は、そう考え身を引きしめた。
そんな四人を他所に、ほたるはドアを開け何の迷いも無く入って行った。

「ほたる、大丈夫?」
「うん、特に何もなさそう」

みちるの問いかけに、意図を汲み取った様にほたるは元気よく返事を返す。
二人の会話を助ける為にうさぎは研究所をライトで照らしながら入って行く。

「うわぁ……」

うさぎは研究所を見た瞬間、言葉にならならない声を出した。
戦場となりながらも、当時のまま何も潰れずに残っていたからだ。
流石、ほたるが言っていた通り、爆発の時の教訓が生かされているとせつな達は感心した。

「あっ」
「どうしたの、ほたる?」

研究所をウロウロして色々見ていたほたるが声を上げる。その声に、一気に緊張感が高まる。ダイモーンの残骸がいたのかと。
一同は、それぞれ何時でも戦えるようにとうさぎはブローチを、はるか達はクリスタルを握りしめる。

「“ほたる診察カルテ”。私の診察ノートだ」
「教授、そんなの付けてたのか」
「ちゃんと父親としての役目を果たしていたのね」

ほたるが自身のカルテを手に取り、パラパラと捲り始めた。
最初に書かれている文章を、声を出してほたるは読み始める。

「私の研究により、妻を見殺しにしてしまった。ほたるも危険な状況に。何とかしてほたるを助けたい。けれど、私に人を救う力は無い。非力な自分を呪った。何が科学者だと。救えないなら科学者である意味などないと。そんな時、空から光が差し込み、声が聞こえた。“娘を助けてやろう。その代わり、娘の身体とお前の身体を我らに器として提供するのだ”と。悪魔の囁きか、それとも神の思し召しか。どちらでもいい。ほたるが助かるならと喜んでこの身を差し出した」

1ページ目には土萠創一が、師ファラオ90に身を売った経緯が細かく心情と共に書かれていた。
更にほたるは読み進めていく。

「意思が乗っ取られていくのが分かる。時々、記憶が無くなっている。あの時受け入れた何者かの意思が日に日に強くなっていっているようだ。ほたる自身も、成長するにつれて弱っているようだ。アミュレットを渡すと落ち着いている。ほたるの身体も乗っ取られてほたるでは無い何者かに支配される日が来るのだろうか……。少しでも長く生きて欲しいと願い、この身を差し出したのは間違っていたのだろうか」

土萠創一としての意志を失いかけて、葛藤している文章が出てきた。
最後らへんのページへと差し掛かる。

「最愛の我が娘ほたるへ
私はそろそろ土萠創一では無くなるだろう。
消滅してしまう前に、伝えておきたい。
喘息が起きたり、サイボーグ化してボロボロの身体で苦しい思いをして、そんな身体にした私を恨んでいる事だろう。恨まれて当然だと思っているし、恨んでくれて構わない。
しかし、それでも私はほたるに生きていて欲しかったのだ。愛する妻螢子との間に出来たたった一人の私の娘。いつまでも愛している」

「パパ……」

読み終えたほたるの目からは、静かに大粒の涙が流れていた。

「恨んでなんか、無いよ?私を生かす為に悪魔に身を売ってるくれてありがとう、パパ」
「ほたる……」
「ほたるちゃん……」

ほたるの言葉に、はるか達はこみ上げてくるものがあった。
色んな偶然が重なり、今こうして五人はここにいる。
それは、土萠創一が下した“悪魔に身を売る”と言う自己犠牲によるものが大きい。危険な研究をして失敗し、爆発を起こした土萠創一。例え、その代償の結果として悪魔に身を売ったのだとしても。

結果、激しい戦いとなり、ほたるに巣食っていた悪魔“ミストレス9”が目覚めた。しかし、滅びの戦士である“セーラーサターン”の意思が勝ち、覚醒。
スーパーセーラームーンとセーラープルートの力を借り、師ファラオ90を封印し、又赤ちゃんとしてもう一度この世に転生して来た。
ほたる自身も、まだ幼いながらもちゃんと理解していた。土萠創一の“自己犠牲”無くして、“今”はありえないのだと言うことを。

「パパ、私もパパが大好きだったよ」

確かに、触れれば冷たい手や冷ややかな笑みに疑った事もあった。父親とは違うと。
しかし、それはゲルマトイドに乗っ取られながらも戦っていた父親だったのだ。セーラーサターンとして覚醒した時に、全てを理解した。

4/5ページ
スキ