キュンです



『キュンです』

「公斗、これ、なんだか分かる?」

右手の親指と人差し指をクロスさせた美奈子が笑顔で問いかけてくる。

「指パッチンだろ?」

そんなの簡単だと言わんばかりに即答する。

「そーそー、ポー○牧の指パッチン……ってちがーう!そして古いわ!今の若い子には通じないわよ?それに指パッチンなら親指と中指でしょ?」

普段はボケの美奈子だが、立場が完全に逆転してしまい、予想外にツッコミに回る羽目になった。しかもノリツッコミ。上級である。
そして予想外にボケに格下げされた公斗は見事なキレのあるノリツッコミを見せつけられ、悔しさに穴があったら入りたい心境になる。

「指パッチンでは無いなら何だ?」
「“キュンですポーズ”っていうのよ!若者に大流行なんだから!見て、ハートになってるでしょ?」
「……言われてみれば、見えなくはないな。で、これがどうしたんだ?」

しかしこのポーズを知ったからと言って何の得もないと思うのだがと思う公斗。

「私、アイドル志望でしょ?だからアイドルになった時の練習と、アイドルになったら公斗に向けて贈るから覚えておいてね♪」
「……テレビの前で待機しておく」
「はぁ?ライブに足運びなさいよ!」
「何故だ?ブラウン管の外で充分だろ?」
「またじじ臭いワード使ってる!チョイスがいちいち昭和なのよ!若者に通じないってば!」
「うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ!」
「……いきなり知ったかぶって若い曲引っ張り出してきた」
「お前が思うより知ってます!」
「頑張ってるわね。その調子で若者文化の勉強した方がいいわ」

“キュンですポーズ”を見せたのは公斗にハート、即ち愛を贈るためだと言ってくる美奈子に可愛いところもあるなと柄にもなくキュンとした公斗。
ただ、ライブの様な類はうるさくて勘弁して欲しいと公斗は思った。

「まぁ約束は出来ないが、善処しよう。所で美奈子は指パッチン出来るのか?」
「出来るわ!」

“パチンッ”

ドヤ顔で軽やかに、そして気持ちいいくらいに大きな音で美奈子は鳴らして見せた。

「何故出来る?」
「少○隊の“君だけに”で必死に練習したのよ!」
「フッお前も古いな!今の若者は知らんぞ!今はなに○男子だぞ」
「あら、ジャ○ーズも詳しいわね?さては、私がアイドル好きだから勉強してるわね?」
「……たまたまだ」
「そう、あんたは指パッチン出来るの?」
「当然だ!」

“パチンッパチンッパチンッパチンッ”

威張り散らかしてリズムに乗って両手で得意げに鳴らす公斗。

「何で出来るの?」
「何故だかこれだけは練習せずとも前世から得意だった」
「……さては指鳴らして手下を呼んでたわね?」
「そんな事をしていた事もあったな」
「“そんな事をしていた事もあったな”じゃないわよ!めちゃくちゃ嫌な感じよ?」
「文句は言われなかったが?」
「言えなかったんでしょ!……可哀想に、アドニス」

“アドニス”という名は前世でクンツァイト直属の部下だった男の名で、金星から地球へ使わされてきた男だ。ヴィーナスに恋心を抱いていた。

「何故アイツの事を?」
「セーラーV時代に会ったのよ!あなたの部下でダンブライトって名乗ってた。私が殺しちゃったけど」
「そうか、世話をかけた」
「別に、お陰で前世や大切な事思い出せたから」

アドニスの事を語るのはこれが初めてだった。
だけど、これ以上は公斗の行動により話す事が許されなかった。

「ちょっ///いつもいきなり過ぎるわよ!」
「嫌だったか?」
「ご馳走さまでした」
「こちらこそ」

かつての部下に嫉妬し、これ以上美奈子の口から語られたくなかった公斗はキスで口封じをしたのだった。
好きな女から例え身内でも男の名を聞きたくない心の狭い感情むき出しのただの男だった。
キスをした事により、掻き乱された心は落ち着き、満たされるのを感じた公斗だった。




おわり

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