死への案内人として



あっという間に日は経ち、お墓参りの日がやって来た。

「忘れ物は、ない?」
「うん、お花も線香もロウソクもマッチも持ったよ〜」

早く起きて誰より早く行く支度を終えて玄関先で待っていたほたるに、せつなは持ち物の確認をした。
土萠家跡地とは違って、お墓参りには必須の持ち物がある。数日前、それらを揃えるため、ほたるはみちると買い出しに行っていた。
“これでお墓参りは完璧!”と嬉しそうにほたるは喜んでいたのをはるか達は思い出す。

「じゃあ、行こうか?」

はるかの運転で霊園に向かう。その道中に月野家に寄ってちびうさを拾う。
緊張した面持ちで玄関先で待っていたちびうさは、いつものセーラー服に身を包んでいた。ほたるを始め、せつな達もお墓参りと言う事でシックな黒い服で揃えていて、いかにもと言う感じだ。

「ちびうさちゃん、緊張してる?」
「え、どうして?」
「あまり喋んないから」

ほたるとせつなの間に座ったちびうさは借りてきた猫の様に大人しかった。

「ちびうさちゃんは、お墓参りは初めて?」
「ううん。未来でパパの両親のお墓参りに毎年行ってるよ」

緊張していそうな面持ちのちびうさをほぐそうとほたるは尋ねる。
ちびうさのパパ、即ち今の衛の両親は事故で無くなっている。6歳までしかいなかった両親。それでも衛は毎年命日になるとお墓参りをしていた。それは未来になっても同じで、子供が出来ても連れて来ていた。

「そっか。そうだったよね」

ほたると同じで幼少期に両親を亡くしている衛。当然、お墓参りはするのだとほたるは思った。
お墓参りと言う事もあって、どうしても空気が重くなりがちだ。明るい話題は無いものかと思い始めていると、はるかが声を発した。

「もうすぐ着くよ」

ほたるしか知らない母親が眠る霊園。前日までに何度もほたるに確認して地図を見て何度もシミュレーションをしていた為、迷わず目的地周辺まで来ることが出来た。

「わーい、もうすぐママに会える」
「良かったね、ほたるちゃん」
「うん!」

数分後、目的地の霊園に到着したはるか達は、車から降りて霊園に置いてある桶に水を汲んで釈も持ち、ほたるのガイドで土萠家の墓へと歩を進める。
自宅から30分以上離れた霊園は、都内ではあるが住んでいる都会とは違い、のどかだが何処か気品漂う場所にあった。決して寂しい感じでは無いが、人でごちゃごちゃしていない。
そこに広い霊園が作られていて、ほたるの母親も眠っている。

「まあまあ人がいるわね」
「そうね。お彼岸だから、みんな参りに来るのね」

丁度彼岸の時期ということで、疎らではあるものの参拝客がチラホラいるようだ。

「ここか?」

ほたるが止まった墓石を見ると“土萠家之墓”と書かれてあった。間違えなく、ここだ。しかし、問題が一つある。

「こりゃあ、酷いな」
「墓は立派なのにねぇ……」

お墓の様子を見たはるかとみちるがため息混じりに呟いた。

「こんなにも草だらけだと、線香どころじゃないわね」
「墓掃除も必要みたい」

初めて来る土萠家の墓は、すっかり荒地となり誰も参っていないことが伺えるほど、草が生い茂っていた。墓石も例外ではなく、汚れていて、すっかり老朽化していてほたるの記憶とはかけ離れてしまっていた。

「仕方ないよ。もう二年以上来てなかったんだもん」

ほたるの言う通り、デス・バスターズとの戦いが本格化する前に来てからは全く来ることは無かった。
親しい親戚もいないため、創一やほたるが来なければ誰も来ない。
しかし、この二人はデス・バスターズとの最終決戦で共に死んでしまった。幸運にもほたるは生き返ったが、記憶を取り戻したと思えばすぐにセーラーサターンとして覚醒してデッドムーンと決戦。それが終わってホッとしたのも束の間、ギャラクシアに殺られてしまい、中々来る機会が訪れなかった。

「そんな事もあるかと思って掃除道具も一式持って来たよ」

そう言うやいなや、ほたるは軍手をして鎌を手に持ち、気合いを入れた。

「ほたるに鎌は、迫力あるな」
「サターンね」
「流石、死への案内人よね」

鎌を持ったほたるを見て、はるか達はセーラーサターンを思い出し、呟いた。

「あ、あたしも手伝うよ」

張り切って鎌で草を狩るほたるを見たちびうさは、持っていたルナPを鎌に変化させて手伝い始めた。

「じゃあ、私たちはお墓を綺麗にしましょうか」
「そうだな」
「気合い入れて頑張りますか!」

二手に分かれて綺麗にしていく。
黙々と掃除をする事、30分近く経った頃。

「ふぅー、綺麗になったな」
「草も無くなったよ」
「線香に火、付けてくるわね」
「ほたるちゃん、お花」
「ちびうさちゃん、ありがとう」

五人で手分けして力を合わせて掃除したお陰で元の綺麗な墓地へと生まれ変わった。
ちびうさに渡された花を、墓に入れる。前日にほたるが自らチョイスした、生前、螢子が好きだった花達を見栄え良くする為に選んだのだ。

「漸く、だな」
「感慨深いわね」
「やっと、挨拶が出来るのね」

ほたるを育てると誓ってから、ずっと来たいと願いつつも叶わなかったほたるの本当の母親が眠るお墓。あれから二年近い月日が経っていた。

「連れて来てくれて、ありがとう。はるかパパ、みちるママ、せつなママ。ちびうさちゃんも着いてきてくれて、ありがとね」
「私たちの方こそ、連れて来てくれてありがとう」
「これで漸く親として一歩前進だ」
「ここから又、始まるのね」
「新生外部家族だね!」

各々線香を立てると、それぞれの思いを胸にお墓に眠るほたるの本当の母親に手を合わせて祈り始めた。



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