現世クン美奈SSログ
『恋人は美少女戦士(クン美奈)』
俺は、目の前の光景に呆れていた。
美奈子とのデート中、街中での出来事。
一緒に手を繋いで歩いているのだが、兎に角美奈子がドジを踏みまくる。
俺まで巻き込まれそうで怖い。
ドジだドジだと美奈子の相棒である白猫に聞いてはいた。聞いてはいたのだが、これ程までとは思いもしなかった。
言っても美少女戦士をしているのだ。運動神経だって良い。
だから他のそこら辺の女の子よりかは危機察知能力があるだろうと思っていた。
しかし、それは思い込みであったと美奈子と言う人と付き合って思い知ったのだ。
彼女を普通の女の子で、鍛錬された戦士と思ってはいけないとデートを重ねる度に思い知らされる。
そして正に今また美奈子はドジを踏まんとしていた。
「キャッ」
短く悲鳴をあげたかと思えば、俺が見る限り何も無い所でこけようとしていた。
何故だ。何故、何も無い所でコケられる?
呆れてものも言えないと言うのはこの事だ。
美奈子の足はどうなっている?メカニズムが知りたい。
「危ないだろう。ちゃんと下も注意深く見ろ!」
地面に落ちそうになる美奈子を、持ち前の反射神経で支えながら、つい大人気なく大きな声で荒げてしまった。
今は俺がいるからこんな事になってもこうして助けてやれるが、俺のいない所でもこのザマなのかと考えると頭が痛い。
「見てるわよ!失礼ね」
俺が大きな声で荒げたからだが、どの口で反論出来るのだろう。
注意散漫になっているからこそこのザマなのでは無いのか?
良くこれで戦士が務まっているものだとある意味感心してしまう。
しかもコイツ、10人の戦士のリーダーやっているのだ。やっていけているのか心配になる。
「見ていないから、ドジを踏むのだろう」
「見てるわよ!私、戦士だから神経は研ぎ澄まされてるんだから」
説得力が皆無だ。全くそんな風に見えない。
「周囲の視線や殺気には敏感よ」
「ほう、それで足元は灯台もと暗しと言うわけか?」
「対ヒトに対しては能力を発揮するのよ」
「なるほど、能ある鷹は爪を隠すと言う奴か」
「……さっきから嫌味のように諺ばっかり使わないでくれる」
「これは失敬。美奈子殿はおツムが弱くていらっしゃったな」
「嫌味ばっかり。全く、もう!」
ドジな美奈子の言い分はこうだ。
人に対してはいつ、いかなる時も精神を研ぎ澄ましている。
しかし、それがそこら辺の木や石ころ、電柱やガードレール、でこぼこ道など、意志を持たない動かないものに弱く、対処出来ないのだと言う。
単に人に気を取られ過ぎている気もするが、長らく戦士をしてリーダーとして誰よりも気を張って生きてきた弊害だとすると重い荷物を一人で背負っているなと、急に美奈子の背中が小さく見え、愛おしくなった。
これからはその重荷の七割は俺が持ってやりたい。一緒にこの地球を、そして我らがマスターとプリンセスをこの手で守ってゆきたいと強く思った。
「わっ!」
「おっと、大丈夫か?」
先程とは別の、段差で盛大に転けそうになった美奈子を、今度は腕を引っ張って抱き寄せた。
全てが勢いづいていたため、お互いの身体が隙間なくくっ付いただけでなく、少し屈んだせいで美奈子と俺の顔が急接近。息がかかる距離に顔があり、見つめ合う形になっていた。
これは単に気まづく恥ずかしい。
普段には中々無いシチュエーションに美奈子も顔が真っ赤だ。こちらも伝染りそうになる。
「大丈夫か?」
「え、ええ」
お互い、妙に意識し過ぎて言葉少なくやり取りしてしまった。
いや、唇を重ねたことが何度もある相手にこれしきの事で何今更互いに意識しているのか。情けない。
「戦闘以外で余り傷は作って欲しくは無い。無論、戦闘でもだ」
身体を起こし、体制を整えながら懇願する。
「な、んで?」
色気を保ちながらも何も分からないとキョトンとしながら質問を返す。
「愛する恋人に余り傷を負って欲しくないと思うのは男として当然の事だ」
我ながらキザな事を口走ってしまったが、本当の俺の気持ちだ。後悔はない。
「そ、んなこと、言われても……」
「戦士である以上は無理なのは百も承知だが、やはり傷付く姿を見たくは無い」
俺の知らないところでもこうして転んで傷を作るのだろう。
流石に四六時中着いている訳にもいかないが、俺がいれば助けてやれる。
しかし、それが出来ないところで起こることに不安を覚える。
「ごめん、ありがとう」
尚も抱き合っている形をとっている俺たち。その事に恥ずかしくなったのか、美奈子は離れようと身をよじる。
戦士をしていて鍛えていても所詮は女。俺の強い力には勝てず、抱かれたままになっていた。
「ちょっ、離して!もう、いいから!」
「良くない!」
ジタバタする美奈子の身体を簡単にヒョイっと持ち上げる。お姫様抱っこをしてやると益々顔を赤らめ、恥ずかしそうに身を縮める。
「な、何するのよぉ〜!」
抵抗する美奈子だが、先程より力がない。
「歩くと又ドジ踏むだろ」
「だ、大丈夫だもん!」
「説得力皆無だ。いいから黙って俺に抱っこされていろ!」
私は赤ちゃんじゃない〜と喚く美奈子を抱えながら俺は、これは戦士としてもっと鍛え直す必要があるなと不敵な笑みを浮かべながら歩き進めた。
おわり
20240720