チョコレート大騒動


「いやぁ~、それにしてもこのマンション懐かしいなぁ~」
「確かに。3年以上はいたっけか?」
「色々思い出すな」
「何だかんだ、楽しかったわよね」

勇人の一言を歯切りに、四天王は次々と思い出に浸り始める。
四人は、メタリア戦後から蘇るその日まで石となり、衛のマンションへと居候していた。その間、意思も持っていた為、色々見聞きしていた。そして四人でお喋りをして過ごして来た。
このマンションにはそれ以降一度も来ていないという訳ではなく、個々で訪れてはいた。
しかし、こうして四人全員集合したのは蘇って以来となる為、感慨深く思い出に浸りたくなったのだろう。

そんな四天王とは別に、余り事情の知らない浅沼がいる中、妙な話に花を咲かせている事に衛はハラハラしていた。

「ゲフンゲフンッ」

話が尽きないので空気を読み、衛は咳払いをして静止させることにした。

「所でお前たち、その……彼女はいいのか?」

そして、話をすり替える作戦に出た。

「問題ない。先程まで一緒にいた。快く送り出してくれた」
「私も問題なしよ!皆みたいに一晩を共に過ごして無いもの(涙)」
「俺もバイト前に来たから大丈夫さ」
「俺は夜更かしして今に至るぜ」

公斗も勇人も、衛とうさぎと同じでバレンタインと言う日を甘く過ごしていたらしいことが話から伺えた。
話の内容に察した浅沼とエリオスは、顔を真っ赤にして下を向いて恥ずかしがっている。新鮮だが、ウブな二人の反応に衛は可愛いと思ってしまった。
そんなエリオスは、ちびうさとは実際問題どこまで行っているのだろうかと、未来の父親としてはかなり気になった。自分に言う資格は無いが、節度を持って、大切に育んで欲しいと願った。

「エリオスはちびうさとは、どうなの?」

そこに空気読めない系女子、うさぎがお節介にもいらん質問をして割り込んできた。うさ、余計な事を……と彼女であるうさぎに、頭を抱え悩む事になった。

「小さな乙女は、未来で修行や勉学に励んでらっしゃるので、会える時間は限られています」
「そうか」
「寂しいね?私なら、耐えられない」

余り進展していない様子で衛はホッとした。その隣で、うさぎは会えない事への寂しさに寄り添い、自分の事のように心を痛めていた。

「エリオスさんも、彼女いたんですね?良いなぁ……」

ここで、唯一彼女がいない浅沼がエリオスにも彼女がいると知り、羨ましがり、悔しがり、そして嫉妬した。
決して悪くは無いルックスと優しい性格に加え、エリート校に通う程の頭の持ち主。にもかかわらず、彼女いない歴は年齢とイコールを更新し続ける残念っぷりの浅沼一等。
告白はされるものの、タイプじゃないのか断り続けていると耳にする。やはり、まことを忘れられないのか?と衛は考えていた。
そして、この場において“まこと”と言う固有名詞を出していいのかと思慮深く考え込んだ。

「それにしても、有難いが凄い量だな」

暗い空気になってしまった事もあったので、衛は話題を変えることにした。

「それは大丈夫だろ?うさぎさんと食べればいい」
「と言うか、それ前提で大量に買ってきてるわけだしな」
「何なら俺が手伝ってやっても良いぜ?」
「っつーか、それはあんたが食べたいだけでしょ?」

各々、一人分とは言い難い量のチョコレートに、再び困惑した衛だが、うさぎと食べる事前提と聞き、言葉に詰まる。
前世では禁断の恋に、形上は反対していた四人が、うさぎを衛の恋人として認知して応援してくれていると遠回しだが、伺えたからだ。

「お前たち……」
「わーい♪私まで頂いちゃって、いいんですかぁ?」
「無論だ。寧ろ、食べて下さい。衛をこれからも頼みます!」
「ま、仕方ないから衛はあんたにあげるわ」
「俺たちに、レイ達を紹介してくれた人でもあるしな」
「うさぎちゃんは俺たちの恋のキューピットだから、これくらいならお安い御用さ」
「はい!喜んで!みんなも、美奈P達をよろしくお願いします」
「任せて下さい」

感極まった衛に対し、食べてもいいと言われたうさぎは無邪気に喜んだ。ジーンとしていた気持ちが引っ込みそうになったが、その後の五人のやり取りに、再び心が温かくなった。

このバレンタインギフトは、四人にとって色んな意味を持つ事を知った衛。早朝と言う迷惑極まりない時間帯ではあったが、とても嬉しく感謝した。

「おっと、仕事の時間が近づいている。ここでお暇させて頂く」
「じゃあ、私達も帰るとしますか?」
「長いは禁物だからな」
「邪魔したな!」
「僕も学校あるので、帰ります」
「朝の啓示の時間がありますので、プリンセスと仲良く過ごして下さい」

六人は、それぞれの事情で長居をする事無く、30分程滞在して帰って行った。
残された衛は、何だかドッと疲れた様な気がしたが、うさぎはマイペースだった。

「はぁー、疲れた」
「みんな、まもちゃんの事大好きなんだね♪」

寝ている所を起こされたにも関わらず、怒るでも無く笑顔でそう言ってのけるうさぎを見た衛は、うさぎが幸せそうならいいやと思うのであった。




おわり

20230215 バレンタイン❤💑🍫💘
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