外部家族SSログ
『優美花火』
「本当、花火って綺麗で素敵なものなのねぇ〜」
手持ち花火をしながら、せつなは思わず感嘆の声を漏らしていた。
自然と口を次いで出て来た言葉にハッとなったが、時すでに遅し。その場にいたはるか、みちる、そしてほたるはニヤニヤとせつなの顔を見ていた。
「でっしょ〜!」
「あれだけ渋っていたが、やってみると一番楽しんでるよな」
「乗り気じゃなかった割にほたるよりも楽しんじゃって、可愛いわ」
「か、からかわないで!」
みちるとはるかに言われている通り、最初は柄じゃないとか大人だからと言う理由で花火をする事を躊躇っていた。
しかし、ほたるの夏休みの宿題の一つである絵日記のネタが欲しい。家族の思い出を作りたい。ダメかと誰に教わったのか上目遣いのウルウル瞳でほたるが懇願してきては、せつなとしても期待に応えたいと思うのが親心だった。
そしてそこに加えて、手持ち花火をしたことが無いと漏らすほたるが余りにも寂しそうだったから。要はほたるに甘いのである。
「やってよかったでしょ、せつなママ?」
「そうね。大人だからとか、柄じゃないからなんてただの言い訳だったわ」
「素直でよろしい」
「まぁ、はるかったら」
「でも、みんなやった事なかったなんてね」
びっくりしちゃったと驚くほたる。
それもそのはずで、この四人はそれぞれ普通の日常を送っていない。
一般家庭の子供がいる家族なら通る道を通っていない。
ほたるは幼い頃に母を亡くし、父親は益々研究にのめり込み我を失いマッドサイエンティストと呼ばれる変人教授と化した。
はるかは小さな頃からスポーツの才能を発揮し、ひとつの所に留まることなくスポーツを極めて来た。
みちるは海王財閥の令嬢でありながら芸術に長けていて画家にヴァイオリンの演奏に忙しく、海外に引っ張りだこ。
せつなに至っては、未来から来たとか過去から来たとかで結局ずっと孤独に扉の番人をしている始末。
「仕方ないわ。私たち、本当に普通ではなかったのだもの」
「だからこそ、普通の家庭にって拘ったのよね」
「そう、できる限り普通の子に育てようと誓ったよな」
元々普通では無かった環境下に置かれていた四人だが、戦士としてプリンセスや太陽系を守る使命を持って生まれていた。
その中でも一番過酷な運命を背負ってしまったほたるは、再転生後は出来る限り普通の女の子として暮らして欲しいと願っていた。
しかし、その願いとは虚しく記憶を戻したほたるは再び戦士として一線で活躍することを選んでしまった。
それならばと敵の侵略が無い時はほたるのしたい様に、好きな様にさせようと三人はほたるの将来についてもう一度見つめ直した。
「忙しい日々の中、忘れがちだけれど、思い出せて良かったわ」
「普通の日常、大切よね」
「ほたるの望みは僕たちの望みでもあるしな」
花火もその一環だ。せつなの意地で却下していいものでは無かった。
実際、こうして原点回帰出来たのだ。有意義な時間だと言える。
「ほたるも喜んでいる。良かったわ」
三人はしっとり大人の雰囲気を出して楽しんでいるのとは対象に、ほたるは等身大の小学生として大はしゃぎで花火を楽しんでいた。
「ほたる、楽しい?」
「うん!」
「それは良かった」
「はるかパパやみちるママ、せつなママと一緒にやるから余計楽しいよ。ありがとうね♪」
「まぁ、ほたるったら!」
「思い出は出来たかい?」
「うん、絵日記も良いのが書けそうだよ」
ほたる発案の手持ち花火は、あっという間に終わってしまったが、四人にとって初めての花火は終始笑顔だった。
おわり
20240824 冥王星が太陽系惑星から外れた日