七夕へのカウントダウン
そして本日六月三十日のこの日のほたるの願い事はこうだ。
「どれどれ、今日のほたるの願い事は“ちびうさちゃんが早く産まれて来ますように”だってぇ?あはは、流石ほたるだな」
六月三十日と言うこともあり、願い事はちびうさの事だった。
誰より仲が良かったため、本当の家がある未来に帰ってしまったちびうさとはもう会うことは無い。
しかし、分かっていても親しかった分寂しいし会いたい。ならばせめて可能性にかけたいとほたるは願い事に記した。
「ほたるらしいわよね」
「じゃあ、私もほたるに見習って」
ほたるしか書いていなかった短冊を、ここに来てせつなが何かを書き始めた。
「なになに……“スモールレディとまた会えますように”って、せつなまで」
「だったら私も!」
せつなの願い事を聞いたみちるも何か思い当たったのか短冊を書き始める。
「どれどれ……“プリンセスが無事産まれてきます様に”って、あーあ。みちるまで」
いやこの人達、小さなプリンセスが大好きか!とせつなとみちるの短冊を眺めながらはるかは心の中で盛大に突っ込んだ。
これは、流れで自分も同じ様な願い事ヲタ書かなければならないのではとはるかはプレッシャーを感じる。
チラッとみちるとせつなを見ると何か言いたそうだ。
「いや、僕は書かないぞ!書かないからな?」
書く流れになりそうだったのでかなり大きく宣言して流れを断ち切った。
うさぎが幸せなら野暮な事は書かない。そう誓った。
七月に入り、梅雨は一層激しくなっていた。
ほたるの七夕カウントダウンは続いていて、毎日色々な願い事を書き綴っていた。
“ずっとこの幸せが続きますように”
“立派な看護師になれますように”
“今度こそ中学生になれますように”
“身長が伸びますように”
“大人になれますように”
“セーラーサターンとして立派な戦士になれますように”
どれも当たり前でありながら、ほたるにとっては切実な願いであった。
毎日短冊を見る度にはるか達はまだ年端もいかないほたるが背負っていた運命に心が締め付けられる思いだった。
「“はるかとみちるが本当の夫婦になれる未来が来ますように”って書いたの、せつなか?」
「ええ、あなた達中々書かないんですもの。私が書いちゃったじゃない」
「余計なお世話なんだよなぁ。だったら僕はこれだな」
「なぁに、“せつなが幸せになれますように”ですってぇ?それこそ余計なお世話なんですけどね!」
「僕達は今のままでも充分幸せさ」
「それを言えば私だってそうよ」
互いの幸せを思い短冊に記すが、間に合っていると笑い合うはるかとせつな。
同性婚は認められていないが、こうして一緒に暮らして子育てが出来る環境ははるかとみちるにとってはこの上ない幸せだった。法律など凌駕している。
一方のせつなは女性としての幸せを放棄しているように見え、ほたるもいるからと現状に満足しているようではるかは少し心が痛んでいた。
「七夕当日の今日の願い事はコレ♪」
せつなとはるかのやり取りを横目に、マイペースに最後のお願いを短冊に書き終えたほたるは嬉しそうに自身で笹に吊るしながら言った。
「どれどれ……“パンダさんがいっぱい笹を食べられますように”って……なんだこれ?独特な願い事だな」
「独特じゃないよ!切実なの!」
ほたるの最後の願い事は、はるかにとって一番理解し難いものだった。理解されず、ほたるは憤慨しながら理由を話し始めた。
「七夕で笹をいっぱい採っちゃったでしょ?パンダの主食をこんなに伐採したら食べるもの無くなっちゃう……」
言いながらほたるは心を痛めたのか声が段々小さくなり、泣きそうな顔になってしまった。
「それなら大丈夫じゃないかしら」
そこに楽観的にみちるが会話に参加して来た。
「パンダ自体も数少ないし、寧ろいっぱいあるから食べ切れないわよ」
腐る前に有効活用して楽しませてもらっているのよ、とみちるは続ける。
「気持ちは分かるわよ。日本中が笹を採って七夕に飾るもの。笹が不足しちゃうかもしれないものね」
心優しいほたるをみちるは気遣った。
「そっか!パンダさん、もっと増えると良いね」
パンダの繁殖。それは中国人と日本人の悲願。
「さて、夕食が出来上がったわ。食べましょう」
「やったー!今日は何?」
「素麺とちらし寿司よ」
天の川にそうめんを織り糸に見立てて、織物の上手な織姫のように女の子の裁縫や芸事が上手になりますようにという願いが込められていて、七夕に食べると言う。
料理担当のせつなやみちるは、イベントで食べるものが決まっているのは有難いといつも習って作っている。
「いつまでもこうしていられると良いね」
夕食を食べながらほたるは笑顔でそう呟いた。
ずっとこの幸せがここにあるように。そう願って四人は今日も普通の幸せに感謝して過ごすのだった。
おわり
20240708 七夕の日を一日遅れてしまった😅
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