再生ーReincarnationー


その頃エリュシオンでは、いつもの様にエリオスが啓示の間で祈っていた。

「プリンス?」

衛のオーラを感じ取る。
祈る事を止め、啓示の間を後にする。

「エリオス~」

遠くの方で自分を呼ぶ声がした。
メナードとは違う、透き通った声。長い時間目を閉じて祈っていたこともあり、ボヤける視界に映ったのはツインテールのお団子頭。
元気な声からエリオスは、ある人物を思い浮かべる。

「小さな乙女……?」

距離を詰めると時間が経った事もあり、視界も戻って来た。ちびうさでは無く衛とうさぎの姿がそこにあった。

「プリンス、プリンセス!?」

案の定、驚く姿に衛とうさぎは視線を合わせて微笑んだ。

「ああ、プリンス……ご無事で」
「ああ、この通りだ。心配かけてすまなかったね」
「いえ、祈る事しか出来ずすみません」
「君が謝ることは無いよ。エリオスが祈ってくれていたおかげで、俺はこうして元気な姿でいられるんだ」

エリオスは、衛が元気でいる事に驚きを隠せないでいた。と同時に、元気な衛を見られて胸がいっぱいだった。

「もしかして、わざわざ元気な姿を見せに来て下さったのですか?」
「それもある」
「……他にも用が?」
「ああ、これさ」
「これは……?」

衛から翡翠が入った箱を見せられたが、分からないと言った様子だ。

「四天王だ」
「まさか、これらの翡翠はクンツァイト様、ネフライト様、ゾイサイト様にジェダイト様にございますか?」
「ああ。この翡翠に彼らの意思が宿っている」
「会わせに来て下さったのですか?」
「少し違うかな」

翡翠の四天王を前に、エリオスは何も分からず困惑していた。

「では、どう言う……」
「今日は、四天王をここでゴールデンクリスタルで蘇らせるためにここに来たんだ」
「四天王の皆様を蘇らせる!?」

衛の言葉にエリオスは更に驚く。

「ああ、出来るかは正直分からないが、やってみる価値はあると思う。試してみて良いか?」
「是非!でしたら啓示の間でやると、より良いかも知れません」

同調するとエリオスは、衛とうさぎに着いてくるよう言い、啓示の間に案内した。

「コチラにその翡翠をセットしてみて下さい」
「ああ、ありがとう」

エリオスに言われた通りに衛は、啓示の間で翡翠をセットする。
そして、ヒーリングの力を解放する。
すると四天王が亡霊となって現れる。

「マスター」
「ここは?」
「まさか?」
「ゴールデンキングダム?」

四天王は、次々と言葉を発する。驚いている様だ。
衛に跪きながら、周りの景色を見渡す。

「ああ、ゴールデンキングダムのあったエリュシオンだ。今からここでゴールデンクリスタルを使い、お前達を蘇らせる。文句は受け付けないぞ」

ここに四天王を連れてきた理由を説明する衛は、語気を強める。
そうしなければ、かなり文句を言われそうだったからだ。説明をしている間、四天王が怪訝な顔をしながら口を開こうとしていたのを衛は見逃さなかった。

「分かりました」
「貴方の望みとあれば」
「甘んじて受け入れましょう」
「仕方ありませんからね」

主である衛がそう望むのなら、四天王は逆らえない。石として、衛のそばにいられるだけで彼らは幸せだった。
しかし、蘇って欲しいと衛が願うのならば、その意思を尊重する他ない。

「では、始める」
「頑張って、まもちゃん!」
「プリンス……」

ゴールデンクリスタルの力を解放し始めると、再び蓮の花の形へと変化する。と、同時に激しく光り輝く。
その光を見てうさぎは、手を組み瞼を閉じて祈った。

“まもちゃん、四天王……どうか、どうかお願い!”

衛も必死に祈った。“四天王を元の肉体を取り戻し、蘇れ”と。
その姿を見た四天王も、心を一つにして祈った。“再びこの世に生命を”と。

その強い光は、やがて四天王を包み込んだ。
そして遂に、その時はやって来た。
それまで透けていて、幽霊の様な容姿だった四天王だったが、ハッキリと肉体を取り戻して堂々とそこに立っていた。

「これは……」
「驚いたわね……」
「本当に元に戻った」
「すげぇな」

四天王はそれぞれ、肉体を取り戻し、驚きの声を上げた。

「クンツァイト、ネフライト、ゾイサイト、そしてジェダイト!」
「マスター!!!!」
「良かった!良かったよぉ……うぇっ」

再びこの世に蘇った四天王と、衛の喜ぶ顔を見てうさぎは胸いっぱいになり、大粒の涙を流していた。
衛も、四天王も感無量だった。

「マスター、ありがとうございます」
「この生命、無駄にはしません」
「これからもお傍で、守り続けます」
「プリンセスも、ご心配おかけしました」

騎士の姿のままだからろうか。それともまた裏切ってしまった後ろめたさからか。四天王は従者の言葉で喋り続ける。

「硬っ苦しいのは無しだ。あの頃とは違う。俺はもう王子じゃない。お前達も普通の人だ。これからは友達でいたい。俺のことも、マスターでは無く衛と呼んでくれ」

対等でありたいと衛は強く願った。

「それともう一つ」
「何ですか?」
「自分達の幸せを掴んで欲しい」
「それは……」
「ヴィーナス達と、恋仲にあったのだろう?」
「想ってはいましたが、付き合っては……」
「いませんでしたね」
「もしまだ心の中に彼女達を思う気持ちがあるのなら」
「私からもお願い!」
「プリンセス……」
「私を言い訳にして、恋人を作ろうとしないの。普通の女の子として生まれたのに、そんなの寂しすぎるよ。きっと四人も、ずっと心に四天王がいるんだよ。私には分かる!」

衛の願いに、うさぎも同調して四天王を説得して力説する。
そんなうさぎに、四天王はニコリと笑いかけながら口々に言う。

「もし、本当に運命であるのならば、会うこともあるでしょう」
「またリーダーは、カッコつけてロマンティックな事言ってさ。本当は振られることが怖いんじゃね?」
「そう言うネフライトは一目散に会いに行くだろ?」
「ったりめーだろ!俺の辞書に“駆け引き”と言う文字は無い!」
「欲望に忠実で、本当羨ましいわ」

四天王はそれぞれ違った反応を口にする。

「皆さん、良かったですね。お幸せに」
「ああ」
「ありがとう」
「じゃあ、帰るな」
「元気でな」
「皆さんも、お元気で」

四天王はエリオスに挨拶と別れを告げる。

「うさ、くれぐれも美奈達には内緒だぞ?」
「分かってるって!私たちからのサプライズプレゼントだもん」

笑顔で答えるうさぎに、不安を覚える衛。

「じゃあ、エリオス。騒がしくしたが、帰るよ」
「プリンス、お元気で。また来てください」

こうして六人は、エリュシオンを後にしてそれぞれのいるべき場所へとゴールデンクリスタルの力で戻って行った。

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