この世界にまた生まれ変わって


そして、その日の夜。ほたるが寝静まった事を見計らって、はるかは意を決して話そうと決めた。

「くすっ、ほたるったらすやすやと気持ち良さそうに眠ったわ」

今日のほたるの寝かしつける担当のみちるは嬉しそうにほたるが寝た事をリビングのソファーに座りながら報告して来た。

「そう。で、空気が重かった原因は?」
「……気づいてたのか?」
「当然でしょ!喧嘩でもしたのかしら?」
「参ったなぁ……」

意識していなかったはるかだが、異様な空気を察知した二人に詰め寄られる。
どうせ話さなければならない。相談しなければならないと観念したはるかは重い口を開いた。

「実は……」

二人が出かけていた昼間に起きた出来事を話して聞かせた。
前の土萠ほたるとしての記憶を取り戻していたこと。元の家へ行きたいと懇願された事を。
その間、二人は静かに聞いていたが、表情が曇って行き重苦しい空気になって行った。

「そうだったのね……」

みちるは、重い口を開きやっとの思いで呟いた。
驚きはしたものの、至極当然の事だと思った。

「記憶を取り戻すな、とは言えないし。ましてや元の家に行きたいと言う想いも分かるわ」

ほたるの想いが解るからこそ、無碍には出来ないとせつなは考えに耽る。

「はるかは、どう考えているの?」
「連れて行ってやりたいと思っている。僕たち家族にとっても、大切な事だと感じているよ」
「そうね。放っておいてもほたるはその内一人でも行くでしょうから」
「そうね。一人で過去に向き合うのはきっと辛いわ」

学校にも通い出して自立仕掛けているほたる。一人で行こうと思えばいつでも行ける。
いつから“土萠ほたる”としての記憶を取り戻していたか、三人は知る由もない。行きたいと思ったのなら、その時に行く事だって出来たはずだ。
しかし、ほたるはそうはしなかった。それは、一人で行って過去の記憶と向き合う事が怖いと言う事もあるだろう。
それだけではなく、やはりここまで育ててくれたはるか達に記憶を取り戻した事や土萠家へ行きたい想いがある事を言うのが筋だと感じたからだろう。せつな達は、そう考えていた。

「ほたるの意志を、尊重してあげたいわね」
「そうね。私たちも行かなければならない場所だと思うわ」
「僕たちにとっても意味のあるところ。だもんな」

みちる達自身も、あの場所は避けては通れないとそれぞれ感じていた。向き合わなければと。
土萠家へ行く事により、またそこから四人の新しい関係が始まると、そんな予感を感じていた。

「では、“土萠家跡地”へ行く。と言う事でいいかしら?」
「OKよ!はるかもいい?」
「ああ、勿論さ!それと」
「まだ何かあるの?」

二人にこの話をする前から行く事に賛成していたはるか。
しかし、ここに来てまだ何かある様で、再び神妙な面持ちで口をつむった。

「もう一人、話しておかないといけない人がいる」
「そんな人、いたかしら?」
「誰かしら?」

はるかの発言に、みちるもせつなも声を揃えて分からないと言う。皆目見当もつかないと言った様子だ。

「それは、僕たちのプリンセスさ」

分からない二人に、何言ってんだよと言う様子で何でもない風にその人物の名を出すはるか。

「うさぎ?」
「そうだったわね。忘れていたわ」

ほたるをもう一度転生させた当事者であるうさぎ。そして、うさぎはほたるの父である土萠創一を殺した人物でもある。
ほたるの父親だからと殺す事を躊躇ったうさぎに、みちるがとどめを刺すよう促した事がある。もう、ゲルマトイドに乗っ取られているのだからとーーー。

「うさぎも、向き合いたいかもしれないわね」
「相談、してみましょう」
「決まり、だな」

もう一人の当事者であり、絶対的主君のうさぎーーープリンセス・セレニティへ許可を得る為、連絡する事になった。

「はい、うさぎです」

うさぎへの連絡手段は、せつなのタリスマンーーーガーネットオーブ。それを介してうさぎの通信機へと連絡をとる。

「夜分遅くにすまないね、お姫様」
「はるかさん!みちるさんとせつなさんも。え、どーして?」

夜10時を過ぎての連絡にも驚いたが、相手がまさかのはるかたちで単純に何故、どういう手段でと気になった。
学校へ行けば会えるが、善は急げと言う事で通信機を使い話しをすることにした。寝ているほたるに、翌日良い報告が出来る様にとの事だった。

「ちょっと話があって、せつなのタリスマンで通信しているのよ」
「三人が私に話?なんだろ?」
「ほたるの事で、ちょっと」
「ほたるちゃんの事?」

うさぎも、心当たりが無いのかさっぱり分からないと言う顔をしている。

「実は、ほたるが以前の記憶を取り戻していて、“土萠家跡地”へ行きたいと言っているんだ」
「そう……なんだ」

はるかから経緯の説明を受けると、うさぎはみるみるうちに顔が曇って言った。あの日の戦いを思い出しているのだろう。

「僕たち三人は連れて行くことで合意した。しかし、やはりこの事はうさぎにも許可を取らないとと考えたんだ」
「あなたも色々あった場所だから……」
「ほたるちゃんが行きたいって言っていて、育ての親のはるかさん達が連れて行きたいって言うなら、私に止める権利は無いです」

うさぎは、重い口を開きそう話した。家族で話し合って決まったことに他人が口を出すべきでは無い。そんな権利は無いとうさぎは考えていた。
止めてもこの三人の事だ。きっと連れて行く。ほたる一人でも行くだろうとも考えた。
遅かれ早かれこの時はきっと来る。向き合わなければならないのだと意を決した。

「あなたは私たちのプリンセス。命令する事も、止める権利も持っていてよ?」
「いいえ、それは違うわみちるさん。私は、プリンセス・セレニティでもあるけれど、月野うさぎでもある。私が普通の人として暮らしている様に、みちるさん達だって普通の人だし、立派な家族で、ほたるちゃんの親よ」
「くすくすっ未来のネオクイーンセレニティの威厳が出てきたわようさぎ」
「もう、せつなさんってば!私は真剣なんですからね!」
「はいはい」

しっかりしたうさぎの言動は、あの頃の好奇心旺盛なプリンセスの面影は無く、正にクイーンたる威厳を持ち合わせていた。
その姿は益々、せつな達は着いていきたいと思わせた。この方を守りたいと改めて心に誓った。

「じゃあ、一つ!条件があります」
「何なりと。ネオクイーンセレニティ様」
「いや、だからまだ女王になるとは……参ったなぁ」

未来の名で改まってはるかに呼ばれ、照れ笑いをするうさぎ。

「条件って、何かしら?」
「その場所に、私も同行したいの」
「そう言うだろうと思ったよ」
「きっとうさぎも向き合いたいんじゃないかと話していたのよ」
「じゃあ……」
「ああ、是非!同行して欲しい」
「ありがとう、三人とも!話してくれて、ありがとう♪」
「行く日が決まれば、追って連絡するよ」
「それじゃあ、おやすみなさい」

会話が終了し、通信を終えた。

翌朝、ほたるに昨晩の事を語って聞かせ、うさぎの同行も伝えると、喜びを爆発させた。

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