Happy Swimming


「うっわぁ~!みちるママ、すっごぉ~い」

感嘆の声を上げるのはほたるだ。
この日、ほたるの要望で家族四人でプールに来ていた。泳ぎが得意なみちるに泳ぎ方を教えて欲しいと頼み込んだ。
母親として頼られている事に喜んだみちるは二つ返事で快諾してくれた。

しかしそのみちるはプールに来るとすぐにウォーミングアップと題してほたるを置いてひと泳ぎ。もう、六往復程している。
プールの長さは50メートル。その決して短くは無い長さのプールを六往復。スピードを衰えさせること無く、寧ろ往復する度にスピードは増しているように思う。

「本当に、みちる凄いわ!何者なのかしら?」

一緒に来ていたせつなも感心のため息を漏らす。
ほたる同様、せつなもみちると泳ぎに来たのは初めて。その為、みちるの泳ぎを目の当たりにして、その凄さにただただ感心しきりだった。
しかし一人だけ違う人物が。ーーはるかだ。
みちると何度もプールに来ていて見ているから、泳ぎに動じない。そればかりか何故か凄いだろと誇らしげに見詰めている。

「フッ。こうなったら中々止まらないんだ。ほたる、悪いけどもう少し待っていてくれ。その間、準備運動をしておいてくれると有難い」

みちるの事を知り尽くしているはるかは、こう必死になり泳いでいると止まらない事を知っていてほたるに謝った。

「了解!」

賢く空気が読めるほたるは言われた通り準備運動を始める。その間もみちるの泳ぎを見ていた。
予めこうなるだろうことは賢いほたるには予想が出来ていた。みちるの気が済むまで待つ事にした。

ほたるがみちるに泳ぎを教えて欲しいと思ったのは学校の水泳の時間での出来事だ。
生まれ変わったほたるは学校にもう一度通い直して初めての水泳の時間がやって来た。運動神経抜群のほたるだが、それは陸上での話。
前世のほたるは病弱で運動自体は以ての外だった。現在も戦士をしていたり何かと忙しく泳ぎに行くと言う機会を設けられていなかった。
その為、初めての学校でのプールで上手く泳ぐことが出来ず悔しい思いをした。

そこに追い討ちをかけたのは九助と空野。二人の存在だった。
仲のいい九助が運動神経抜群で水泳も得意なのは分かる。当然の結果に納得だった。ただ、やはり悔しさは込み上げてくる。性別は違えど陸上では同等に張り合っていただけに、置いていかれた気分になり寂しいと感じた。
ライバルだと認められたのに、自分はその足元にも及ばない。不甲斐なさに悔しさが込み上げていた。

そして更に落ち込んでいたほたるに追い討ちをかけたのは空野の泳ぎだ。
空野と言えば頭脳明晰、才色兼備。貿易会社のご子息。そんな空野は意外にも、と言うのは失礼だが、泳ぎが得意でまさかのあの九助と肩を並べる程のスピードと技術。
陸上では勉強以外はドン臭く、何をやってもダメダメ。答案用紙でのみ力を発揮する様な絵に書いたダメ男だ。
それなのに陸上とはまるで違い、水中では魚のように生き生きした泳ぎを見せつけられ、ほたるは衝撃と同時にショックで寝込みそうになった。

しかし一旦冷静に考えてみると、天才だから泳ぎが不得意とは限らないわけで、例外が二人も身近にいた事に気づいた。

ーーみちると亜美だ。

亜美程では無いが、みちるも頭が良い。
亜美もみちるも戦士だ。だからと言う訳では無いが、戦士として優れていたのが水泳なのかもしれないが、戦士として目覚める全然前から得意だとみちるも亜美も言っていた。
だったら自分も前世の土萠ほたると違う才能があってもいいのではと思う様になった。
そこで、水泳も出来るようになりたいとみちるに教えを乞うたのだ。

こう思えたのも前とは違い、ほたるを友達だと言ってくれる仲間の存在や大切な人達、大好きな人達がいたからに他ならない。
ライバルと呼べる戦友との出会いはかけがえのないものだ。

「これはもう少しかかりそうだ。もし良ければ僕が教えようか?」

かれこれ30分は過ぎただろうか?
もう10往復はしているだろうみちるだが、疲れること無く泳ぎ続けている。そんな様子を見たはるかは自身が教える提案をするが、ほたるを見ると顔をフルフルと横に振っていた。

「良いのか?」
「うん、大丈夫!待てるから、泳いでるの見てる」

ほたるはやんわり断る。みちるに教えて貰いたいのは勿論だが、はるかも教えて貰えるなら嬉しい。
だが、ほたるは知っていた。はるかは水泳が苦手だと。前にそんな事を漏らしていたのをほたるは覚えていた。
それに、はるかは服を着ていて水着に着替えていなかった。暗に泳がないと言っているようなもので。そんな人に教えて欲しいと甘えるのは幅かれる。
傷付けないように無難に断った。

「じゃあ、私が教えましょうか?」
「せつなママ、泳げるの?」
「泳げないわ!」
「じゃあダメじゃん」

何となく察した水着に着替えて泳ぐ気満々だったせつなが勝手でるが、ほたるの質問にキッパリと泳げない事を宣言してあえなくお役目御免となった。

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