リア充、爆発しろ!


「うわぁ〜やっぱりすっごい人ねぇ。さっすが大学の学祭だわ」

大学の学祭へとやってきた私、愛野美奈子は大学参加者の人数に圧倒されていた。初めての大学の学祭に、私はテンションが上がっている。

何故こーこーせーの私が大学祭に来ているのかと言うと、恋人である公斗に誘われたから。
今来ている大学は公斗の大学というわけ。
今まで大学なんて特に縁もゆかりも無かったから、誘ってもらってかなり嬉しくて二つ返事でOKしちゃったわ。
お祭り女の名にかけて、思っきり楽しむんだから!なんて意気込んで興奮している私は、隣にいる公斗を見て絶句してテンションが一気に下がった。

「ちょっと、聞いてるの?」

学祭の雰囲気を見ている私とは対照的に、そこには事前に手に入れたであろう学祭のパンフレットを両手に広げ、難しい顔をぶら下げてガン見している白髪頭のおっさんがいた。
パンフレットを見て情報を事前に知る事も大事なんだろうけど、こう言うのはフィーリングでしょ?パンフレットだけじゃ楽しさは伝わらないと思う。
どこまで真面目なんだこの男は。まあ私を楽しませようとしてくれているのは伝わるけどさ。

「ああ、聞いている」
「……だったら返事してよね」
「悪い」

余り悪いと言うのが伝わって来ない。まだパンフレットから目を離していないから余計そう感じるのかも。

「さ、行きましょう!」

公斗の真面目な行動に呆れた私は、パンフレットを取り上げ、両手で彼の左手を取ってグイッと引っ張って学祭を楽しむように促した。

「うわぁ。お前はいつも唐突で強引だな」

突然の行動に驚きつつも嬉しそうな公斗と宛もなく大学内を歩く。と言っても人が多くて中々前へと進めない。
本当、流石は大学の学祭。人が多過ぎる。
高校の学祭も何度か経験している私だけど、比じゃないわ。
やっぱり普段頭が良くて中に入れない国立大学。ここの現役やOBOGもいるんだろうけど、私のように縁がなくて入れない人がここぞとばかりに来てるんだろうなぁ。
そう言えばここに来る途中も同じ目的の人がいっぱい同じ方向に歩いてたし、公斗曰くここの学祭は有名らしいから。この人集りで人気の高さを感じられる。

「ここは人も多い。中へ入るか?」

余りにも人が多く、歩く度にぶつかるから公斗が根を上げて人気の少なそうなキャンパスの中に行こうと言い出した。
熱気もあって暑かったこともあったから、流石の私も賛成する。
どさくさに紛れて手を繋いでいたけど、はぐれてしまいそうで柄にもなくちょっと不安にもなっていた。そう言うのも察したのかどうかは知らないけど、兎に角助かった。

「本当にすっごい人ねぇ……」
「まさかここまでとはな」
「何それ?毎年来てるんじゃないの?」
「初参加だ」
「そうだったの?何で?」
「色々あったからな。それに、こう言うところは苦手だ」

大学生だと言うのに学祭に今まで不参加だったと聞いて驚いた。
理由を聞けば、納得で確かにこう言うところは苦手そう。
色々あったっていうのは、やっぱりダークキングダムの手に堕ちたり、死んでいたからなんだろうな。それを聞いて、複雑な気持ちになった。

「最後だからな。お前と楽しみたかったんだ」
「うふふ」

最後だって誤魔化して照れ隠ししたけど、私には分かっていた。私がこう言うイベントが大好きだから、無理して誘ってくれたんでしょ?
公斗が誘ってくれなかったら大学の学祭なんて一生縁がなかったかもしれない。私、アイドル志望だから大学に進学するつもりないし。有名人になったら中々こんなイベントも一般参加出来ない。多分、呼ばれる側に回るんだ。

「何だ?気持ち悪い笑い方して」
「ううん、なぁんでも!誘ってくれてありがとう」

素直に感謝の言葉を口にすると、公斗は照れくさそうにしていた。

「……っ!!?」

人気の無いところに移動しながら会話をしていると、殺気を感じて振り向いた。
そこには誰もいなかったけど、明らかに私に向けられた視線。妖魔とは違う。だけど明らかに良くない視線だ。
実はこの視線、学祭で公斗と合流して暫くしてからずっと感じていた。普通なら感じないだろうけど、生憎私は戦士としての期間が長くて、そう言う感は鋭い。
その視線は、人気の無いキャンバスに入った時には大きな気配に変わっていた。

「どうかしたか?」
「え?う、ううん」

私の様子がおかしい事に気付いた公斗が声をかけてくる。彼も騎士だ。何か感じているかもしれない。
けど、心配かけないようにと私は慌てて何でもない風に装った。

「中でも色々催しがあるのよねぇ?」
「占い、お化け屋敷、ピタゴラスイッチに喫茶店等など、だな。あ、これだな、占い。入ってみるか?」
「占いはいいや」
「何でだ?好きそうだが?」
「あんたは嫌いそうなのに、入りたいの?」
「いや、お前が入りたいかと思ってな」
「私、占いは嫌いなの。それにレイちゃんのしか信じないから」
「そうか。俺も運命は自分で切り拓くものだと思っている」
「アハハ、あんたらしいわ!」

キャンバス内の催しを見て回ろうと言う事になった時、たまたま通った所で派手な占いコーナーに差し掛かった私たち。
本来なら恋人で入ると相性や今後の二人のことを占ってもらおうって事になって入るんだろうけど、生憎私たちは普通の恋人では無いから、そう言うのにはお互い興味すらなくて、スルーする事に。

「クイズ研究会ってのもあるぞ」
「パース!」

占いコーナーを華麗にスルーした私たちが次に目に入ったのはクイズ研究会。
頭が悪い私は、クイズってだけで拒否反応。頭のいい公斗はやりたかったかもしれない。
だけどやっぱり私は気乗りがしなかった。休みに、しかも学祭で何が悲しくて頭を使わなきゃならないんだろ。流石は国立大学生様よ。

「ってゆーかさっきからあんたの知り合いや友達にぜんっぜん会わないわね?」

学祭に参加して軽く一時間近く経っているから、知り合いの一人や二人とすれ違っていても良いはずだ。
それがどうだろうか?これだけ大人数の参加者がいたなら公斗に声掛けてくる人が一人でもいてもいいはず。なのに全然すれ違わない。

「特に親しくしている奴はいない」
「……マジ!?」

まさかとは思っていたけど、友達がいなかった。
学祭に誘われた時、もしかしたら私を彼女として大学の友達に紹介してくれるつもりかも、なんて少しは期待をしていたけど、あっさり玉砕!
まぁ仕方ないわよね。クソ真面目で社交性無いガリ勉くんだもん。勉強が出来る環境であれば友達は作らなくてもいい。そんな性格。その辺は前世と全く変わらないわね。不器用と言うか、一途と言うか。
それに高校までとは違って大学は自分で講義って奴を選択して組めるらしいし、何なら人数も多いから中々友達って作れないのかもね。

「衛とお前がいる。それだけでいい」

本音なんだろうけど、それでいいのか?
本当に私たち以外の友達切ってそうで怖いわ。私は今も小中学生の時の友達も大切にしてるし、時々あってるのに。この違いは何?
ま、こいつがこれでいいなら私は何も言わないけどさ。

「あ、漫研あるじゃん!入ろ!」

彼のテリトリーで彼女を友達に紹介と言うイベントが発生しない事にガッカリしながらも学祭と言うイベントに全力投球していた私は、漫画研究会が出している催しに公斗を引っ張り中に入っていった。

「……低俗な」

数分後、漫画研究会を出た公斗は一言そう呟き、楽しかった私の気分を有難くも壊してくれ、現実へと戻された。
まぁね?楽しんでる私を知り目に、公斗はずっと棒立ちだったもんね。つまらないんだろうとは思っていたけどさ!

「はいはい、幼稚でごめんなさいね!じゃああんたはどれが見たいの?」
「あっちにお化け屋敷があるぞ」
「入りたいのね。はいはい、入りましょ」

素直じゃない公斗の要望に応えてお化け屋敷に入った。
その後もキャンバス内を色々と回っていた私たちは、外のステージで知らないバンドが演奏をして盛り上がっているのを遠巻きに聴いて羨ましく思っていた。
知らないバンドだから恐らく軽音楽部の素人バンドなんだろうけど、かなり盛り上がっている様子。私もステージに立って注目を浴びたい。

「……ちょっと言い難いんだけどさ?」
「何だ?キスでもして欲しいのか?」
「はあ?違うわよ!あのね、ちょっと、トイレに行きたいから、待ってて貰ってもいい?」
「ああ、何だ。漏れそうなのか?行ってこい」
「もう!デリバリー無いわね!」
「それを言うなら“デリカシー”だ」
「そうとも言うわね!」

何とも色気の無いやり取りをしながら私はトイレへと向かった。

1/3ページ
スキ