死への案内人として


「ママの墓参りに行きたい」

ほたるがはるか達にそうお願いしたのは、土萠家跡地に行った日から暫く経って落ち着いた休みの日のこと。
前回ははるかだけの時に土萠家を訪れたいと言ったが、今回はみちるとせつなも在宅の、家族団欒をしている時に言おうと決めていた。
はるかがいい顔をしなかったばかりか、色々回りくどくなってしまった。過去の経験を踏まえて、全員揃った席で言おうと決めていたのだ。

「よし、行くか!」

はるかはほたるのお願いに、二つ返事で笑顔で答えた。そんなはるかの前の時と違う反応に、ほたるは拍子抜けして驚いた。

「え、いいの?」

案外とあっさりOKを貰い、ほたるは逆に狼狽えた。
土萠家跡地に行きたいと言った時と随分と違っていたから。どう言う事なのだろう。あそこへ行った後と前ではそんなに違うものなのだろうか?
ほたるは全く分からなかった。

「ええ、勿論よ」
「みんなで行きましょう」

はるかに続いてみちるとせつなも笑顔で快諾。

「どうかしたか?」
「だって、この前の土萠家跡地の時とは反応が真逆だったから」

驚いているほたるにはるかは疑問に思い、問いかけた。

「土萠家跡地は敵地だった。ほとんど消滅していてほたるが期待している事は無いと思っていたし、何よりまだまだあそこは危険地帯だったからな」
「その点、お墓は別の場所にあって安全でしょう」
「それに私たちも行きたかったのよ。挨拶しなきゃって思っていたから」
「そう、だったんだ」

はるか達から跡地に行くのを渋った理由と、お墓参りを快諾した経緯を説明され、ほたるはなるほどと納得した。

「ほたるが行きたいって言うと思ったんだ」
「ほたるが行きたいって言ってくれるのを待っていたのよ、私たち」
「そうだったの?なんで?」
「私たち、ほたるの育ての親になる時に行きたかったのよ。だけど場所が分からなくて。ほたるなら知っているでしょう?」
「もちろん!何度もパパと行っていたから」

はるか達は、ほたるを育てると決めた時、母親が眠るであろうお墓に行って挨拶したいと思っていた。
しかし、ほたるは赤ちゃん返りしていて口が聞ける状態ではなく、聞くことは敵わない。勿論、それまで忌み嫌っていたはるか達は、ほたると親しくしていたわけではないので、お墓がどこにあるかなど知らない。
それならば成長して思い出したらと考えていた。
それも一種の賭けではあった。成長しても前の記憶が蘇るかどうかは分からない。そもそもはるか達は、ほたるを普通の子として育て、その過程で活発に成長して欲しいと願っていた。
前世や過去のほたるの、過酷で忌まわしい記憶は出来れば蘇らない方がいい。ましてやセーラーサターンとして戦う運命など無いに越したことはない。普通の子として生きて欲しい。それは三人の願いだった。
しかし、はるか達の願いも虚しく、セーラーサターンとして覚醒。はるか達の変身能力を導く能力を持ち、戦士として敵と立ち向かって行った。前世や前の病弱だったほたるの記憶も蘇ってしまった。

「良かったわ」
「一安心ね」
「場所が分からないって言われたら八方塞がりだったからな」
「確かに、私、まだ小学生だもんね。分からないって可能性も充分あるよね」

ほたるを信じていなかった訳では無いが、まだ小学生だったほたるが霊園の場所が分からない可能性もあった。
場所が分かると聞いたはるか達は、失礼な程目に見えてホッとした。

「研究ホリックで忙しくしていたパパと、唯一一緒に行くところだったから、覚えてるんだ」
「ほたる……」

笑顔から一転、ほたるの顔が曇る。危険な研究を繰り返していて学会を追放される程のマッドサイエンティストだった土萠創一。
母親が死ぬ直接的な原因となった研究をしている頃から、研究に没頭し、家族を省みることはなくなった。その事故で死ぬはずだったほたるを助ける為に異星系からの悪魔の取引に応じ、そこからほたるの体を維持するのに反比例し、益々冷たくなって親子の時間を持つことがなかった。
そんな父親と唯一親子として過ごせる場所、それが母親が眠る場所であるお墓と言う事だった。決して楽しい場所では無い霊園。
ほたるの寂しそうな表情と言葉に、はるか達は胸が締め付けられる思いだった。

「いつ、行こうか?」
「いつでも良いよ。はるかパパ達が都合のいい日で大丈夫だよ」
「じゃあ、彼岸も近いし、そこにする?」
「異論は無いわ」
「じゃあ、今度の彼岸にお墓参りだね」

久しぶりだ。楽しみ〜と目に見えてウキウキとテンションの高いほたるを見て、はるか達はホッとした。

「そうだ!ちびうさちゃんも連れていきたいんだけど、いいかな?」
「ほたるが良いなら、私たちは構わないわよ」
「そうね。私もスモールレディが行きたいって言うならOKよ」
「ありがとう。ちびうさちゃんに話してみるね」

翌日、学校に投稿したほたるは、昨日の事をちびうさに早速話して聞かせると、お墓参りに同行することを快諾した。


1/3ページ
スキ