外部家族SSログ


『ハロウィンの夜に』


「部分月食か……」

誰とは無く呟いた言葉は、恐ろしい程に引く、絶望を含んでいた。
外や街ではハロウィンだと大騒ぎ。テレビでは情報番組が部分月食だとお祭り騒ぎ。
それらとは裏腹に、まるで日常から切り離されているかのようにせつな達四人は静寂を保っていた。

「みんな楽しそうだな」

街やテレビの様子を見ていたはるかはポツリと呟いた。自分達には関係無いと言わんばかりに。

「何か心配事?」

ほたるは余り気分が乗っていないように見えるはるか達の顔色に、不思議がる。

「いや、大したことはないよ」

心配して覗き込むほたるにはるかは慌てて取り繕う。

「私に言えない事?」
「月食って聞くとねえ……」
「あの時の事を思い出しちゃうのよね、私たち」
「あの時って?」
「デッドムーンサーカス団が侵入して来た時」
「敵って分かっていながら変身も出来ず、ただ手招いているだけで……」

世紀の皆既月食の日、敵が侵入した。それにも関わらず、変身出来ず戦うことが出来なくて、うさぎに必要とされていないのではないかと悲しくなった。

「ほたるが覚醒したお陰で私たち、救われたわ」
「私は何も。また戦いの日々に舞い戻らせただけだよ」
「僕たちは戦士だ。いつだってプリンセスの力になる」

結局は前世を捨てられない。それに誇りを持っていた。

「私たちが望んだことよ」
「ほたるは悪くないわ。寧ろ感謝しているのよ」
「うさぎを又こうしてみんなで守れるんだ。これ以上ない喜びさ」
「はるかパパ、みちるママ、せつなママ」

ほたるの覚醒で三人は救われた。
同時にほたるをなるべく普通の女の子として育てると言う夢は途絶えた。それもほたるが戦士として生まれてきた意味だと充分分かっていた。

「前世でも何回か月食みたいな事、あったよね?」

そう言えば、とほたるが思い出した様に口にした。
その言葉にせつな達は、遠い記憶が蘇り、ハッとする。

「月が何度か隠れて驚いたっけ」
「不安になったわね」
「あの綺麗な月が真っ暗になるなんて、不吉な前兆かと思って焦ったわ」
「今思えば、あれは月食だったんだね」
「太陽系外からの敵には備えられるけど、内側から起こる問題には介入できないからな」

ウラヌス達に課せられた指名は、外敵から月を守ること。そして、その為に与えられたタリスマンを守り、サターンの力を抑え込むこと。
内側から起こる事象に対しては何も出来ない。無闇に手出は許されないのだ。

「だから地球の者たちが月に侵入して滅ぼそうとしていると分かっていても、持ち場を離れられなかったのよね」
「ええ、ただ見ている事しか出来なかったわ」
「歯がゆかったな。幾ら地球人とは言え、危害を加えているのに手出し出来なかったのは辛かった」
「確かあの時も皆既月食が起ころうとしていたんじゃなかったっけ?」
「満月で、それでいて中秋の名月でスーパームーンじゃなかったかしら?」
「満月は、人の心を惑わす、か……」

ほたるから前世のあの日、皆既月食だった事を告げられ転生して過去の事を調べていたせつなは、その日が中秋の名月でありスーパームーンだった事を思い出した。
それを聞いたはるかが意味深に呟いた。

「色んな偶然が重なった。それだけよ」

気にし過ぎだと、夕飯の用意をしながら会話に参加していたみちるはため息混じりに呟いた。

「まるで今回も何かあるみたい。ただの部分月食よ。重く暗く考え過ぎ」
「そうは言っても、考えてしまうさ。プリンセス誕生の祝賀会だって月食だったんだし」
「あれもただネヘレニアが嫉妬しただけでしょ?」
「偶然が重なっただけよね。今回はハロウィンと重なってるわ」
「せつなママの誕生日でもあるわ。大丈夫だと思う」
「そうよ。せつなが時空の狭間に飛ばしちゃうんだから」
「二人とも、私を一体どんな人だと思っているの?」
「怒らせると一番怖そう」
「ほたる……」

ほたるの言葉に、はるかとみちるは笑い、重い空気から一気に和やかな空気へと変わる。

「せつなの誕生日の話が出たついでと言ってはなんだけど、バースデーディナーが出来上がったわ。食べましょう」

みちるのその一言で場の雰囲気は更に明るい方向へと向かう。

「ささ、せつな。座って」

みちるに即され、はるかが引いた椅子に腰掛けるとワイングラスにほたるが注ぐ。

「これは?」
「ボジョレーヌーボーよ」
「昨年ので申し訳ないけれど、今年も解禁よ」

せつなが好きな飲み物はワイン全般で、いつも拘っていてコレクションしていた。
ボジョレーヌーボーも同じで、毎年解禁されているものを自身で選んでいる。それを開けるのがせつなの誕生日。ここ数年の恒例となっていた。

「時期的に今年のはまだだから、気にしていないわ。それに毎年、この日に飲む昨年のボジョレーヌーボーを楽しみにしているんだから」
「そう言って貰えて、助かるわ」
「じゃあ改めまして、せつなママ。誕生日、おめでとう」
「せつな、おめでとう」
「せつな、幾つになったのかしら?」
「ありがとう。それは、内緒で一つ!」

不安な事は多く、日々尽きないけれど、この一時だけは楽しみたいと部分月食とハロウィンが重なり不吉だがそう思ったせつなだった。




おわり

20231029 冥王せつな生誕祭2023

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