この世界にまた生まれ変わって


 ある日の休日の昼、珍しくほたるとはるかは二人で留守番をしていた。せつなとみちるは二人でお出かけ。
 これは、普段家事育児を頑張っている二人へのご褒美で、たまには羽を伸ばして来たらとはるかとほたるの労いによるもの。
 好きでやっているのだから悪いわと言いながらも嬉しそうに快諾して二人は楽しそうにショッピングに出かけて行った。

「それでは次のニュースです」

 残されたはるかとほたるは、テレビを付けて昼前のニュースをボーッと何をするでもなく見ていた。

「今日未明、東京都練馬区で火事が発生。現在、消火活動中。行方不明者は二人との事です」
「火事か……」

 この時期は火事のニュースが多い。冬と言う事もあり、ストーブなど火を使うことが多く、乾燥もしている。
 はるかは、またか……と言う感じで呟いた。
殆どが不注意で来るものなのだから、気を引き締めて火や油を使わなければいけないだろうと、はるかは家長として身を引き締めた。

「火事で、本当のママは死んじゃったんだよね……」
「……ほたる?」

 そんな火事のニュースを見て、ほたるは何かを思い出したようにポツリと寂しそうに呟いた。それをはるかは聞き逃さなかった。

「本当のママ、瑩子ママはね?火事で死んじゃったんだよね」
「ほたる、お前……前のほたるの記憶を思い出したのか?」
「うん、殆ど全部ね。黙っていてごめんなさい、はるかパパ」
「謝る事じゃない。セーラーサターンとして覚醒したんだ。当然の事さ」

 セーラーサターンの覚醒を止められなかった様に、前の土萠ほたるとしての記憶を蘇ることは止めることは不可能。どれだけほたるを普通の女の子として暮らして欲しいと願っても、前世には抗えない。宿命には勝てないのだ。

「本当は私も、あの日死ぬはずだったんだよね」

 そう、土萠教授の危険な実験は失敗して爆発を起こし、火事になった。そこにいた全員ーーー即ちほたるも教授も母親も即死していてもおかしくはなかった。しかし……

「外宇宙からの侵略者によって私とパパは生きられた」
「セーラーサターンの生まれ変わりでもあるから、ほたるは生きる力が強かったのかもしれない。生きなければと、潜在的にセーラー戦士としての使命が、死の淵よりの使者としての力が目覚めたのかもしれない」
「その生命力が、敵を体内に巣食ってしまったのよね。パパも、変わっちゃった……」
「ほたる……」

 はるかは、かける言葉も無く代わりにほたるを抱き締めた。
 まだ幼かったほたるを突然襲った過酷な運命。母親の死。変わり果てた父の性格。サイボーグ化しながらも生き長らえることになった自身の身体。
 その事にまた、まだ小学生であるほたるは向き合わなければならない。
はるかは、まだ小さいほたるの過酷過ぎる運命を思うと胸が締め付けられる思いがした。一人で抱え込めるのだろうかと。
 そして、これから先もほたるは、セーラーサターンとして沈黙の鎌を振り下ろし、運命をジャッジしなければならない。何て過酷な使命なのだろうか。

「はるかパパ、あたし……土萠家へ行きたい!行かなきゃ行けない気がするの」
「でもあそこはもう……」

 はるかの胸の中でほたるは、昔の家へ行きたいと懇願して来た。今までほたるは、余り自分から“アレしたい。こうしたい”と我儘を言ったりしなかった。
 そんなほたるが、行きたいとお願いして来た。はるかとて連れて行ってやりたい。
しかし、あそこは敵地となった場所で、今は跡形も無くなっている。
 セーラーサターンの無に帰す力と、セーラームーン、未来のクイーンの銀水晶の再生の力を持ってしても蘇ることは無かった。

「分かっているわ。でも、行ってみたいの!お願い、はるかパパ」
「分かったよ。みちるとせつなにも相談させて欲しい」
「勿論よ。ありがとう、はるかパパ!」

 真っ直ぐにお願いしてくるほたるに、はるかは根負けした。本当の父親では無いが、赤ちゃんの時からずっと手塩にかけて育てて来たほたる。目に入れても痛くない可愛い我が子のお願いには答えてやりたいと思った。
 しかし、外部のリーダーでありこの家の家長でもあるはるかだが、自分一人の一存ではこの事は決められない。いつでもほたるの事は三人で決めて来た。
 みちるとせつな抜きで勝手に決められない。
 事の重大さ故、一人で決断するのも気が重い。
 そこで、みちるとせつなが帰って来たらこの事を相談しようとはるかは決意した。

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