この世界にまた生まれ変わって
あっという間にはるか達がほたると、土萠家跡地へ行く日になった。
「みちるママ、せつなママ。早く早くぅ~」
うさぎとは現地で待ち合わせをしている。寝坊が特技のうさぎに合わせて午後2時に設定していた。
久しぶりの土萠家と言う事もあり、ほたるは朝には支度が済んでいた。
「はるかパパが車で待ってるよ!」
はるかもほたると同じで早く準備を済まして、車のエンジンをかけて出掛けるスタンバイをしていた。
「はいはい、今行くわ~」
「はるかもほたるも早いわねぇ……」
せつながほたるに返事を返すと、みちるは二人の準備の早さにごちる。年頃の女性と言うものは、準備に時間をかけるもの。みちるはその筆頭だ。
ましてや中々家族四人で出掛ける時間を設けられない。そんな中で、ほたるの一声でこうして四人にとって思い出深い場所へ行く事になった。
準備する事はみちるにはいっぱいあり、してもし足りないぐらいだ。
「やっと来た!」
「やれやれ、準備は万端かい?」
「OKよ」
「戸締りも出来たわ」
声をかけたほたるは、一足先に車に乗り込んで待っていた。そこへ、準備が出来たみちるとせつなも後を追って二人同時に入って来た。
「では、出発!」
はるかの運転で現地へと向かう。車内は、誰一人喋ること無く、どこか重く暗い空気に包まれていた。
運転しながらチラッと横のみちるを見ると、まるで敵地にでも向かうのでは無いかと言う程思い詰めた顔をしていた。
膝の上に固く握られたみちるの両手に、はるかはそっと右手を添えた。“気軽に行こうぜ!”と言うかのように。
「到着したみたいね」
車で走ること20分。土萠家跡地のあった三角洲に到着した事をせつなが悟る。
「随分と変わってしまったようね……」
「仕方ないさ、あの戦いでほとんどなくなってしまったのだから」
「ここ、こんなに広かったんだね」
周りを見渡しながらほたるが、呟く。ほとんど何もなくなってしまったからこそ、見える景色が広がっていた。
「うさぎは、まだみたいね」
現地で合流する事になっていたうさぎがいるかせつなは確認するが、それらしい影すらない。それどころか自分たち以外は人っ子一人いない。
「相変わらずここは不穏な空気が漂っているわね」
「仕方ないよ、ここは選ばれた土地なんだもん」
みちるが肌で感じた不穏な空気を、ほたるはそう説明する。セーラーサターンとして覚醒した時にもそう言っていた通り、今もその特別な空気は継続中と言うわけだ。
「みんなぁ~~~」
ほたるの言葉に、気を引き締めようとしたその時。遠くの方から気が抜けた叫び声が聞こえてきた。待ち人のうさぎだ。何ともバッドなタイミングでの到着。
「ごめぇん、待った?」
慌てて走って来たうさぎは、肩で息をしながら呼吸を荒くしていた。
「大丈夫さ」
「私たちも今着いて一段落した所よ」
「土萠家へはこれから行くところよ」
「うさぎお姉ちゃん、今日は来てくれてありがとう。さ、行こ♪」
苦しそうに息をしているうさぎに、ほたるはニッコリと笑顔で微笑みながら自然と手を繋いだ。
驚いたうさぎだが、繋がれた手からはヒーリングの力が注がれているのか、みるみるうちに元気になり、息苦しくなくなった気がした。
ほたるのリードにより、土萠家跡地へと歩を進めていく。
何も無い平原にも関わらず、慣れたようにほたるは進んで行く。何の迷いも無く、その場所へと向かう。導かれているかのように。
「着いたよ、みんな」
「ここは……?」
「地下室よ」
「地下室なんてあったのね」
「研究所は地下室に作ってたから」
「何故、そんなところに?」
「一度爆発して何もかも無くしてしまっているから、絶対残しておきたかったんだと思うんだ」
はるか達の疑問に、ほたるはそう推測して答えた。
だから、きっと地下にある研究所は無事だ。何処かでほたるはそう考えていた。
「えっと、確かここら辺に研究所に行く階段があったはず……」
地下室に繋がる階段を探してほたるはキョロキョロと見回している。その姿を見ながら、うさぎ達は身を引きしめてほたるに聞こえないようにヒソヒソと話し始めた。
「はるかさん達、気づいてる?」
「ああ、勿論さ」
「ヒシヒシと感じるわ」
「他とは違う空気をね」
「流石、外部戦士ですね。ルナがくれぐれも用心するようにって言ってたわ」
うさぎは、通信が終わった後にパトロールから帰って来たらルナに土萠家跡地に行く事を伝えていた。
一瞬暗い顔をして考え込んだルナだが、うさぎが決めたら曲げない性格を熟知していた為反対せずに承諾してくれた。
ただ、セーラーサターンの言葉が気になっていたルナとアルテミスは戦いが終わっても三角洲が気になり、調査を続行していた。うさぎの銀水晶の力でもその異常な数値とデータは浄化される事も無く、戦い前に比べて低下したとは言え危険な場所に変わりはなかった。
そうルナから報告を受けたうさぎは、はるか達にもその事を伝えるとルナと約束をしたのだ。
「そう、やはり色々調べていたのね」
「優秀だな、君の相棒は」
「それ程までにこの地は異常。敵に狙われやすい場所と言う事なのね」
「そうみたいです。美奈P達もくれぐれも気を付けてって心配してくれてました」
当然、うさぎは同じ学校である美奈子達内部四人にも行く事を報告していた。
「よくあの子達が許してくれたな」
「貴女の行くところ、絶対着いてくるのに」
「大人しく見送るとは、意外ね」
「ああ、反対はされ無かったですけど、着いていきたいとは言ってましたね」
ただ、今回ははるか達外部家族の問題。声を掛けられたのはうさぎだけで、美奈子達は呼ばれていない。大人数で行くのも違う。そう言う理由から、はるか達が一緒なら安心と納得させてうさぎを見送った。
「やっぱり一筋縄じゃいかなかったか」
「あの時と同じで、美奈Pが説得してくれました。“うさぎをよろしく”ってメッセージを預かってます。よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願い致します」
「美奈達にうさぎを任されるなんて、信頼して貰えてるみたいで嬉しいわ」
デス・バスターズとの戦いもそうだったが、一緒に戦っていく中でお互いに尊敬し、信頼していた。
“うさぎを、プリンセス・セレニティを守りたい”
その想いは太陽系戦士の共通の想いだった。
「私、何があってもいい様に武器も変身ブローチも持ってきたんです」
「私たちも、もしもの時の為にタリスマンとクリスタルを持参しているわ」
「用心するに、越したことはないからな」
「出来れば出番が無いことを祈るけど」
度重なる戦いの日々の中で、うさぎも流石に緊張感を持つ様になっていた。衛が留学中の今、最悪の事態は避けたいと言うのも本音だ。
はるか達もうさぎと同じで、戦いの準備をしていた。それを聞いてうさぎは何処かホッとした。
「階段があったよ!」
地下に繋がる階段を探して、そこら辺を右往左往していたほたるが大声で叫んだ。
出来れば見つからない方が良かったと思いながら、うさぎとはるか達は顔を見合せ覚悟を決めてほたるの指さす方向へと向かった。