外部家族SSログ




よく晴れた午後。
いつもは遅くまで仕事をしてるけど、たまには早く帰ろうと仕事が一段落着いた16時過ぎに学校を出た。

こんなに早く帰るのはいつ振りだろうか?
天気もいいから柄にも無くウキウキする。
足早に家路へと向かう。

家付近になると、パンッパンッと叩く音が聞こえて来る。
布団を干しているのをしまう音ね?

今日は一日通して快晴だと天気予報で言っていた。
それを聞いた私とみちるは、慌ててみんなの布団を干す事になった。

きっと、他の家庭も同じ事を思っていたのね?
そして今、それを入れてるのね。ご苦労さま。なんて呑気に思っていた。

勿論、私もみちる達がまだ帰っていなければ布団入れないと。とは思っていたけど。

そんな事を考えながら、布団を叩く音を後目に家へと到着する。


「あ、せつなママ、おかえりなさーーい」

「ええ、ただいま」


元気なほたるの声が頭上から聞こえて来る。
返事をしながら見上げると、驚きの光景が目に飛び込んで来た。

まだ小学三年生のほたるが、布団をしまおうと格闘している。


「何してるの、ほたる?」

「ん?布団をしまおうと思ってるのー」

「危ないからやらなくてもいいのよ?」


まだ小さいほたるに、布団をしまうのはかなりの重労働。それに、二階なので、落ちてしまうと危ない。


「これくらい、平気だもん!あたしにだって出来るよ?」


そう言って、今度は布団を叩こうとしていた。手に持っていた、布団叩きを見てギョッとする。


「ほたる、その手に持ってるのは……」


声に出して確認するのが怖かった。


「あ、うん。せつなママのガーネットロッド、借りてるの」


……やっぱり、ガーネットロッドなのね。
嫌な予感が的中して、ため息を深く着いてしまった。

パンッパンッパンッパンッパンッ

落ち込んで、意気消沈してる間にもほたるはガーネットロッドで布団を叩き続けている。ダメよ、止めなくちゃ!

あれは、私にとって大切なものなのよ。
間違って折られでもしたら……。
考えたくもなかった。


「ほたる!ガーネットロッドは布団を叩く道具じゃ無いのよ!止めなさい。布団叩きはどうしたの?」

「でも、これしか叩くもの無くて……」


ガーネットロッドを手に持って、落ち込むほたる。
ちょっとキツく叱り過ぎたかしら?

でも、戦士であるほたるにも、ガーネットロッドがどれだけ大切なものか理解は出来ているはず。


「それに、ガーネットロッドを使って布団叩きしてたのあたしだけじゃないもん!」

「どういう事?」


ほたるの前で、不当な使用をした犯人がいると知り、驚きを隠せない。

この場合は、みちるとはるかしかいない。どっちか?あるいは、どちらも……。
タリスマン所有者として有るまじき行為。


「みちるママもこれで叩いてたもん!」


みちる、なんて事をしてくれたの……。
使ってるのを想像して、頭を抱える。


「ただいま♪」

「ただいま~」


学校から、渦中のみちるがはるかと自転車を二人乗りして颯爽と優雅に帰ってきた。


「せつな、珍しく早いのね?」

「本当、珍しい。社畜なのに、どういう風の吹き回しだ?」

「みちる、調度いい所に帰って来たわ。聞きたいことがあるのだけど?」

「私に聞きたいこと?何かしら?」

「それは……あれよ」


ガーネットロッドをほたるの前で布団叩きとして使った?とストレートに聞くのが怖い。
その代わりに、ほたるのいる所を指さして見るように促した。


「ほたる?ほたるがどうかして?」

「布団をしまおうとしてくれてて。それは良いのだけど、叩く道具が……」


言葉が続かず、詰まる。ガーネットロッドと口に出してしまうと、終わる気がした。


「あれは、ガーネットロッドか?」

「……ええ、そうみたい」

「ガーネットロッドがどうしたの?」

「覚えは無い?ほたる曰く、みちるが布団叩きとして使ってたから、真似したって言ってるんだけど」


余りピンと来なかったのか?みちるの頭の上には“?”が飛んでいるみたいだった。

無理も無い。彼女もうさぎに負けないくらい天然で、世間知らずなお嬢様育ち。

きっと、無意識にガーネットロッドをほたるの前で使用してたのかもしれない。


「あ、あぁ、そんな事してた事あったわね!」

「覚えがあるのね……」


みちるは思い出した様に、晴れやかな顔になった。そして、手を叩いた。


「そうそう、確かにした覚えがあるわ。でも、そう、確か私も真似をしたのよ!」

「真似?誰の?」


みちる自身も真似をしたと言い出し、驚きを隠せない。もう、この場合は一人しか見当たらない!


「僕?僕じゃないさ!」


はるかの顔を見ながら睨みつける。
しかし、はるかは覚えがないのか、即否定して来た。
じゃあ、誰がしていたのかしら?まさか、うさぎや美奈子が来て布団叩きしてたのかしら?


「はるかじゃ無いとしたら、誰がしてたの?」


思い当たらなくて、恐る恐る聞いてみた。


「せつな、あなた本人よ?覚えてなくて?」


はい?聞き間違いかしら?今、私の名前が上がった様な……。

私が、ガーネットロッドで布団をタタイテイタ?

私が、そんな事するわけ……。

そう否定しながら考えていると、遠い記憶から引っ張り出されて来て。急に蘇ってきた。

それは、数ヶ月以上前の話。今日と同じで快晴で。でも、いきなり曇ってきたかと思うと、雨が降り出してきた。

その日も布団を干していたから、しまわなきゃいけなくて。慌てていて、周りを見ても布団叩きが無くて。仕方なくガーネットロッドを使う事にした。

まさかそれが、みちるに目撃されていたとは思いもよらず。しかも、真似されるとも思ってもみなかった。

それに、それをほたるが見ていて、同じように使うなんて……。


「思い出したわ!でも、あれは慌ててて仕方なく……」


って言い訳に過ぎないわね。大切にしていた張本人である私が、そんな使い方していたら、当然第三者は大丈夫だと思うわよね。

もっと注意深く行動しなきゃダメね。


「いや、私が悪いわね。何があっても、本来以外の使い方しちゃ、ダメだったわ」

「へぇ、せつなが珍しいね」

「私は大丈夫よ?ただ、二階でずっと落ち込んでるお姫様はどうかしら?」

「謝ってくるわ!」


私は慌てて家に入り、二階のほたるのいる場所へと急いだ。


「ほたる、怒ってごめんなさい」

「せつなママ。ううん、へーき!あたしの方こそごめんなさい。大切なものって分かってながら使っちゃって……」


悪い事をしたと謝るほたるをそっと、キツく抱きしめる。


「ほたるは悪くないわ。私たちの為に家事、頑張ろうとしてくれたんですもの」

「せつなママ……くすぐったい」


仕事で忙しい私や、部活で忙しいはるかとみちる。そんな私たちを少しでも楽をさせたい。そのほたるの気持ちは痛い程伝わって来た。

そんなほたるの気持ちを考えず、頭ごなしに怒ってしまったこと。とても恥ずかしいし、情けない。

しかも、自分の愚かな行動のせいで、こんな事になってしまって。ほたるにも、みちるにも、勿論、はるかや疑ってしまったうさぎと美奈子にも。とても申し訳ない気持ちになった。


「ほたる、ありがとう」

「こちらこそ、いつもありがとう、せつなママ」


心優しく、伸び伸びスクスク育っているほたる。

いつの間にか、私が考えている以上に大人として成長しているのかもしれない。

そんな事を感じた、よく晴れた日だった。




おわり

20241029 冥王せつな生誕祭2024



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